もんじゅが残した教訓は、今後の原子力政策に生かされるのでしょうか。
(科学文化部 重田八輝記者・福井放送局 藤岡信介記者)
政策の要だったもんじゅ
原子力の基本政策となる「核燃料サイクル」。福井県にある研究開発段階の高速増殖炉もんじゅは、その要となる施設でした。
エネルギー資源に乏しい日本は、原発で出る使用済み核燃料からプルトニウムを取り出し、高速炉で再び利用する核燃料サイクルを推進してきました。
目指したのは高速炉の中でも、使った以上の燃料を生み出す高速増殖炉で、当初は昭和60年代に実用化する計画でした。
しかし、もんじゅの運転開始は当初の計画より遅れて平成6年。翌年にはナトリウムが漏れる事故が起き、長期停止を余儀なくされます。
その後もトラブルや安全管理上の問題が相次ぎ、政府は、今月21日、もんじゅを廃炉にすることを正式に決定。
稼働実績はわずか250日で、この間の最大の出力も40%と、役割を十分に果たせないまま、1兆円を超える巨費が投じられた巨大国家プロジェクトに幕が下ろされたのです。
政府判断の背景は
発端は、もんじゅで相次いだ安全管理上の問題でした。
事態を重く見た原子力規制委員会は去年11月、監督官庁の文部科学省に、日本原子力研究開発機構に代わる新たな運営主体を求める異例の勧告を出します。
これに対し文部科学省は、もんじゅの存続を前提に議論し、ことし5月の時点では、「関係省庁と調整し、電力会社やメーカーの協力を得て、新しい運営主体を設立する」としていました。
しかし9月、政府は「廃炉を含めて抜本的に見直す」と、方針を転換。背景に何があったのでしょうか。
もんじゅを所管する文部科学省と、原子力政策を担当する経済産業省との間で、何度か協議が行われました。
経済産業省は、「電力会社やメーカーは原発再稼働で余裕がなく、規制委員会から重い課題を突きつけられたもんじゅに協力するとは考えにくい」「もんじゅを動かさなくても実証炉の開発は可能で、もんじゅに多額の投資をするのであれば、高速炉開発のための別の投資をした方ほうがよい」
もんじゅにこだわらなくても、核燃料サイクルの柱となる高速炉開発はできるという考えを示したのです。
文部科学省内の検討でも、もんじゅの運転を続けるには、新しい規制基準の審査や対策に長期間を要し、5400億円以上の追加費用がかかることがわかり、運転再開は難しいとする見方が強まっていきました。
こうした議論を踏まえ、政府は、時間的・経済的コストが増大しているとして、廃炉を決めました。
その一方で、核燃料サイクルを堅持するため、もんじゅの次のステップにあたる「実証炉」、つまり実用化一歩手前の高速炉の開発を続けるとしたのです。
地元に走った衝撃
地元・福井県敦賀市には大きな衝撃が走りました。
もんじゅを中核施設として、国、電力事業者、それに地元企業などが参画する「エネルギー研究開発拠点化計画」を策定するなど、原子力やエネルギーの研究を進めるまちづくりに力を入れてきたからです。
こうした状況を踏まえ政府は、もんじゅを廃炉にしたあとも、周辺を原子力の研究や人材育成の拠点となるようもんじゅの敷地内に研究炉を新たに設置するなど、地域経済に影響が出ないよう、最大限努力するとしました。
一方、福井県の西川知事は、別の理由をあげて、廃炉の方針を「容認できない」という姿勢を示しました。廃炉作業を引き続き、原子力機構に任せるとした点です。
廃炉作業に高い安全性が求められることに変わりはなく、規制委員会から、「もんじゅの運転を安全に行う資質がない」と指摘された原子力機構に任せていいのかと、疑問を呈したのです。
そのうえで、廃炉の作業に入るには県が原子力機構と結んだ安全協定をもとに、政府が丁寧に説明し、地元の納得を得なければ、進めることはできないと注文をつけました。
政府は地元の理解を得るための対応を具体化していくと応じ、来年以降も議論を続けることになりました。
廃炉作業の課題
もんじゅの廃炉作業は、およそ30年にわたって行われ、費用は少なくとも3750億円かかるとされています。
規制委員会は、今後、原子炉からの核燃料の取り出しと廃炉の計画の申請を早期に行うよう原子力機構に求める方針ですが、さまざまな課題があります。
まず、原子炉に入っている核燃料は、一般の原発と異なり、簡単には取り出せません。
370体あるもんじゅの核燃料は互いが支え合うように炉内に入っているため、崩れないよう、核燃料を取り出すごとに模擬燃料を入れる必要があり、この模擬燃料を新たに作るのにおよそ2年はかかるということです。
さらに、核燃料を取り出すための機器や装置の点検などにも時間がかかり、すべての核燃料を取り出すには5年半もの時間を要するとしているのです。
原子炉を冷やすために使われていたナトリウムも課題の1つです。
もんじゅでは、すべての燃料を取り除いたあとに回収することにしていますが、ナトリウムを保管する機器を新たに設置しなくてはなりません。
処分方法なども決まっておらず、海外のケースを参考にしながら、進めていく必要があります。国内で高速増殖炉の廃炉の経験はなく、より長い期間に及ぶ可能性があります。
規制委員会は、廃炉が安全に進むよう規制を強化するため、作業が妥当かどうかを議論する専門の監視チームの設立や廃炉に関わる法令の改正などを検討する方針です。
次の高速炉開発 課題は
廃炉となるもんじゅの代わりとして、政府は、次の実証炉の開発を目指し、年明けから開発作業の工程表の策定に入ることにしています。
開発は、フランスが建設を目指す高速炉「アストリッド」への協力などを通じ、新しい知見を得ながら進めるとしていますが、課題もあります。
平成26年からアストリッド計画に参加してきた「三菱FBRシステムズ」は、国内で唯一、高速炉の設計を専門としていますが、もんじゅを設計したベテランが次々と退職し、技術力の維持が大きな課題となっていて、アストリッドの開発協力を通じて技術力を高めようと考えています。
しかし、将来の高速炉の開発につながる海外の中核技術の設計にどこまで関われるかは、まだわかっていないといいます。
また、アストリッドは日本が進めてきた高速炉とは構造が異なるため、耐震などの問題からデータや経験をどこまでいかせるのか、専門家の中では疑問視する声もあります。
さらに、アストリッドの建設コストが日本円にして数千億円に上るとされている中、日本の政府関係者によると、建設にあたり、フランス側から費用の半分の負担を求めていると受け取れる考え方も示されたということです。
こうした状況から、アストリッドへの開発協力で、日本が費用に見あった技術やノウハウを本当に得られるのか不透明だという懸念があるのです。
十分な検証と幅広い議論を
もんじゅの廃炉を決めた日、松野文部科学大臣は、記者会見で、「必ずしも、当初期待された成果まで至らなかったことは事実だが、私自身は一定の成果だったと判断している」と述べました。
確かにもんじゅを設計・建設して、最大40%の出力で運転したデータが取れたというのは事実ですが、運転を長期間続けて、安全を維持するための技術が確立されたかというと、部分的と言わざるを得ません。
国は、必要最低限の知見を得るためには、100%の出力で5年前後、運転を行う必要があるとしていました。
それができずに廃炉が決まったのでは、「失敗だった」と評価されても、しかたありません。
そのような状況で、政府は、一足飛びに実証炉に進もうとしています。
国の原子力委員会の委員長代理を務めた長崎大学の鈴木達治郎教授は、「高速炉開発の途上にあるもんじゅが十分な成果をあげられずに廃炉になった今、もんじゅの教訓を十分に検証し、その次のステップに進むのが妥当かどうか、根本的な政策の見直しの議論をさまざまな立場の人が参画する開かれた場で行うべきだ」と指摘しています。
福島第一原発の廃炉や事故の賠償などの費用が21兆円以上に膨らむ見通しが示されている中、高速炉の開発や核燃料サイクルの確立は、今後も多額の費用を投じようという大きな問題です。
もんじゅが残した教訓を十分に踏まえ、幅広い議論を行った上で、地元や国民に丁寧に説明することが求められています。
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