トランプ次期米大統領が環太平洋パートナーシップ協定(TPP)から離脱すると明言した。来年1月20日の就任日に参加国に通知するという。日米などが自由貿易圏を目指すTPPの発効は絶望的になった。
保護主義が持論のトランプ氏は代わりに2国間の貿易協定に向けて交渉する意向を示した。「米国第一」を掲げ、自国利益を優先する構えだが、それでは貿易は停滞してしまう。米国の利益にもならない。
トランプ氏は大統領選でTPPについて「米国の雇用が失われる」と批判してきた。今回は、2国間の貿易協定を通じて「雇用と産業を米国に取り戻す」と強調した。
TPP交渉には12カ国が参加し、新興国が連携して米国の自由化要求に対抗する場面もあった。トランプ氏は、2国間交渉なら、世界最大の経済力を背景に米国に有利な主張を通しやすいとみて、日本などに個別に自由貿易協定(FTA)の締結を求めてくる可能性がある。
通常の2国間の自由貿易協定は、互いに市場を開放して輸出を増やすなど両国に自由化効果を及ぼす。
だが、トランプ氏は大統領選で日本車をやり玉に挙げ、メキシコや中国の製品とともに高関税を課すと主張してきた。「米国第一」主義も踏まえると、一方的な市場開放要求を突きつけたり、保護主義的政策を盛り込んできたりする恐れがある。
2国間交渉で自国の産業を保護しようとしても、効果は乏しい。
1980~90年代の日米自動車摩擦で米国は日本に市場開放や輸出規制を迫った。日本も応じたが、米自動車産業は衰退が続き、最大手のゼネラル・モーターズ(GM)などは破綻した。自力で競争力を回復させる機運が高まらなかったからだ。
TPPはアジア太平洋地域の貿易や投資で高水準の自由化を図るため、多国間で包括的なルールを定めるものだ。世界の経済規模の約4割を占める自由貿易圏が誕生すれば、参加国は成長の果実を分け合える。
米オバマ政権がTPPを推進したのは、自由化で得られる国益の方が大きいと判断したためだ。得意分野の情報技術(IT)関連製品などの輸出を拡大し、米国の経済成長を加速する効果が見込める。
米国も含めたTPP参加12カ国はペルーで開いた首脳会合で早期発効が重要との認識で一致した。安倍晋三首相は「米国抜きでは意味がない」と述べている。
日本は米国とTPPを主導してきた。発効は厳しい情勢だが、参加国の結束を強め、トランプ氏に粘り強く再考を働きかけるべきだ。