ペルーで安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領が会談した。12月のプーチン氏の訪日へ向けた弾みにするはずだったが、空気が微妙に変わっているかもしれない。
安倍首相は会談後、平和条約交渉について「そう簡単ではない」と厳しい表情で語った。今年5月と9月の首脳会談で、北方領土問題打開への「手応え」を強調していたのとは対照的だった。
日本で高まる期待を鎮静化しようという意図かもしれない。しかし、ロシア側の態度が予想以上に硬かったことの表れともとれる。
安倍首相の思惑通りに協議が進んでいないとすれば、その背景として二つの要因が考えられる。
一つは、米大統領選で対露関係の改善を訴えてきたトランプ氏が勝利したことだ。
日露の接近を警戒していた米国が軟化し、経済協力は進めやすくなるかもしれない。だがその一方で、ロシアにはこれまで、領土問題で譲歩姿勢を見せて日本を引きつけることで、ロシアに対し強硬なオバマ政権をけん制しようという思惑もあったことに留意すべきだ。日本は米国が主導する対露制裁に加わっている。 その日本がプーチン氏を招待することを国際社会に見せつけ、日米欧の結束を揺さぶろうというロシア側の戦略があっただろう。ところが、米国そのものがロシアへの強硬姿勢を変えることになれば、日本の戦略的価値は低下する。
もう一つは、日本との経済協力の窓口だったロシアのウリュカエフ経済発展相が収賄容疑で拘束され、解任されたことだ。リベラル派の経済官僚と強硬派の治安機関出身者との指導部内の路線対立が背景にあるとの見方がある。強硬派の中に、日本との関係改善が領土問題での譲歩につながることへの警戒心があるとすれば、プーチン氏がこうした勢力を抑えて領土問題で決断できるのかという疑問も出てくる。
プーチン氏は今回の会談後、北方四島の主権はロシアにあると改めて強調したうえで、四島での共同経済活動について議論したことを明かした。9月の首脳会談でも、共同経済活動が議論されたことをラブロフ外相が示唆している。ロシア側が何度も持ちかけてきたが、ロシアの法制度に従って活動することは受け入れられないとして日本側が拒否してきた提案だ。ロシア側には、四島の帰属問題を棚上げにして、共同経済活動を交渉の焦点にしようという意図があるのではないか。
日露関係を取り巻く新たな状況が交渉に影響を与えることはないか。日本はロシア側の姿勢を見極めて交渉に臨む必要があるだろう。