すべての国が協力し、地球温暖化対策に取り組むことを掲げるパリ協定の行方に影が差している。
米国のトランプ次期大統領が「温暖化はでっち上げ」と公言し、協定からの離脱を表明してきたからだ。
しかし、化石燃料の消費による二酸化炭素(CO2)の排出が温暖化を招いていることは、国際社会の共通認識だ。温暖化がもたらす異常気象や自然災害は貧困層を直撃する。それが難民や紛争を生み、テロの温床ともなる。温暖化に「国境の壁」はなく、米国も影響を免れない。
各国と手を携えて対策に取り組むことが米の国益にもかなう。長年の交渉を経てまとまった歴史的合意をほごにすることは認められない。
トランプ氏は大統領選で、パリ協定からの離脱に加え、途上国の温暖化対策を支援する国連のプログラムへの資金拠出を停止すると訴えていた。オバマ大統領が進めた火力発電所のCO2排出規制策「クリーンパワー計画」も廃止するという。石炭産業などを保護するためだ。
パリ協定は、CO2の2大排出国である米中が今年9月に批准したことで、採択から1年足らずで発効にこぎ着けた。協定の規定に従えば、発効後4年間は離脱できない。
それでも、トランプ氏が国内規制の緩和や国連への資金拠出停止をすることは可能だ。これは、世界の温暖化対策にとってマイナスとなる。
再生可能エネルギーの導入など脱炭素社会への転換で経済成長を目指すことが世界の潮流となってきた。
モロッコで開かれた国連の気候変動枠組み条約第22回締約国会議(COP22)とパリ協定第1回締約国会議(CMA1)の参加国は共同で「温暖化対策の流れは覆らない。各国は最大限の政治的努力をすべきだ」と宣言した。ナイキやデュポンなど米企業もトランプ氏にパリ協定への残留を求める声明を出し、「正しい行動は雇用を生み、米国の競争力を向上させる」と訴えた。
脱炭素社会に向かう世界を主導することこそが、「米国を再び偉大な国にする」というトランプ氏の主張にも沿うはずだ。
COP22では2018年までにパリ協定の詳細なルールを決めるための工程表が採択された。交渉を着実に前進させることで、世界全体でパリ協定を守るという意志を示し、トランプ氏に翻意を促すべきだ。
パリ協定の批准が遅れた日本は、国内の温室効果ガス排出削減対策を強化するとともに、トランプ氏に対して協定への参加を働きかけ続けることで、存在感を高めていく必要がある。