その手記は思いを振り絞るような「告発」である。
2011年の福島第1原発事故で福島県から一家で自主避難し、横浜の市立小学校に転校した男児がいじめられ、不登校になった。
今、中学1年の生徒は、昨年書いた手記を公表し、偏見と暴力を向けられ孤立した苦悩や、学校が対応してくれなかったことを訴えた。
<いままでなんかいも死のうとおもった。でも、しんさい(震災)でいっぱい死んだからつらいけどぼくはいきるときめた>
同級生たちによるいじめは、小学2年で転校した直後から始まる。名に「菌」を付けて呼ばれた。
<ばいきんあつかいされて、ほうしゃのう(放射能)だとおもっていつもつらかった。福島の人はいじめられるとおもった>
いじめは暴力化する。
5年生の時には「賠償金があるだろう」と言いがかりをつけられ、家の生活費を何度も持ち出し、遊びに払わされた。
いじめ防止対策推進法(13年施行)は、こうした深刻な状況を「重大事態」とし、学校や教育委員会にただちに対応する調査組織の設置などを義務づけている。
しかし、14年、いじめ被害を察知した保護者が学校に相談しても、学校は重大事態とはとらえない。保護者が市教委に調査を改めて訴え、ようやく第三者委員会が今年、本格的な調査に入った。
今月出た報告書は学校や市教委のあまりに鈍い対応を「教育の放棄に等しい」と厳しく批判している。
生徒の学校に対する不信感も大きい。手記にはこうある。
<いままでいろんなはなしをしてきたけどしんよう(信用)してくれなかった。なんかいもせんせいに言(お)うとするとむしされてた>
文部科学省の集計では、昨年度認知された全国の小中高校、特別支援学校のいじめは22万4540件で過去最多だった。
地域によってばらつきが大きく、文科省はなお見落としがあるとみているが、今回は保護者の相談など情報がありながら、適切な組織的対応がとられなかった。深刻な事態だ。
横浜市教委は、いち早く各小学校に児童支援専任教諭を置くなど、いじめや暴力問題に取り組んできた。法や制度を生かすには、学校全体の情報の伝達や共有、連携のあり方の充実、工夫も問われよう。
また、今回の問題は、社会への重い警鐘でもある。
いじめを繰り返した子供たちの偏見はどこに由来するのか考えたい。子供は大人社会を映すという。
心しなければならない。