アジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議があすからペルーで開かれる。保護貿易主義を唱えるドナルド・トランプ氏の米大統領就任を控え、自由貿易推進の意思を一層明確にすることが不可欠だ。
保護主義の台頭を抑止するため、APECは結束を強めてほしい。
日米中など21カ国・地域が参加するAPECは、域内全体をカバーする自由貿易圏の創設を目指している。日米などの環太平洋パートナーシップ協定(TPP)は、その基礎の一つと位置づけられている。
中国は、米国が入らない自由貿易交渉を進めている。日中韓やインドなどの東アジア地域包括的経済連携(RCEP)だ。アジア太平洋地域の経済連携を巡って、米中が主導権争いをしてきたが、TPP離脱を公約したトランプ氏の大統領選勝利で状況は一変した。
米中の思惑は異なるが、APECとして反保護主義の姿勢は共有してきた。昨年の首脳会議は「貿易自由化は経済成長の原動力」との認識で一致した。その重要性をトランプ政権発足前に確認することが必要だ。
自由貿易に伴う失業増など負の側面にも、もっと目を向けるべきだろう。首脳宣言に就労支援の充実などを盛り込んできたが、より強く打ち出してもいいのではないか。
アジア太平洋地域の自由貿易圏に向けた経済連携で合意に至ったのはTPPだけだ。トランプ氏勝利を受けて、メキシコやペルーは米国抜きの発効や新協定を提案している。
だが、TPPで経済規模の約6割を占める米国が加わらなければ、効果は大幅にそがれる。高水準の貿易自由化に加え、知的財産の保護や国有企業への優遇撤廃など包括的な通商ルールを推進したのも米国だ。
オバマ政権がTPPを主導したのは米国の利益になるからだ。TPP参加国はAPECに合わせて首脳会合を開く。TPP参加の鍵を握る米議会などの理解を得られるよう意義をアピールしてほしい。
一方、安倍晋三首相は国会で「TPPが進まなければ(アジア太平洋地域の)軸足がRCEPに移るのは間違いない」と述べた。対中警戒感が強い首相にとって、中国の影響力拡大につながる状況になるのは不本意なのだろう。
米国はこれまでTPPを対中けん制策として用い、首相も同調してきた。しかし、アジア太平洋地域の発展は中国抜きでは考えにくい。
もっともRCEPは貿易自由化の水準などでTPPを下回るとみられている。中国が競争力の弱い国有企業などを抱えているためだ。日本は中国に改革を促し、水準を高める役割も積極的に果たすべきだ。