厳しい治安情勢のもと、自衛隊の難しい運用が始まる。
政府は、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣する陸上自衛隊の施設部隊に対し、「駆け付け警護」という新しい任務を付与する実施計画を閣議決定した。
新任務の付与は、昨年9月に安全保障関連法が成立したことで可能になった。安保関連法のうち、私たちは集団的自衛権の行使容認や重要影響事態法には反対してきたが、国際協力活動の意義は認めてきた。
ただ、南スーダンの治安は、事実上の内戦状態と言われるほど厳しい。国連のディエン事務総長特別顧問は「ジェノサイド(大量虐殺)になる危険がある」と語り、潘基文事務総長は報告書で「カオス(混沌(こんとん))に陥る」との所見を示した。
日本政府は、自衛隊が活動する首都ジュバとその周辺は比較的安定していると言う。受け入れ国の同意は維持され、武力紛争は起きていないとして、PKO参加5原則は維持されていると強調する。だがPKO法上の解釈がどうであれ、治安の悪化は深刻だ。ジュバ周辺は今は平穏でも、状況は不安定で流動的だ。
そんな南スーダンで駆け付け警護を行うことには、かなりの危険が伴う。現地では、政府軍と反政府軍の衝突に加え、政府軍が国連関係者らを襲撃する事件まで起きている。
駆け付け警護で、自衛隊が武器を使う際、相手に危害を加えていいのは正当防衛などに限られる。それでもいったん武器を使えば、戦闘に巻き込まれる可能性は否定できない。
ジュバ市内には、約20人の日本人がいる。仮に在留邦人や国連職員らが武装集団に襲われた場合、素早く対応できる部隊が他におらず、自衛隊の施設部隊が近くで活動していたとしたら、自衛隊が武器を持って駆け付けて救出しなければならないケースがあるかもしれない。
駆け付け警護には、確かにリスクはある。だが、特殊な訓練を受けた自衛隊にしかできない任務であることも事実だ。人命尊重を考えると、厳しい歯止めをかけたうえで、極めて慎重に判断し、運用することが最低限の条件だ。
任務付与といっても、必ずやらなければならないということではなく、実施するかどうかは、状況を見て部隊長が判断する。自衛隊の能力を超える場合は、救援要請を断るしかない。
安倍晋三首相は「PKO参加5原則が満たされている場合でも、安全を確保しつつ有意義な活動を実施することが困難と判断する場合には、撤収をちゅうちょすることはない」と語った。政府は現地の治安情勢を正確に把握し、状況次第で撤収を決断する覚悟も必要だ。