天皇陛下の退位に関する有識者会議の専門家ヒアリングが終わり、論点がほぼ出そろった。退位そのものへの賛否から、退位を認める場合の法的手法の違いまで意見は多様だ。
有識者会議は幅広い論点を整理し年明けに公表する予定だ。高齢化社会の天皇の在り方について、国民がともに考え、世論の合意形成を促すための土台とすべきだ。
ヒアリングは先月、3回にわたり計16人の専門家から行い、退位の可否や公務の在り方などについてさまざまな意見が表明された。最終日の会合後、御厨貴・座長代理は「意見は相当拡散しているが、論点をうまく出していけば議論を寄せていくことは可能ではないか」と述べた。
退位を巡っては、賛成・容認と反対・慎重にほぼ二分された。賛成派は立法措置で実現可能だとし、反対派は現行法にある摂政などで対応できるという立場だ。
大きくいえば、国民の前に姿を見せて活動する今の象徴天皇像を支持するか、存在自体が貴重とする復古的な天皇像を理想とするかという見解の違いが背景にある。
さらに複雑なのは賛否両派の内部も意見が枝分かれしていることだ。
賛成派は「高齢退位」を認める点では一致しても、陛下一代に限る特別措置法制定と、恒久制度化するための皇室典範改正に手法は分かれる。退位年齢を75歳や80歳に設定する案もあったが、健康状態や意思は天皇によって異なり、なじまない。
反対派も、摂政設置は現行法の要件緩和でできるという意見と、皇室典範に「高齢」規定を追加すべきだという意見に分かれた。摂政は必要なく、国事行為を一時的に天皇に代わって行う臨時代行の拡大で対応すればいいという考えも示された。
一方、賛否両派から提言があったのは公務の軽減だ。陛下は被災地訪問など国事行為以外の活動である公的行為を拡大し、いまの象徴像を作り上げてきたが、活動の幅や量を固定せず、天皇によって柔軟に対応していいという考えだ。
加齢とともに負担を軽減するのは当然だが、だからといって「天皇はいるだけでいい」という意見は、陛下が築いた象徴像に敬意を抱く国民の意識とかけ離れていないか。
退位を認めれば皇位継承の時期が早まり、女系天皇など将来の皇室の在り方にも関係するといった発言もあった。安定的な皇位継承の観点からは避けて通れない議論だ。
有識者会議での意見集約と同時に政府は国会の議論も参考にし、来年春ごろに方針を示すという。
まずは論点整理の作業を踏まえ、国民の総意に向けた議論を起こしていきたい。