2011年7月4日
対人関係と自己制御の能力が低下
親学講演会で高橋明星大学教授
「親学講演会」(主催・沖縄の教育を考える会)がこのほど、沖縄県の豊見城市中央公民館で開かれ、親学推進協会(会長、木村治美・共立女子大学名誉教授)理事長の高橋史朗明星大学教授が講演。東日本大震災で世界は日本の良さを見直したものの、教育や子育てをめぐる環境は悪化の一途をたどっていると指摘し、人と人の絆を取り戻すことの大切さを訴えた。以下は講演の要旨。
(豊田 剛)
人の絆が教育再生の鍵
学力差はつながりの格差

講演する高橋史朗明星大学教授=6月18日、沖縄県豊見城市中央公民館
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東日本大震災で世界は一様に日本を高く評価した。2005年にカトリーナというハリケーンが米南部を襲った時、略奪が起きた。これに関し、米CNNは「日本では略奪のような行動はショッキングなほど皆無だ。なぜ日本では略奪が起きないのか。日本の文化が、品性に基づいているからだ」と締めくくった。
中国の新聞の中には、「日本の大地震はわれわれに何を告げたか」と題する記事を紹介。「日本人の教師は中国の研修生をまず逃がし、自分は最後に電気を消して部屋を出て、避難中に犠牲になった」と伝えた。
台湾からは200億円の義援金が寄せられた。李登輝元総統は台湾の月刊誌で「台湾は日本への恩義を忘れない」と述べている。韓国の中央日報は、「惨事でも配慮を忘れない文化に世界が驚いた」と書いた。
さらに、米ジョージタウン大学のケビン・ドーク教授は、「日本国民が自制や自己犠牲の精神で震災に対応した様子は広い意味で日本の文化を痛感させた。日本の文化や伝統も米軍の占領政策などによりかなり変えられたと思っていたが、文化の核の部分は決して変わらないのだと今回、思わされた」と語った。
阪神淡路大震災をきっかけに心の教育が広がった。東日本大震災というさらなる悲劇を日本の再生、教育の再生につなげていくべきだ。
小学校1年生の「将来、どういう人間になりたいか」というランキングで、「お父さんのようになりたい」というのは、長年、ほんの僅かしかいない。父親は家庭で存在感がないのである。
保育士のアンケートによれば、幼児に二つの変化が起きてきている。第一は、対人関係能力がなかなか発達しないこと。集団遊びができず、うまく人と交われない。家庭への愛着が乏しくなり、相手の痛みが分かる共感性がなくなった。もう一つは、情緒が不安定で自己制御能力が未発達な点である。
その原因は、親が変わったからだ。言い換えれば、親が(子供が乗り越えるべき)壁にならなくなったからである。
医学博士の岡田尊司氏が書いた『脳内汚染』というベストセラーによると、子供の脳の中が汚染されている。内なる環境破壊である。テレビ(ゲーム)などの影響から、睡眠、食生活での基本的生活習慣が乱れていることが原因だ。
先進国の子供たちの睡眠を比較すると、日本の子供たちだけが飛び抜けて夜型になってしまっている。
また、日本の子供たちの朝食と学力の関係を見ると、小中学生のどの教科を見ても、朝食を食べる子供の学力の方が必ず高いという結果が出ている。
子供の「幸せのものさし」は、人間関係、特に、家族の温もりが感じられることである。中心を「経済のものさし」から「幸せのものさし」に取り戻していかなければならない。合理化、効率化よりも子供の本当の利益を優先させなければならない。
欧米では人生を切り開き社会参加する力を重視する。人間力、社会人の基礎力と呼ばれるもので、人間的な総合的な力を重視する。その学力と日本のいう学力は、認識が異なるのである。
全国一斉学力テストで、福井県は常に上位に位置している。その理由は、(1)3世代家族が多く、祖父母が心を込めて孫に関わっている(2)教師が熱心に指導している(3)卒業生全員が地元の体育祭に参加するなど地域の絆が守られている――といった点がある。
家庭、地域、学校のつながりが非常に強い。学力の原因は、これまで言われているような年収の格差というより、つながりの格差であることが分かった。
発達心理学の最新の知見によると、共感性、恥、罪悪感が育つのは2歳の終わりである。いじめの根っ子にあるのは、痛みが分からないことだ。3歳までに痛みが分からないといけない。
会津藩の藩士の子弟教育に「什の掟」というものがあった。小学校に入る前に、その掟の神髄である「ならぬものはならぬ」という教育が行われていないのが問題だ。「小1プロブレム(問題)」という言葉があるが、普遍的な道義や規範が家庭で教えられていない。
親子の関係は、手本としての鑑と、映し出す鏡の関係である。「子は親の鏡」と言う。子供に問題があるのは、親を反映しているからだ。「親は子の鑑」であり、子供のお手本にならなければいけない。