未成年時の喫煙体験を中高生相手に語ったのをきっかけにした兵庫県西宮市の今村岳司市長(44)の言動には疑問を感じざるを得ない。
今村市長は先月末、市が主催した中学生と高校生のグループ討論に参加した。その際、自らの中高生時代を振り返り「校内の部屋の鍵を盗んで合鍵を作り、そこで自由にたばこが吸えて楽器が弾けた」と語った。
喫煙体験に触れなくても若者の心に響くメッセージは伝えられる。不用意といえる発言に対し、女性市議が議会の一般質問で批判すると、今村市長は自分のブログに「『お下品ザマス!』って言っている女教師みたい」と書き込んだ。
市議会は、未成年を対象にした公的行事での発言は問題が大きいとして、発言の撤回と謝罪を求める決議を全会一致で可決した。決議はブログの記述についても「議員をからかい、侮るものだ」と指摘し改めるよう求めた。
市長はブログの表現は修正した。一方で「たばこを吸っていいというメッセージを発したつもりはない」と説明し、発言の撤回と謝罪は拒否した。公人として分別が足りないのではないか。
議会とここまでこじれるのは、議会との不正常な関係が背景にある。
阪神大震災の被災者の住まいとして借り上げた復興住宅の入居期限が切れたため、明け渡し訴訟を起こす議案を出した時のことだ。提訴という強硬姿勢に議長は「他者を理解し、共感する姿勢に欠けている」という声明を出し、議会は全会一致で同意した。議会との対話を大切にして政策を進めるべきだ。
今村市長はメディア対応でも批判を浴びたことがある。昨年1月、市が「偏向報道」と判断すれば、その報道機関の取材を拒否するという方針を示した。テレビ局の取材時に市職員を立ち会わせビデオ撮影をさせたこともある。
そうした姿勢は公人として不適切と言えるだろう。後に「偏向報道」「取材拒否」の文言を撤回したものの方針は変えていない。
議論を呼ぶような重要施策について市の見解を発表する場合、記者会見よりもホームページへの文書掲載を優先する方針も示した。だが、質問を受け付けない姿勢は誠実とは言えないのではないか。
今村市長は会社員を経て市議を4期務め、2014年の市長選で、自民、公明、民主(当時)が推薦する現職を破り初当選した。
既成の政党や団体の支援を受けない市民派市長の誕生に期待が高まったが、こうした言動が続けば新鮮なイメージも色あせる。政治家としての見識を深めてもらいたい。