【特集】「真珠湾」の真実と虚構

国と国との和解とは

画像1941年12月、ハワイの真珠湾で日本軍の攻撃を受け炎上、沈没する米戦艦アリゾナ(アリゾナ記念館蔵)画像沈没した戦艦アリゾナの上に立っているアリゾナ記念館(手前)。奥は降伏文書調印式が行われた戦艦ミズーリ(ロイター=共同)画像今年5月、広島市の平和記念公園で演説するオバマ米大統領と安倍首相画像左から杉原誠四郎氏、加瀬英明氏、青山繁晴氏

 日本の安倍晋三首相と米国のオバマ大統領が75年前に日米開戦の発端の地となった米ハワイの真珠湾を訪問する。今年5月の被爆地、広島に続く両首脳による戦争犠牲者の慰霊で、「日米の完全な和解」「日本の『戦後』の終わり」につながるかが注目される。真珠湾攻撃とはどんなものだったのか、戦火を交えた国と国との和解とは何なのか。改めて考える。

 ▽国民への裏切り

 2001年、ニューヨークの高層ビルに旅客機が突っ込むなどした米中枢同時テロ。直後から米国のメディアや政治家から「(宣戦布告がなかった)真珠湾攻撃以来の奇襲」との声が湧き上がった。これに面食らった日本人は多いだろう。「これほど根に持っていたのか」という驚きだ。

 真珠湾攻撃の翌日、ルーズベルト米大統領は「汚辱の日」と語った。ただ実際のところは、日本側は攻撃開始の30分前に宣戦布告とされる文書を米側に手渡すはずが、ワシントンの日本大使館の不手際で1時間以上遅れ「だまし討ち」になったものだ。日本の外務省は1994年に事実を認め「申し開きの余地のないもの」との見解を発表した。

 歴史研究家の杉原誠四郎氏(75)は「見解を出して済む話じゃない。本来は国会で謝罪すべきだ」と批判。「さらに問題なのは直接の責任者2人を戦後早い時期に外務次官に栄達させたこと。国民を侮辱する裏切り行為だ」と憤る。

 「国家的運命が掛かった局面での責任追及をあいまいにしたことの禍根は大きい」と杉原氏。「外務省は不手際を隠すため、先の大戦を論じる際に『軍部が起こした』『外務省も被害者』という前提を置くようになった」からだ。いわゆる「戦勝国史観」にも通じる立場。杉原氏は「占領が終わっても、ずっとその史観が残るのは日本の中にそれを維持する構造があるから」と指摘した。

 杉原氏は今回の真珠湾訪問をこうした問題を総ざらいする契機にすべきだと話す。「さもないと『和解』と言ってもどこかにごまかしが残る」と訴えた。

 ▽センチメンタル

 開戦時の東郷茂徳外相の政務秘書官、加瀬俊一氏の長男で外交評論家の加瀬英明氏(80)は「あそこまで圧迫されれば開戦は避けられなかった」との立場だ。当時米国は日本と対立していた中華民国の蒋介石軍に軍事援助を与える一方、日本には石油禁輸などを科し1941年11月末には「最後通牒」とも受け取れる「ハル・ノート」を突き付けた。

 結果的に戦線が拡大し敗戦に至った日本は、戦後「軽武装・経済重視」の「吉田(茂)ドクトリン」を国家運営・外交の柱にした。戦後日本の繁栄をもたらしたとされるドクトリンだが、加瀬氏は「評価はまだ早い。日本国民はあれで国防を真剣に考えなくなった。もし今後中国や朝鮮半島から核ミサイルが飛んでくるようなことがあれば、あれは間違いだったとなる」と話した。

 加瀬氏はそうした戦後史や米国が内向き志向を強める現在の国際情勢の文脈から、今回の真珠湾訪問を「タイムリーなもの」と評価する。加瀬氏は「国と国に『真の和解』などというセンチメンタルなものはない」と断言。その上で「日米がアジア太平洋地区で二人三脚をしていく土台として、両国が兄弟のようなイメージを出す『演出』として意義がある」と説明した。

 ▽フェアネス

 米国人は和解にどう向き合うのか。危機管理の専門家として米国の政官軍各界と接触がある青山繁晴参議院議員(64)は、米国には真珠湾攻撃に対する二通りの受け止めがあるという。一つは「卑怯な攻撃で米国の若者が犠牲になった」という見方、もう一つは「宣戦布告は遅れたが、真珠湾での日本軍の戦いはフェアだった」と評価するものだ。

 青山氏によると、米本土やハワイのアリゾナ記念館の展示は前者のトーンだが、対岸にある政府施設のビジターセンターは後者。入り口の説明版には「日米双方とも国益を追求し、双方とも戦争を避けようとしたが、衝突コースに乗った」との趣旨が客観的な筆致で記されている。真珠湾攻撃については日本軍の空母「赤城」など艦船や兵器の性能、兵員のモラル(士気)が優れていたことが説明されている。

 こうした見方は米国の士官学校などでも教育されており、特に軍関係者の間では常識となっているという。20代のころ初めてビジターセンターを訪れ「学校で教わってきたことと違う」とショックを受けたと打ち明ける青山氏。「日本人自身が誤解していることを、米国が評価するというのは大変なこと。これこそ米国流の『フェアネス(公正さ)』そのもの」と話した。

 青山氏は「米国にこの土台があるからこそ、両首脳が広島や真珠湾を共に訪れることができる」と話す。「第2次大戦で実質的に最後まで戦ったのは日米。両国の和解は『戦後』の枠組みが崩れ次の秩序を模索する世界に深甚な影響を与えるはずだ」と見通した。(共同通信=松村圭)

あなたにおすすめ