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「PK」はご法度-英プレミアリーグ米国人監督、「英語」を学ぶ

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スウォンジー・シティの米国人監督であるボブ・ブラッドリー氏は元米国代表監督 Photo: Andrew Couldridge/Zuma Press

 その失言に全く悪意はなかった。英イングランドのサッカー1部リーグ(プレミアリーグ)に属すスウォンジー・シティの米国人監督であるボブ・ブラッドリー氏は最近、試合後に行われた英国放送協会(BBC)とのインタビューで負けを嘆いた際、ペナルティー・キックのことをうっかり「PK(ピーケー)」と言ってしまった。

 彼はすぐにイングランド流に「ペナルティー」と言い直したのだが、すでに手遅れだった。イングランドの一握りのサッカーファンはソーシャルメディア上で即座にそれに飛びついた。ブラッドリー氏はファンたちに対して重い罪を犯した。それは、サッカーを語る時に、アメリカ英語を使うことだ。

 プレミアリーグには、同氏以前に、英国人でない監督もイギリス英語を話さない監督も50人以上いた。だが、そんなことはファンに関係ない。彼が米プリンストン大学で教育を受けたことも、ファンからすればお構いなしだ。同氏にはニュージャージーなまりがある。イングランドのファンたちは、彼が「アウェー」ではなく「オン・ザ・ロード」といった言い方をするたびに、彼にかみつくのだ。

 こういった言葉のラフプレーには、1つ問題がある。ブラッドリー氏は、実際には英国式の用語を使っている方が多いのだ。

 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、ブラッドリー氏が本当によそ者のような話し方をしているのかを調べるため、10月初めに監督に就任して以降の試合前後の記者会見を精査した。またBBCで土曜の夜に放送されているサッカー番組「マッチ・オブ・ザ・デイ」での同氏のインタビューも全て調べた。

 計4時間22分の画像を精査したところ、彼のサッカー用語は多くの場合、一般的なイングランド人のものと一致していた。同氏は無失点(米国ではシャットアウト)のことは「クリーン・シート」、ロッカー・ルームは「ドレッシング・ルーム」、ファンは「サポーター」、そして練習(プラクティス)は「トレーニング」と呼んでいた。

 そして何より、彼は一度も「サッカー」という言葉を使っていなかった(イングランド方式では「フットボール」という)。

 なまり(ないし米国固有の言葉)に関してこれほど厳しい目を注がれる監督はほとんどいない。全く英語を話せないでやって来る監督でさえ、これほど厳しい目にはさらされない。だが、プレミアリーグ史上初の米国人監督であるブラッドリー氏は、英語という言語を共有する責任を負わされている格好だ。

 ブラッドリー氏は今月、「わたしのなまりが好きでないと言って、初日からわたしを締め出す人がいた」ことを明らかにした。「そんなやつこそ、どこかへ消え失せればいい。どうでも良いことなのだから」

 それでも、彼はいくつかのささいなことをうまく処理して乗り切っている。Tottenham(米語ではトッテンハム)の発音は正確に「トットナム」に直したし、teamの代名詞は米国式の単数代名詞(itなど)ではなく、複数代名詞(theyなど)を使うようにした。彼はまた、そもそも引き分けが嫌悪される米国のスポーツ界では直接該当する用語がない言い回しを使っている。例えば「result(結果)」という言葉がそれだ。ブラッドリー氏は記者会見でこの言葉を30回以上使っている。イングランドのサッカーでは、勝つと勝ち点が3、引き分けだと1もらえる。そこで「result」は負け以外のもの(つまり、勝利ないし引き分け)を意味することが多い。

 ただし、ブラッドリー氏から抜け切れていないように見える米国なまりが1つある。それは、リーグそのものの名称、つまりEnglish Premier Leagueの発音だ。英国人は2語目のpremierを「PREM-yair(プレにアクセント)」と発音するが、米国人はブラッドリー氏を含め、「pre-MEER(ミアにアクセント)」と発音する。

 ブラッドリー氏は英国での生活に慣れることについて、「ここのフィールド(ちなみに英国式だとピッチ)の中と外で、何がうまくいくのか依然として暗中模索だ」と話す。

 とはいうものの、今季英国で発せられた最も米国的な言い回しは、ブラッドリー氏の口から出た言葉でなかった可能性がある。それはマンチェスター・シティのスペイン人監督、ジョゼップ・グアルディオラ氏から発せられた言葉で、ニューヨークで1年間暮らしたことがある同監督は18日、ヤヤ・トゥーレ選手のパフォーマンスを高く評価してこう叫んだ。「He was awesome(彼はすごかった)」。そこには、米国の影響が大きくにじみ出ていた。

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