記者がカトリック大学の関係者から聞いた話だ。今年9月に家庭の事情が苦しい10人の学生に奨学金を授与することが決まり、その授与式を行うことになった。ところがある学生が「その時間はアルバイトが入っている」と言って困った顔をした。長い間複数のアルバイトを掛け持ちしてきた学生だった。また別の学生は「祖母と二人暮らしだが、祖母が体調を崩しているので授与式への出席は難しい」と言った。学生たちが置かれた状況はわれわれの想像以上に大変なようだ。昨日はあるメディアにコンビニでアルバイトをしている学生の話が掲載されていた。その学生は夜中の暖房費を節約するため、勤務時間をあえて深夜0時から朝8時までにしているという。
蔚山市内のある飲食店の経営者が今年1月、アルバイトの賃金1200万ウォン(約120万円)を横領したとして逮捕された。体調を崩して出勤できなかったアルバイト学生に「営業面で損害が発生した」として日当の数倍の額を賃金から差し引いていたのだ。昨年もソウル市内のあるファストフード店の前で、数十人の若者が抗議行動を行った。その店から解雇された若者は「会社は手当を支払わないようにするためにローテーション表を後から勝手に書き換えた」と主張していた。ソウル市内のイタリア料理店でアルバイトしていたある若者はある日1分遅刻したところ、社長から「1分遅刻したら30分に相当する時給を減らされることを知っているだろう」と言われ、その場で仕事をやめたという。
韓国におけるワーキングプアの実態を告発した『人間の条件』という本がある。これは著者のハン・スンテ氏が2007年から5年間、かに漁船、コンビニ、ガソリンスタンド、ビニールハウスなどさまざまな仕事を転々としながら体験した内容をつづったノンフィクションだ。この本には次のようなことも書かれている。ハン氏がコンビニでアルバイトするため面接に行ったところ、店長から「時給はいくらだと思うか」と尋ねられたので、ハン氏は「3700ウォン(約370円)くらいと思います」と言った。この額は当時の最低賃金だった。ところがこれを聞いた店長は顔色を変えた。ハン氏は「絶対にそれだけ受け取りたいという意味ではない」と言おうとしたところ、店長から「コンビニではそんなに支払えない」とはっきり言われたので「ではもらえるだけでいいです」と言わざるを得なかったったという。
外食チェーンを運営するEランドグループは昨年10月から1年間、アルバイトとして雇用している4万4000人に支払う賃金84億ウォン(約8億3000万円)を横領したとして摘発された。このチェーン店は全国360店舗で有給休暇、休業手当、残業代、深夜手当などを計算通り支払わなかったという。またあるアルバイトが年次有給休暇の使用を申し出ると「そんなアルバイトは初めて見た」と堂々と言ってのけたそうだ。
社会に本格的に出る前から大人たちにだまされ、悔しい思いばかりさせられると、若者たちは世の中に対して最初から反感を持つようになる。雇う側からすれば息子娘、おいやめい、弟妹のような年齢の若者たちだ。たとえアルバイト、あるいはインターンだとしても、時には背中をたたいて激励しながら人間らしいつきあいをすべきだ。そうすれば若者たちもたとえ仕事はきつくとも、将来に夢を抱きながらたくましく成長し生きていくだろう。それが人の世というものではないだろうか。若者たちを激励するどころか、平気で裏切って賃金を泥棒するようなことはしてはならない。