河野太郎議員が、日本年金機構の年金事務所が「イロハ順」のファイル管理を行っていると指摘しています。
年金事務所でのファイル整理が「イロハ順」で行われているため、担当者がすぐにファイルを取り出すことができず非効率であるとして、自民党行政改革推進本部で調査するのだそうです。
もしあなたの仕事場で、ファイルがイロハ順に並んでいたらどうしますか。
上司から、おーい、アベシンゾウさんのファイル持ってきてくれ。
はーい、いろはにほへとちりぬる..
おーい、はやくしろ。
ということをどうやらやっている事務所がありました。
日本年金機構の年金事務所です。
あたかも、年金加入者の氏名をイロハ順で管理しているような印象を受けますが、これは誤解であって、河野太郎議員の指摘は的外れなものです。
日本年金機構はイロハ順で年金加入者を管理しているのか
blogに掲載されているファイルボックスの写真から判断すると、河野太郎議員が問題視しているのは、日本年金機構の「事業所整理番号」のことだと思われます。
事業所整理番号とは
日本年金機構は、いわゆる社保加入事業者に「事業所整理番号」を振って管理しており、事業者が社会保険関連の手続きを行う時に記入を求めています。
現在の番号体系は「数字2桁」と「カナ3桁」をつないだ「39ハテナ」のような形式です。
数字2桁は事業所の地域を示し、「カナ3桁」の部分が事業所毎に割り振られていますが、事業所のカナ名称とはまったく関係がありません。
先程の写真をもう一度見てみましょう。
一見すると、確かにファイリングがカナ名称をキーに行われているように見えますが、実際には、事業所整理番号毎に分類してあるのです。
つまり、河野太郎議員が問題視しているように、会社名が「はてな」だから「ハ」のボックスを探すというわけではないですし、そもそも個人の氏名をカナで管理しているわけでもありません。
では、何がイロハでアイウエオなのか
では、河野太郎議員が問題視して、厚生労働省の年金局も認めている「イロハ順」の管理とは一体何なのでしょうか。
この「イロハ順」というのは、事業所整理番号の発番で行われている運用です。
事業所整理番号のカナ3桁部分が、「イロハ順」で発番されてきた地域と、「アイウエオ順」で発番されてきた地域が混在しているのです。
カナ3桁部分は、同じ年金事務所内で重複していなければ問題ありませんから、発番ルールが年金事務所毎に違っていても困る場面がなかったのでしょう。
また、年金事務所でのファイリングも、事業所整理番号が古い順から作成していくのが自然でしょうから、「イロハ順」になる年金事務所と「アイウエオ順」になる年金事務所が混在するという事になるわけです。
河野太郎議員の指摘するように、ファイリングの順番を「アイウエオ順」に片寄せすればすべて解決するという単純な話ではないのです。
カナを使用する事の弊害はないのか
そもそも、なぜ事業所整理番号がカナなのかはわかりませんでした*1が、日本年金機構の前身である旧社会保険庁時代からカナが使われていた事は確かです。
社会保険庁から健康保険業務を引き継いでいる全国健康保険協会でも、事業所整理番号が使われており、わかりやすいところでは、協会けんぽ加入者の健康保険証に記載されている被保険者番号の一部として使用されています。
健康保険証に記載されている被保険者番号は、全国の医療機関や薬局などが行う診療報酬請求や電子カルテなどで取り扱われるため、健康保険組合番号が「数字」ではなく「カナ」であることは、レセプトオンライン化など、IT化の障壁になることは容易に想像がつきます。
そのため、政府管掌健康保険から協会けんぽに切り替わった平成20年に、保険証上に記載する被保険者番号の「カナ」を「数字」に読み替えて対応したのです。
「記号」には、事業所整理番号を読み替えた数字が記載されています。
(協会けんぽのサイトより引用)
しかし、ここで問題が発生します。
協会けんぽと厚生年金はセットであり、加入事業所の管理や保険料徴収などは日本年金機構が行っています。
そのため、事業所整理番号の割り振りは、各年金事務所が行っています。
もうお気づきですね。
事業所整理番号がイロハ順か、アイウエオ順かによって、カナから数字への読み替えルールが違うのです。
事業所整理番号がイロハ順の年金事務所の場合は、
「イ」が「01」、「ロ」は「02」、「ハ」は「03」 という読み替えを行いますが、
アイウエオ順の年金事務所の場合は、
「ア」が「01」、「イ」は「02」、「ウ」は「03」 という読み替えを行うのです。
このように、イロハ順とアイウエオ順の問題は根深く、河野太郎議員のご指摘通り「アイウエオ順」に片寄せすればすべて解決するという簡単な話ではありません。
「イロハ順」をやめさせることが政治家の仕事なのか
いまだに「イロハ順」で管理されているのは、単純に変えられるものをやっていないという話ではなく、部分最適の集合体が必ずしも全体最適にはならないという、よくある事例に過ぎません。
もし、ここを改革するのであれば、「カナ」での管理をやめることでしょう。
例えば「カナ」から変換したあとの「数字」を事業所整理番号として採用すれば、「イロハ順」と「アイウエオ順」で二重運用されている業務システムも一本化することができるはずです。
河野太郎議員は「イロハ順での管理は古くて時代になじまないという主観的な理由」で「アイウエオ順の管理に寄せるべき」と主張されているように見えます。
しかし、それだけでは根本的な解決にならないばかりか、政治家が的はずれな介入をしたがために、より非効率になってしまう可能性が高いでしょう。
河野太郎議員におかれましては、人気取りのための「見た目の改革」に走らず、文科省神エクセル問題のように、まずは現場の声を聞いて動いていただきたいと思います。
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*1:少ない桁数で数字よりも多くの数を表現できるからではないかと想像されます。