人がクマに襲われる事故が相次ぐ。環境省のまとめでは、今年度は10月末までに75件にのぼる。秋田県鹿角(かづの)市では5~6月に4人が連続して亡くなった。

 クマの出没は年によって大きく変化する傾向がある。今年は目撃情報も約1万5千件にのぼり、14年以来の、出没数の多い年だったようだ。事故の再発をどうやって防ぐか。クマたちが冬眠に入るこの時期、教訓を踏まえて考えてみたい。

 全国にクマが何頭いるかははっきりしないが、分布域が拡大しているのは確実とされる。

 鹿角ではタケノコ採りに出かけた人たちが襲われた。専門家らでつくる日本クマネットワークの調査では、現場は開けたササやぶの周辺で、70年代にはクマはいなかった地域だという。

 同ネットは、事故時の自治体や警察、猟友会などの情報共有が十分でなかったと指摘し、あらかじめ連絡協議会をつくっておくよう提言した。クマの出没地域は対応を急いでほしい。

 クマの出没が多いと住民の不安が高まり、有害獣として捕獲される数も増える。今年度は2972頭が捕獲・殺処分された。秋田県はうち469頭を占め、過去最多だ。

 ただ、クマは本来臆病だ。人里にあえて近づくクマは、えさ場を見つけているなど、理由があると考えられている。

 捕獲する時も、人里に執着する個体を科学的になるべく特定して進めないと、再発防止につながらない。クマは繁殖力が弱く、地域によっては絶滅の恐れがある。生息状況を把握し、人とのあつれきを減らす保護管理の仕組みが求められる。

 戦後、日本人の生活様式が変わり、人が入らなくなった里山がクマの領域になったことも、被害多発の要因といわれる。

 クマと適度な「距離」を保つには、人間側が動くしかない。

 例えば、住民の高齢化で放置された山村のカキの実はクマを引き寄せる。早めにもぎ取るのが一番だが、人手が要る。都市住民との協力の輪を広げたい。

 クマは豊かな森林を代表する存在だ。日本クマネットワークの大井徹代表は「クマを考えることは、自然を考え、社会を考えること」と話す。わがこととして、クマとの共生の道を考える人を増やしていきたい。

 北海道や兵庫県、島根県は専門機関を持ち、被害予防のコツを住民に伝える啓発活動で成果を上げている。シカやイノシシの被害も増え、野生動物対策は急務だ。都道府県を中心に、専門家の育成・配置や組織の強化も進めてもらいたい。