約1週間、クリスマスシーズンの短期アルバイトをしていた。夏の催事の短期バイトでもお世話になったお店だ。
23日の朝礼で、社員の方がこう言ってくれた。
「今日が1番混み合う日なので、アルバイトの皆さんにシュークリームを買ってきました。1人1個食べてくださいね」
指差した先にはコージーコーナーの紙箱が2つ重なっていた。
もちろん頼んでもないし、絶対自腹だろう。
短期バイトの人数だって1人や2人じゃない。10人はいたはずだ。
なのにどうしてこんなことができるんだろう。
と、素直に思った。
短期アルバイトはレジしか打てない。
もちろんその範囲でたくさんいらっしゃるお客様を満足させつつ、売上のためにお客様を沢山さばくべくレジ打ちを頑張っているのだけど、何せぶっつけ本番の短期バイトなので、自分でも知らないうちにミスしていることもあると思う。
遅番の短期バイトが帰った後にそのミスの尻拭いをするのは、もちろん社員さんだ。
配送だの社販だの謎の券を出されるだの、イレギュラーが起こるたびにギフトラッピングを頑張っている社員さんに声をかけなければならない。
夏に同じ機械を触ったことのあるわたしでも、たぶん、ミスはある。抜け漏れあると思う。
もちろん他の人もそうだと思う。
なのに社員さんはいつも短期バイトたち全員に向かって、頑張ってくれてありがとうと言う。
自分たちはその何倍もきっとしんどいのに。
わたしはなんだか申し訳なくて、休憩時にシュークリームに手をつけられなかった。
自分で売店でアイスクリームを買って食べた。
シュークリームは余らせて、「あら、数が多かったのね」と、クリスマスシーズンを頑張っている社員さんがじゃんけんでもして1人シュークリームを食べられればいいと思ってた。
2回目の休憩時にも、わたしはシュークリームに手をつけられなかった。
なんだかそんな気になれなかった。
でも、退勤時に社員さんが「みんなお疲れ様!シュークリーム食べた?早く1つずつ取って!」と笑うので、恐る恐るわたしも手を伸ばした。
かばんに入れて、邪魔にならないようにさっさとビルを出た。
わたしたちはお客様のクリスマスプレゼントを作る。人のお祝いしたい気持ちを包む。
ハンカチだけでも何十種類もあって、お客様は男女問わずプレゼントを求めて売り場をうろうろする。
紙袋と箱に入れるラッピングがある。
紙袋は1種類だけど、くっつけるプレゼント用のシールは2種類ある。でも、ハンカチを入れるサイズの紙袋だけは2種類ある。
箱に入れるラッピングにも2種類ある。
リボンは10種類、包装紙は2種類、手提げの紙袋も2種類ある。
ブルックスとサイコバニーとポロラルフローレンとポールスミスとヴィヴィアンとカルバンクラインとトゥートとディーゼルとポール&ジョーはブランドの袋がある。
短期バイトはレジ打ちをしながらオペレーションを覚えていって、できる限り最良のクリスマスプレゼントを、つくる。
何人のクリスマスプレゼント作りに協力しただろう。
たまたまピーク時にいらっしゃって、ラッピングに20分以上かかると言っても、待つので箱に入れてくださいというお客様もいる。
それに協力して、わたしたち短期バイトは、時給1000円ちょっとでお給料をもらっている。
その契約に満足している。
なのに。
わたしは、シュークリームまでもらってしまった。
まだもらってしまった罪悪感の方が大きかった。
退勤後、自分も人にプレゼントをしたくなって、自分のスーツ用ベルトを買うついでにユニクロでクリスマスプレゼントを買った。
大きな紙袋を持って外に出たあと、かばんの中のシュークリームが目に入った。
パッケージにはメリークリスマスの文字が書いてあって、雪が舞っていた。
心がじんわり暖かくなった。嬉しかった。
すごくすごく美味しかった。
罪悪感はなくなった。
ただただ、しあわせだなと思った。
プレゼントは気持ちである。
袖すり合うも他生の縁であり、短期バイトと社員は、全員がお客様のクリスマスプレゼントを作る仲間である。
毎年それを繰り返しているから、社員さんは短期バイトみんなに身銭を切ってシュークリームをプレゼントすることができたのだと思う。
そういうことを、実感しながら生きていきたい。
ただお金を儲けるだけじゃなくて、人を喜ばせながら、人の役に立ちながら、時には協力しあって、生きていきたい。
去年のクリスマスイブは、休職していた会社に復職したくて出社トレーニングをしていた真っ最中だった。
でも、イブだけ行けなくて。たくさん泣いて、史上最悪のクリスマスイブだと嘆いた記憶がある。
それから1年。わたしはうつ病の治療をまだ続けながら、会社をやめて開業して、細々と半分フリーライター、半分フリーターとして生きている。
人生はどうにかなる。なってしまった。
わたしにとって生きることは、まだまだしんどいことではあるけれども、
23日の夜に太るのを覚悟で食べた今までで1番美味しいシュークリームの味を忘れずに、来年も生きていきたいと思う。
そして、もうちょっと余裕ができたら。
短期バイトにシュークリームを配れるような人に、わたしはなりたい。
目標としたい大人が、またもう1人増えた。
Cyndi.