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異世界でチート無双してハーレム作りたいのに強すぎてみんな怖がるんですけど 作者:八神鏡

第三章 使い魔編~記憶喪失で闇属性で魔王様!~

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クリスマス企画 少し未来のメリークリスマス

め、め……りぃ、くりす、マス。
クリスマス特別企画です……
 毎年この日になると、彼女の旦那様はぼーっとするようになる。

「…………」

 雪がしんしんと降り注ぐ、12月24日のお話。椅子に座った彼女の旦那様は、窓際で一人静かに空を眺めていた。

 あいにく、天気はあまり良くない。月も雲に覆い隠されていた。冷え込みも強くなり、窓のそばだと酷く寒そうである。

「旦那様……冷えますよ? 風邪でもひきたいのですか?」

 そっと後ろから近付いて、愛する人の頬を両手で挟む。やはり予想通り、その肌は冷たくなっていた。

「……お前に触ってもらえるように、あえて寒さに耐えてただけだよ」

 彼女の言葉に、旦那様と呼ばれた初老の男性は穏やかな笑みを浮かべる。先ほどまでのぼんやりした表情はとうに消えていた。

「いくらでも触ってあげますので、どうぞ暖炉のそばで温まってくださいませ」

「大丈夫だよ。お前が温めてくれればいいだろ?」

「――そういうことを言われると、そうしたくなるのですが」

 一瞬、要求通り抱き着きそうになったのだが、彼女はどうにか耐えて旦那様の手を取った。

「お体に障ります。あまり、ゼータを心配させないでくださいませ」

 そう言って、彼女――ゼータは、旦那様の手を引くのだった。
 出会った頃に比べてしわの増えた手には、段々と力強さが失われているように感じる。かつては世界最強と言われた人物も、時の経過には勝てなかったらしい。

「……そうだな。もう、こんな年だもんな」

 苦笑した彼は、ゼータの言葉通り暖炉のそばに移動する。まだ自分の足で歩けるようだが、その足取りはやはり覚束なかった。

 そんな彼を見て、ゼータは胸元をぎゅっと握る。普通の人間と比較しても、明らかに旦那様の老化は早いのだ。恐らくは、若い頃に散々無理をやらかしたせいだろう。

 あと何年一緒に居られるか――ふとした拍子に暗い未来を連想してしまうのが、最近のゼータの悩みだった。

「お前は、いつまでも可愛いままなのに……ふぅ。ごめんな、毎晩エッチなことしたくて仕方ないだろうけど、俺の体力が持たないんだ。本当に申し訳ないと思ってる」

「いえ、そんなことは微塵も思ってませんが。むしろ、旦那様はちょっとへたくそなので、控えて欲しいとも思っていましたが」

「そ、そうなの? え、嘘。もっと若い時に言えよ……もう改善できねぇよ」

 だが、旦那様は微塵も暗い様子を見せない。いつも幸せそうに、ゼータに声をかけるのだ。特に、ゼータが不安になった時などは、敏感に察知して素早く反応してくれる。

 長年寄り添ってきた二人の仲は、これ以上ないくらいに深まっている。少なくとも、お互いの心を読み取れる程度には、仲良くなっていた。

「お前と出会ってから、もう三十年ちょっとか。俺も年をとるわけだ」

 暖炉のそばのソファに座り、彼は過去を懐かしむように目を細める。ゼータはその隣に腰を下ろしてから、彼の手を優しくとった。

「旦那様はまだお若いですから、そのようなことは言わないでくださいませ……」

「ん? ああ、悪い悪い。まだくたばる気はないんだけどさ――この日になると、死んだ時のことを思い出すんだ。前の世界での命日が、今日だからさ」

 12月24日。前の世界ではクリスマスイブと呼称されていたその日に、彼は死んだ。そのことを思い出してしまい、彼は毎年この日になるとぼんやりしてしまうのだ。

「あの頃はもっと若かったんだよなぁ……バイタリティが溢れてたっていうか、嫉妬が凄すぎたっていうか――端的に言うと、リア充死ねって思ってた」

 意味不明なことを口走る旦那様に、ゼータはそうですかと気の抜けた声を返す。
 こういう時、下手にリアクションをとると旦那様の会話が意味不明になるので、ゼータはなるべく聞き流すようになっていた。

「あの頃に俺に言ってやりたいよ。将来のお前は、ちゃんとリア充になってるぞ――ってだから、リア充にチーズバーガーぶつける計画立てるな! って、そう言ってやりたい」

「左様ですか」

 ぶつぶつと呟く旦那様を放置して、ゼータは背後を振り返る。今日は屋敷に誰も帰ってこない予定だったはず。旦那様が前に居た世界では特別な日だったようだが、この世界での今日は何の変哲もない日なのである。

 みんな、都合があって外出していた。彼ら彼女らの面倒を見なくて良いし、ゼータは愛する旦那様を独り占めできるので、何よりも喜んでいたりする。

「――ご主人様」

 ふと漏れた、小さな呟き。
 それは、かつての旦那様の呼称であった。

「……久しぶりだな、その呼び方。結婚して以来か?」

 会話を切って、彼は驚いたような表情を浮かべる。大分耳にしていない呼びかけだったのだ。

「どうした? エッチなことでもしたいのか?」

「どうしてそうなるのか分かりませんが……特に理由はありません。ただ、なんとなく言ってみたかっただけです」

「ふーん? そういうことってあるよな。俺もたまに、お前の事『淫乱メイド』って呼びたくなるし」

「一生心の中にしまっておいてください。ゼータはそんなに淫乱ではありませんので」

「…………まぁ。お前がそう言うなら、そういうことにしておくけど」

 穏やかな微笑みは、かつてよりもどこか大人っぽさを感じさせてくれた。童貞だった頃は必死すぎて気持ち悪いと思うことも多々あったが、最近は本当に落ち着いてきている。

 女性を前にしても、舐めまわすような視線をもう送ることはなくなっていた。童貞を卒業してから、人間として大分成長してくれたように感じるこの頃。

 あるいは、老いているのか――と、そう思って。

「ご主人様? いつまでも、元気でいてくださいね」

 そっと、彼の体によりかかった。細くなった体だが、今でもゼータのことはしっかりと支えてくれている。

 ゼータはいつまでも彼の隣に寄り添いたいと、そんなことを考えていたのだ。

「……ゼータにとって、ご主人様の隣に居ることが、何よりの幸せですので」

 魔法人形は年を取らない。魔力さえあれば、彼女はいつまでもその姿を維持できるし、死ぬこともない。
 だが、彼は人形じゃないのだ。人間だから、年もとれば老化もしていく。

 愛するご主人様は、死から逃れられない。そのことを、最近は強く実感するようになってしまっていた。

 だから、一秒でも長く。一秒でも一緒に。愛する人と、過ごしたいと――少しも無駄にするまいと、ゼータはそんなことを言っていたのである。

「当たり前なこと言うな。お前を不幸になんて、俺がするわけないだろ?」

 そうすれば、彼は力強くそう言ってくれた。若い頃から一貫して紡がれるその言葉は、何よりも安心感のあるものだった。

「はい。信じて、おります」

 彼の肩に頭を預けて、ゼータは小さな声で呟く。

 幸せだった。今、彼の隣で、彼と言葉を交わして、彼の笑顔を見て、彼の温もりを感じられるこの瞬間が――本当に、幸せだと思った。

 だが、この幸せは永遠ではないと、ゼータは理解している。

 あと何年、生きてくれるだろうか。
 あとどれくらい、言葉を交わせるだろうか。

 最近、こんなことばかり考えてしまっていた。幸せを感じるたびに、ゼータは不安になる。彼のそばから離れられなくなる。彼の存在を、確かめたくなる。

 愛する人が死んだ時、きっと自分は生きていけない。
 彼の居ない世界は、ゼータの生きる世界ではない。

「いつまでも、ご主人様のおそばに居ます」

 例え、彼が死んでしまっても。
 その時は、ゼータも一緒に旅立とう――と。

 ゼータは、そう考えるようにまでなっていた。
 それくらい、彼のことを大好きになってしまっていた。

 幸福とは、毒である。
 甘い甘い、中毒だ。
 接種すれば、やめられなくなる。
 なくなった時のことを思うと、胸が張り裂けそうになる。
 その毒に、ゼータも侵されてしまったというわけである。

「……ああ、お前が隣に居てくれると、嬉しいよ」

 対する彼は、ゼータほど不安を抱えてはいないようだった。ゼータの頭をよしよしと撫でながら、悪戯っぽい笑顔を浮かべている。

 彼は、若い時から空気というものを読むのが嫌いだ。

「そうだな。じゃあ、お前の要求通り――明日にでも、寿命を長くする手段でも探しに行くか」

「…………え?」

「だから、俺に死んでほしくないんだろ? この世界は広いし、まだ行ってない場所もたくさんある。どこかに、寿命を長くする手段はあると思うんだよな」

 ゼータの不安を、彼は察していた。そのうえで、空気を読まなかった。

「……どうして、急にっ」

「俺はお前を不幸になんかさせない。お前が望むなら、それを叶えてみせる。寿命くらい、いくらでも伸ばしてやるさ」

 そんな不安は不要だと、彼は笑い飛ばしたのだ。
 いつまでもそばに居たいと言われて、じゃあいつまで生きてやるかと、彼はそう言ったのである。

 短絡的で、単純で、しかし最適な回答だ。ゼータは思わず、頬を緩めてしまう。
 体は老いても、やはり彼は昔から変わっていなかった。そのことを、強く実感していたのである。

「明日から旅に出るぞ? ついてきてくれるか?」

 ぐっと、握られて手に力がこもる。顔をあげれば、そこには若い頃を錯覚させるくらい、覇気のある彼がいた。

「――はい! もちろん、ですっ」

 思わず、嬉しくなって。ゼータは彼に抱き着いてしまう。勢いをつけすぎたのか、彼は耐え切れずに押し倒されてしまった。

「お前、やっぱり淫乱だな」

「……違います。これは、別に、そういうわけじゃっ」

 慌てて態勢を直そうとして、だが彼はそれを許さない。ぐっと、ゼータの両肩を掴み寄せた。

「もう、二十五日だな? 前の世界では、この日はクリスマスって言って――プレゼントを、交換する日なんだ」

「プレゼント、ですか?」

「そうだ。俺からは、さっき言った通り幸せをやる。で、お前からは――ゼータの全てを、改めてもらおうかな」

 ずいぶんと久しぶりだった。ここ数年はめっきりなのだが、彼は嘘のように元気を取り戻している。

 きっと、ゼータが望んだから、彼もまた応えようと頑張ってくれているのだ。
 そんな彼の気持ちが、ゼータは何よりも嬉しくなってしまう。

「……し、仕方ありません、ね」

 だから、自分の全てを――愛するご主人様であり、旦那様である彼に捧げるのだった。

「メリークリスマス、ゼータ」

「はい。メリークリスマス、です」

 そうして、二人はまた新たな未来を歩む。
 窓から見える空からは、もう雪がなくなっていた。

 聖なる夜の空では、二人を祝福するように――丸い月が、静かに夜を照らすのだった。
メリークリスマス! クリスマス特別企画です!
三章の途中に申し訳ありません。せっかくのクリスマスに一人なので、時間を有効的に使おうかとこのお話を書きました。良かった、独り身じゃなかったらこんなお話書けなかっただろうなー。マジで良かったわー……っ。

※このお話は十二月二十六日の零時に消します。三章が終わって、間話の部分でまた再掲載しますので、ご了承ください。

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