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小説家・赤川次郎 ~500冊、3億部を生み出す頭の中~

小説をほとんど読まないという人でも、赤川次郎の名前を知らない人はいないのではないだろうか。映像化作品も含めれば、接したことのない人はいないかもしれない。本格ミステリーでデビューし、三毛猫ホームズシリーズや登場人物が毎年1歳ずつ年をとる杉原爽香シリーズなど、キャラクターの個性が際立つシリーズも手がける赤川。老若男女を問わない読者を持つ小説家は、小説にどんな想いを込めているのだろうか。

大人の読者と子どもの読者を分け過ぎてはいけない

――いまの30代くらいの方々だと子供の頃に、赤川さんの本を読んでいた人が多いと思うのですが、子どもの頃読むにしては男女の色恋の話しなど、わりと大人目線なものが多いと今回読みなおして感じました。

赤川次郎(以下A):作家生活35年になりますけれども、スタート時点での読者層は大学生とかOLさんとかが多かったので、大人の話を書いていました。『セーラー服と機関銃』が薬師丸ひろ子さん主演で映画になってからですね、読者層が小学生まで広がったのは。小学生も読むんだなって多少意識せざるを得なくなりましたけれど、『セーラー服と機関銃』もそうとうひどい話ですからね(笑)。たくさん人も死ぬし。
とはいえ、内容を意識して変えたということはないです。子どもはわからなければわからないなりに読むものですよ。大人になって後からこういう意味だったのかと気づく。自分も中学生くらいからドイツ文学やフランス文学を読んでいたのでわかるんですけど、意味がわからなくても読んでいくんです。スタンダールの『赤と黒』なんて、小学生で読んだけど全然わからなかった(笑)。でも、子どもは子どもなりに理解をします。子どもだからファンタジーというのは間違っていて、子どもは大人の生活の影響をもろに受けます。両親が離婚すれば、子どもも無関係ではいられませんよね。お父さんが不倫していれば家庭内の雰囲気が変わるわけで、子どもが読むものにもそういうことはちゃんと書いておかないといけない。
『ふたり』は、後半にお父さんの不倫の話しが出てきますが、その時も書かないほうがいいと言われたことがあった。でもそうじゃないと思うんです、実際にそういうことが起こりうるんだから。中学生くらいの子が読んで、こういう出来事もあるのかと。子どもにとって父親、母親って出来上がった大人というイメージがあるけど、実際には40代、50代の大人なんていくらでも間違いもとんでもないこともやってしまうわけじゃないですか。むしろそういうことを小説のなかで経験しておいてほしいと思うんですよね。もし、自分が現実にそういう状況にぶつかった時に、小説に書いてあったのはこういうことなのかって。全く知らないでいきなりぶつかるのと、たとえ小説であっても疑似体験として空気を体験しているかどうかで全然違うと思うんです。
だからあえて子ども向きに書くという意識はなかったですけど、あまり難しい言葉を使わないようにはしていましたね。とはいえ、だいたい元から難しい言葉を知らないんですけどね(笑)。

人を殺すことへの抵抗と人間への信頼

――エッセイ『ぼくのミステリ作法』では、殺人や人の死ぬ場面がだんだん減ってきたとも書いていらっしゃいました。

A:そうですね。自分が親になったというのが大きいですね。あんまり人を死なせちゃいけないなというか、人をたくさん死なせないと読者がついてこないというのであれば、それは小説が下手なんです。最初は読者サービスだと思って、次から次に殺人事件を起こしていましたけどね(笑)。エラリー・クイーンもそうなんですけど、晩年の『途中の家』とかは、人もあまり死なないし、たいした事件も起きないんです。たった一つの事件でも長編を最後まで読ませる自信がついてくると、そういうふうになっていきましたね。 無意味に人を死なせることへの抵抗が起きてきたのも事実です。若い世代の書き手の方がたくさん出てきてますが、そういう方たちが大量殺人などをテーマに取り上げたがるんですね。意味もなく人を殺す話しが多くなって、ぼくはそれがとても気になった。人の命を奪うにはそれなりの理由がなくてはだめだと思うんです。そういう一種の流行への抵抗もあって、こちらは殺さないで済ましてやろうと。昔なら絶対死んでる場合でもね(笑)。

――そういう若手の作家さんたちは、実際の事件などからインスパイアされている部分があるのかなと思うのですが、赤川さんはそういうことはありますか?

A:あまり時代を特定しないから現実の事件を取り入れることはないですけど、最近理由のわからない殺人というのが増えてきたでしょ? でも、理由がないわけではないと思うんですよ。マスコミが“理由がない”という部分を強調すると、どうしてもそう受け止められてしまう。でも事件を起こした本人には理由があって、それを理解できるかどうかは別ですけど、本人にとっては意味があることだと思うんです。
だから、意味なく人を殺すということが、エンターテインメントの題材としてどうなのかなという気がしています。“許す”という感覚が今の小説にない。人の命を奪ったのだから殺してもいいという復讐の論理が基本になっている気がして、後味が良くないものが多い。エンターテインメントは後味がよくないといけないと思うと同時に、基本的に人間性への信頼みたいなものが読み手に伝わらないといけない気がしています。時代遅れかもしれないけれどね(笑)。推理作家協会賞の審査員をやっていますが、気の滅入ることが多くて(笑)。山田風太郎賞を争った貴志祐介さんの『悪の教典』と綾辻行人さんの『Another』とか、どちらもものすごい数の人が死にますからね。震災後だったから受賞はわからなかったかもしれないですね。

ユーモアとギャグは違うもの

――エンターテインメント作家としては何か自覚を持って書いていらっしゃいますか?

A:自分が楽しいように、自分が読みたいようなものを書きたいです。すべての人に合わせることは絶対にできないわけだから、自分が読者として気持ちのいい本を書きたい。
Y:それがおっしゃっていた後味のよさなんですね。
A:そうです。あとは笑いがあるようなもの。笑いといっても、ギャグじゃなくてユーモア。ユーモアはすごく必要なことだし、高度な文化だと思うんですね。いまユーモアというと、テレビでお笑いタレントがやっているようなことだと思っている人が多くて、あれはギャグであってユーモアではない。テレビを生まれた時から見てきた世代がユーモア・ミステリーとうたう小説を書くと、探偵と相手のやりとりがテレビのお笑いタレントのそれなんですよ。これはギャグであってユーモアではない。もうちょっと洗練された笑いが欲しいなと思う。

――赤川作品におけるユーモアの役割は?

A:ひとつにはミステリーは殺人とか非常に暗い話を扱っているから、その雰囲気をある程度和らげて読者に伝えるために必要ということですね。もちろんそのなかにギャグがあってもいいけれども、ギャグだけで「これがユーモアミステリーです」といわれると、「ちょっと待って。もっとユーモアを勉強しなさい」って言いたくなっちゃう。例えば、会話が社会に対する皮肉や風刺だったり、二重の意味や裏の意味を持っているようなものもあるわけですよね。

小説はキャラクターや登場人物を楽しむもの

――推理小説家は発表後に「あれは上手く書けなかった」のように、自己批判することがありますが。

A:どこが矛盾しているとか言われやすいしね。でもそれは昔からあったし、賞をもらっている小説でも登場人物が途中でいなくなって、結局最後までどこいったのかわからないものもある。新人の頃だったら一種の勢いで、読んでいて気にならなければいいという考えかたもあります。

――ミステリーは読者を特に意識した特有のジャンルですよね。

A:挑戦状とか、ああいうことをするのはミステリーの世界だけですよね。やっぱり辻褄があうかあわないかがすごく問題になる。書いてて1番大変なのは最後に辻褄あわせることなんです(笑)。

――しかも対ミステリーファンを意識して書かれているものが多い。

A:そうですね。判断基準が客観的にあるのはミステリー特有で、謎を解くのにちゃんと手がかりを与えておかないといけないとか、フェア、アンフェアなんて普通の小説だったらありえない。僕が新人賞をもらってデビューした頃は、本格派ミステリーのすごくコアな読者がいて、下手なものを書いたら袋だたきにされるような世界でもあったんですよ。『幽霊列車』の頃は評価してもらいましたけど、『セーラー服と機関銃』あたりからは、もう駄目だこいつはみたいに思われてました。小説として面白いこととミステリーとして細かなミスがあることは、全然違うことなんですけどね。

結末を決めずに書かれるとうかがっていますが、構成はどうされているんですか?

A:三十何年やっていると、長い連載でも全体の中でどのくらいかとか、3分の2ぐらい過ぎたからそろそろ犯人決めなきゃとかがわかってきます。最後の5分の1ぐらいまできて、結末に向けて考えていきます。結末を考えないのは、書いていて思いもしないキャラクターが浮き上がってくることがあるから。その人物が魅力的になってくれば、それはそれでそのとおり魅力的に書いていきたいし、わざわざ引っ込めることもないですよね。そうするとむしろ最初の構想の方を変えていく方が僕は好き。だから最初と最後で話が全然違う方を向いていることもあります(笑)。小説はキャラクターや人間関係を楽しむものだと思っています。

偉大なるマンネリズム

――名刺代わりの1冊っていわれたら何をあげますか。

A:皆さんが知っているという意味では、やっぱり「三毛猫ホームズ」になりますよね。シリーズものじゃないと、好きなのは『ふたり』かな。1番気持ち良く書けた。500冊も書いてて、それしかないという(笑)

――シリーズもののいいところ、悪いところはありますか。

A:シリーズものの楽しさは、キャラクターに馴染みが出てくること。自分でも書いていて楽しいですよ。長く書いていると、登場人物と久しぶりに会う楽しさもある。寅さんと一緒でマンネリ化させる魅力もあって、この人はいつもドジなことをしてくれると読者が楽しみにしてところもありますからね。

――日本人はマンネリが好きなところもあったりしますよね。

A:お約束がね。水戸黄門の印籠じゃないけど、そういうのを楽しみにしていることがどうしてもありますからね。それを良い意味で裏切っていかなきゃいけないしね。そこに新しさを出すのは本当に大変な作業です。

赤川次郎

プロフィール

赤川次郎
( あかがわ じろう)

ミステリー作家

1948年福岡生まれ。76年に『幽霊列車』でオール讀物推理小説新人賞を受賞しデビュー。81年の「セーラー服と機関銃」の映画化以来、読者層を一気に広げる。「四文字熟語」「三姉妹探偵団」「三毛猫ホームズ」など、多数の人気シリーズがある。05年、長年のミステリー文学への貢献により第9回日本ミステリー文学大賞を受賞。08年には著作が500冊を突破するという偉業をなしとげた。

赤川次郎の作品

幽霊列車
処女作にして最高傑作の呼び声高い、奇抜な着想とユーモア。
幽霊列車
赤川 次郎(著) / 光文社
鬼平犯科帳(四)
わたしを支えるのは、心に響く17歳で逝ってしまった姉の声。
ふたり
赤川 次郎(著) / 光文社
三毛猫ホームズの推理
もはや国民的シリーズ。三毛猫の推理濃度は思っている以上に高い。
三姉妹探偵団(1)
おっとり、しっかり、ちゃっかりの三姉妹は、三人揃って名探偵。
若草色のポシェット 杉原爽香十五歳の秋
15歳の主人公が1歳ずつ年をとる異色のミステリー。現在38歳。
ぼくのミステリ作法
これが、500冊3億部を書いてきた、頭と手と目の遍歴と実力。