それほど熱心に声優を追っているわけでもない。
それでも上田麗奈さんは好きな声優の1人である。声の幅も広く、歌もステージもこなせる。またトークでも独特の世界観を垣間見せる。あとかわいいし顔が良い。
そんな中今年9月に上田麗奈さんのソロデビューが発表された。
昨今において声優のソロデビューはほとんど啓示的な意味合いを持っている。端的に言えばあまり成功すると思えない。
私の観測範囲内でも不安8割、期待2割程度の反応だったと思う。
潮目が変わり始めたのはおそらく収録曲『海の駅』の試聴が公開された時だ。たしかラジオだったと思う。
曲調は本格的なエレクトロニカ。それに上田さんの繊細な歌が載っていた。
「意外と期待できるかもしれない」そんな反応が多かったと記憶している。
その後も毎週収録曲の公開が続く。どの曲も粒揃いだった。
発売直前の頃にはほぼ良い作品になっていることをみんなが予感していたと思う。
そして発売日が訪れる。出てきたのは今年を代表する傑作だった。
参加している作曲家はMONACAの田中秀和、fhánaの佐藤純一、TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND、rionos(エレクトロニカ系の女性シンガーソングライター)、shilo(アニソンを多く手がける作曲家)。
日常的にアニソンを聴いているオタクならすぐに現代の売れっ子を集めたのがわかる。
しかし、この面子からすぐに連想できるような音にはなっていない。
出てきたアルバムは完全な統制の取れた、完成度の高いコンセプトアルバムだった。
事前はエレクトロニカ寄りの作品になるのではないかと予想されていたが、曲調のバリエーションはもう少し広い。ジャジーであったり、捻ったポップスの要素もある。
どことなく邦楽シーンにおける谷山浩子に代表されるような、少し不思議な女性シンガーの雰囲気も感じられる。
声優でエレクトロニカ、というと最近では悠木碧が連想されるが、悠木さんのように声を楽器として扱うような音楽的なストイックさはそれほどない。オーソドックスな感情の乗った歌が前面に出ている。あまりいいリスナーではないので自信はないけれど坂本真綾さんの方向性が近いのかもしれない。
こんなに歌が上手い人だったイメージはなかったが、本当に上手い。キャラソンでたまに上田さんの歌を聴く程度だった人は驚くはずだ。
表現力が豊かとでも言えばいいのかもしれない。曲ごとにキャラクターを設定して歌っているように感じる。
おそらく制作過程において上田さん本人がかなり深くまで関わっている。
実際の工程としては上田さんのイメージをプロデューサーが翻訳して作曲家に伝える、という流れだったような気がする。ちなみにランティスのプロデューサーは保坂拓也さん(アイドルマスターミリオンライブのえいちP)。
声優のソロデビューにおいて、「自分の世界観を表現」ほど不安になる売り文句はないが、RefRainは最善に近い形で上田さんの芸術肌の側面をうまくパッケージできている。借り物のコンセプトではない、個性的なアルバムになっている。
この活動が1枚で終わるのはさすがに惜しい。
みんな買ってね。