こんばんは、@todokrです。この記事は絵文字 / Emoji Advent Calendar 2016の22日目の記事です
エモジニアンと絵文字追加運動
絵文字愛好家のみなさま方におかれましては、「いつかは自分もUnicodeに絵文字追加のプロポーザルを…」という思いをごく自然とお持ちのことと思います。
世間を見渡せば「ハンバーガーやホットドッグの絵文字はあるのになんでタコスはないんだ!」とブチ切れたタコベルがタコス絵文字収録キャンペーンを始めてしまったり、「我々には餃子の絵文字が必要である」プロジェクトがChange.orgに誕生したりなどなど、敬虔なエモジニアンらによる急進的な絵文字追加運動は枚挙にいとまがないようです。
Change.orgの餃子追加プロジェクトの方では「署名の理由」欄に「私は餃子です」と書き残す謎のサンフランシスコ人がいたりなど、異様なテンションの高さが感じられますね。
「自分が考えた絵文字をUnicodeに提案する」という行為はこれほどまでに人類を駆り立てるのか…と驚かされますが、なにより驚くべきことはタコスの絵文字も餃子の絵文字もマジでUnicodeコンソーシアムにapproveされちゃったことなんじゃないでしょうか。
世界初の国際的絵文字カンファレンス「emojicon」
さて先月11月の4日から6日かけて開催された、emojiconという世界初の国際的絵文字カンファレンスに参加してまいりました。
舞台はサンフランシスコ。そう、「私は餃子です」の街です。
emojiconのハイライトは社内勉強会で発表したこちらのスライドにまとめましたので、興味のあるかたはどうぞ。
そのなかの1セッション、Unicodeコンソーシアムの理事長であるMark Davis氏の「What is the Unicode Consortium?」の後半にて「Unicode絵文字の提案はどのようになされるのか」という話を聞いたので、「Submitting Emoji Character Proposals」と一緒にちょっとまとめてみようと思います。
新しい絵文字がUnicodeに収録されるまでのフロー
1. 最初の提案
4月に行われる「絵文字リリース内容の決定」に提案を含めるためには、通常は1年前、おそくとも10月までに提案をUnicodeコンソーシアムに提出する必要があるようです。ただし、改善や修正をリクエストされたり、絵文字小委員会のレビューが長引くこともあるため、できるだけ早めに提出することが望ましいとのことです。
小委員会によるレビューを通過した提案は、UTC(Unicode Technical Comittee)に送られます。
2. UTCによる審議
小委員会のレビューを通過した提案は、四半期に1度のUTC meetingでレビューされます。ここでも改善や修正のリクエストや、提案の却下などの決定が行われるようです。
4月に行われるUTC meetingは特別で、ここではどの絵文字を翌年のUnicodeリリースに含めるかが決定されます。
3. リリースとベンダーのサポート
リリースに含まれることが決定した絵文字は、文字の名称やコードポイントなどの属性を与えられた後、β版としてリリースされます。6月末にβ版の期間が終了すると最終的な属性が決定され、正式にリリースされます。各ベンダーが正式リリースをもとにキーボードやアプリケーションを実装・リリースでき次第、私たちは新しい絵文字を使うことができます。
どのような観点でレビューが行われるのか
レビューはポジティブ/ネガティブな要因がそれぞれどの程度あるかという観点で行われるようです。一つずつ見ていきます。
ポジティブな要因
まずはポジティブな要因から見ていきます。これらの項目を満たすほど、提案が通りやすいということですね。
1. 互換性が必要とされている
よく使われる絵文字の互換性確保のための提案か?という観点です。もともとUnicodeに絵文字が収録された理由が「ガラケー絵文字の互換性確保」でしたから、この観点が最初にくるのは納得ですね。
2. 利用される頻度が高く、用途が広い
利用頻度の高さは互換性の次に重要な要因とのことです。世界中、もしくは特定のコミュニティ(例えばインドネシアの人々)で頻繁に利用されることが期待されます。
比喩的な意味や何かの象徴であったりすると「用途が広い」とみなされます。たとえば「 」は「サメ」だけでなく、「高利貸し」や「プロのいかさまカードプレイヤー」といった意味でも使わることがあります。
3. 画像として明確に表現でき、他の絵文字と区別が容易
たとえば「シチューの絵文字」提案は🍲(POT OF FOOD)と区別できないので却下されちゃうみたいです。
4. 既存の絵文字に欠けた部分を埋めること
たとえばUnicode8.0では、干支にサソリを含める文化のためにSCORPIONが追加されました(iOSフォント版はちょっと気持ち悪いので画像省略)。
5. 頻繁に要求される
Unicodeコンソーシアム、もしくはUnicodeコンソーシアム加盟企業からのリクエストが多いことは「広く利用される兆候」としてポジティブ要因になるようです。
ただし、商業的な理由からの要求は認められないようです。Submitting Emoji Character Proposalsには「商業的な要求はタコス絵文字の収録になんの影響も及ぼさなかった」と明記されています。あくまでも「一般のユーザーに求められているか」が重視されるわけですね。
ネガティブ要因
次にネガティブ要因について見ていきましょう。
1. 過度に特定的
たとえばサバの寿司、アワビの寿司、サーモンの寿司などは、一般的なで表現できるので必要ないとのことです。
2. あいまい
たとえば「かわいい」を表現する絵文字などはあいまい過ぎてダメみたいです(というかどういう視覚的表現になるんだろうか)。
3. すでに存在している絵文字の組み合わせで表現できる
たとえば「泣いている赤ちゃん」はのように表現できるので必要ないとのことです。
ちなみに先日記事を書いたZWJの組み合わせルールはUnicodeコンソーシアムが決定しているのではなく、各ベンダーが独自に決めてしまってよいそうです。マジか。
4. ロゴ、ブランド、UIアイコン、看板、特定の人、神々
絵文字初収録の際もauなどのロゴは排除されたので、納得ですね。
ちなみに神々NGは「大仏」絵文字の提案がきっかけみたいです。
5. 一過性の流行
一度採用されたらおいそれと変更できないので、これも納得です。
でも絵文字をUnicodeに収録するかという議論の際に、「絵文字なんて一過性の流行だ」と言っていたUnicodeコンソーシアムボードメンバーもいました。
「広く使われうる」をどう証明するか?
採用された絵文字提案の例として、「clicket」(Unicode10.0)が挙げられていました。
Proposal for a New Emoji: Cricket
提案では「この絵文字は広く使われうる」ということを証明する必要があるのですが、よく使われるのはGoogleトレンドを使う手法や、インスタグラムなどSNSのハッシュタグ数を、同じカテゴリの既に収録されている絵文字と比較する手法らしいです。
clicketの提案でも、カタツムリとのGoogleトレンドでの比較が行われていました。
最近すごい角度で上昇してますが、何があったんでしょうか。
おわりに
絵文字の追加提案が採用されるまでのフロー、レビューの観点、観点のなかでも重要な「どれだけ広く使われうるか」を証明する手法についてさらっと見てきました。敬虔なエモジニアンのみなさまにいつか役立ちますように