米大統領選でのドナルド・トランプ氏の勝利は、ありとあらゆる予想外の勝者を生んだ。米国のエネルギー企業やロシアルーブルを保有する投資家、米ウォール街の銀行を思い浮かべてみたらいい。もう一つ、米大統領選の結果に気をよくする理由を持つ機関がある。強大な力を誇る日銀だ。
米国株式市場とドルの高騰は14日の米国の利上げとともに、日本がデフレとマイナス金利の薄暗い世界から抜け出そうとしているのかもしれないという、いちるの希望をもたらした。だとすれば極めて喜ばしいことだ。この際、転換点のきっかけが思わぬところから来たことなど気にしなくてもいい。
どんな基準に照らしても、日本の中央銀行は経済的な刺激を生み出すものを切に必要としている。近年、日銀は人を戸惑わせるような政策実験の数々に乗り出し、期待外れの結果に終わってきた。
まず、1990年代終盤にゼロ金利政策を導入した。次に、日本国債を大量に買い入れ始めた。その後、株式や社債、上場投資信託(ETF)を購入し始めた。
今年はさらに踏み込み、政策金利の一つをマイナス領域に押し下げた。そして9月、日銀当局者らはある実験に乗り出した。日本国債の購入を増やすことで、事前に定められた短期、長期のイールドカーブ(利回り曲線)の目標を達成することを目指す実験だ。言い換えると、日銀は今、事前に定められた量の債券を買うのではなく、特定の形の国債イールドカーブを目指すことで政策を運営しているわけだ。
こうした極端な実験の結果、日銀は国債発行残高の3分の1を保有することになったものの、デフレは相変わらず災難の種になっている。2014年に円が下落した後、インフレ(物価上昇率)が跳ね上がったが、以来、円は上昇し、消費者物価指数の伸び率は再びデフレ領域に戻ってしまった。
■投資家心理に確かな変化
しかし今、投資家心理の確かな変化が感じられる。日経平均株価は11月9日に安値を付けて以来、17%以上反騰しており、米国のダウ工業株30種平均よりも大きな上昇を見せている。
この動きは一部、トランプ次期大統領の政策が米国の経済成長と世界の需要を押し上げ、その過程で日本に恩恵を与えるとの期待を反映している。だが、最も重要な要因は、円相場だ。11月8日以降、円は1ドル=103円から同118円に下落した。
思わぬ幸運に恵まれ、この円相場の大きな振れは、投資家が日銀による最新の金融政策実験が持つ意味を理解したその瞬間に起きた。このため、一連の出来事が投資家心理を良い方向に変えたように見える。