廃炉作業が進む福島第1原発=2016年11月4日、本社機「希望」から
経産省有識者会議中間提言 賠償費用と廃炉費用負担
経済産業省は16日の有識者会議で、東京電力福島第1原発事故の賠償費用と老朽化した原発の廃炉費用について、大手電力だけでなく新電力にも負担を求める電力システム改革の提言をまとめた。大手電力が原発や石炭火力などの安価な電力を取引市場に供給するのと引き換えに、原発を持たない新電力にも原発事故の賠償費用などを負担してもらうバーター取引となった。
福島第1原発事故の処理費用の総額は従来見込みの11兆円から21.5兆円に倍増し、今後も拡大する可能性がある。しかし、提言では大手電力と新電力が送電網の利用料(託送料)に上乗せし、負担する賠償費の上限を2020年度からの40年間で2.4兆円、年に600億円とみなした。
この2.4兆円について、経産省は「本来、福島第1原発事故前から確保されておくべきだった。過去に安価な電気を利用したすべての需要家が公平に負担することが適当だ」と主張し、提言に盛り込んだ。経産省の試算では、標準家庭で毎月18円を40年間負担することになる。
これとは別に、大手電力が当初計画よりも前倒しで廃炉を決めた老朽原発の廃炉費用の一部も、託送料を通じて新電力にも負担を求める。実施は賠償費用の上乗せと同じ20年度からとなる。これら費用の託送料への上乗せ分は料金明細票に明記される。
経産省は倍増した福島第1原発事故の処理費用を上乗せしても、原発の発電コストは火力発電より安いと主張している。16日の有識者会議では、委員から「膨大な賠償費用を含めても原子力のコストが安いというなら、原子力事業者が託送料に押し付けないで、全部負担すべきだと思う人もいることを自覚すべきだ」(松村敏弘・東京大学教授)といった意見も出たが、大半の委員は提言案を大筋で了承した。今回の提言に対し、経産省は国民に意見募集(パブリックコメント)を行った後、正式に決定する。
新電力の負担と引き換えに、大手電力が安価な電力を取引市場に供給する仕組みについては、専門家から「原子力や石炭火力など従来型の電源を保護することになり、再生可能エネルギーなど新規技術の参入障壁になる」(安田陽・京都大学大学院特任教授)などの批判がある。
今回の改革は国会で法改正の必要がなく、経産省の省令改正で済むことから「国民不在」の声も上がっている。超党派の国会議員グループ「原発ゼロの会」(共同代表=自民党・河野太郎氏、民進党・近藤昭一氏)は「国民的議論はもちろん、国会の関与も一切ないまま、電力システム改革の原則をゆがめた国民負担増大案がまとめられるのは言語道断だ」とする声明を発表した。【川口雅浩、宮川裕章】
キーワード【託送料】
電力自由化に伴い、大手電力や新電力といった電力小売会社が送配電網を使用する時の利用料金で、標準家庭の電気料金の3~4割を占める。新規参入した新電力だけでなく、大手電力の場合は小売部門が送配電部門に支払う。送配電にかかる人件費や修繕費、減価償却費などが含まれる。各送配電会社がこれら費用を計算し経済産業相に申請すると、電力ガス取引監視等委員会の審査を経て経産相が認可する。送配電事業の利益が一定水準を超えると、経産相は料金引き下げを命令する。経産省は福島第1原発事故の賠償費の一部などを託送料に上乗せする方針。だが、国会審議を経ない点や送配電とは直接関係のない賠償費を盛り込むことには批判も出ている。