NEC、ソニー、シャープ、パナソニック……、1月下旬以降エレクトロニクス大手の巨額赤字や人員削減の発表が相次いだが、社名をながめていると共通項が浮かんでくる。いずれもバブル後の「失われた15年」を克服するため1990年代後半から2000年代にかけ「選択と集中」を迫られた企業である。一時は効果を発揮して苦境を脱し、新たな成長の道筋を築いたかに見られたが、現時点で振り返ってみるとリストラ途上で新事業の芽を摘んだり、集中投資が思惑外れとなった事例が目につく。成功体験にとらわれ、見通しやタイミングを誤ると「選択と集中」は企業の手足を奪い、縮小均衡を繰り返す悲惨な結果をもたらす。
1月26日の第3四半期決算説明会で、NECは12年3月期(以下、決算はすべて連結)の最終損益が1000億円の赤字に転落(従来予想は150億円の黒字)する見通しになり、グループ社員5000人、外部委託業務5000人分の「計1万人規模の人員削減」を行うと発表した。
同社はリーマン・ショック後の09年にも2万人削減を実施している。度重なる人員削減について記者会見で問われた遠藤信博社長は「円高の進行や現在の欧州(情勢)がどの程度日本に響いてくるかということが見えてなかった」と釈明した。
周知のように、かつて通信や半導体、パソコンで一世を風靡したNECは、皮肉なことにインターネットの普及によってこれら一連のIT(情報技術)が統合され始めた90年代後半から失速を始めた。経営陣の内紛もあって戦略が迷走したこともあり、半導体やパソコンなどハードウエア事業を縮小し、システム開発やコンサルティングに軸足を置くサービス化路線がようやく鮮明になったのはこの1~2年だ。
同じようにハードからサービスへと事業構造を転換させた米IBMの例をみると、ナビスコ社からスカウトされたルイス・ガースナー氏がCEO(最高経営責任者)として大改革を始めたのが93年であり、NECは海の向こうのかつてのライバルから、かれこれ20年近く後れを取っていることになる。
10年4月に半導体子会社のNECエレクトロニクスを同業のルネサステクノロジに統合、携帯電話事業も同年6月にカシオ計算機、日立製作所と部門統合させた。さらに懸案だったパソコン事業も11年1月に中国のレノボ・グループ(聯想集団)との合弁会社に移管。こうした事業の“切り出し”もあって、NECの売上高はピークだった01年3月期の5兆3549億円から12年3月期(予想)は3兆1000億円へと42%も減少する見通しだ。
それでも「選択と集中」によって利益が出ているならまだ救われるが、01年3月期~12年3月期の12年間のNECの最終損益を通算すると、5427億円の赤字である。今後のV字回復も期待薄で、遠藤社長は先の記者会見で一昨年発表した来期(13年3月期)売上高4兆円、最終利益1000億円という中期計画目標について「無理だと思っている」と語っている。
いまやNECの主力事業はITサービス、通信、社会インフラ、電池の4部門だが、いずれも独自性や新規性に乏しい。人員・経費削減という目先のリストラ効果を狙って事業を絞り込んだ結果、この会社は次なる成長の構図が描けない隘路(あいろ)にはまっているように見える。