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ベルリンテロ 独社会の分断を恐れる

 大勢の市民でにぎわっていたベルリン中心部で、クリスマスの市(いち)に大型トラックが突入し、約60人が死傷した。欧州でも治安が良く、難民に比較的寛容だったドイツの首都で起きた事件の衝撃は大きい。

     メルケル首相は「現状ではテロとしか考えられない」として、市民に警戒を呼びかけた。

     無防備な市民が集まる「ソフトターゲット」に対する無差別殺傷事件であり、断じて許されない。

     過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した。事件の背景など全容解明に向け、捜査の進展が待たれる。

     大型トラックを「凶器」にしたテロ事件は今年7月、南仏ニースでも起き、86人が死亡した。

     ドイツもこれを教訓に警備を強化していたはずだが、伝統行事であるクリスマスの市は、ベルリンだけでも大小数十カ所あった。そのすべてに目を光らせるのは、現実的には難しいだろう。

     現場に近い教会で行われた追悼式では、入りきれなかった市民数百人が氷点下の屋外で「人間の鎖」を作って連帯を誓った。ドイツ社会が受けた衝撃の大きさを物語る。

     懸念されるのは、極右勢力が国民の不安につけ込み、ドイツ社会の分断を深めることだ。

     事件直後、パキスタン出身で難民認定を求めていた若者が関与を疑われて拘束された。証拠がなく釈放されたが、難民や移民の排斥を訴える新興右派政党「ドイツのための選択肢」のペトリ共同党首は「イスラム過激派のテロ」と決めつけ、「メルケル(首相)とその仲間たちによる大きな罪だ」と指弾した。

     ドイツだけではない。フランスの極右政党「国民戦線」のルペン党首は「テロリストが(難民に)まぎれこんでいるのは明らかだ」と訴えた。

     米国のトランプ次期大統領も、真相がわからない段階から「イスラム過激派のテロ」と断じた。事件に便乗し、移民やイスラム系住民の排除を正当化しているかのようだ。

     ドイツは昨年だけで中東などから約100万人の難民を受け入れた。だが対策が追いつかず、規制を求める声は強まる一方だ。メルケル首相は来秋の総選挙で厳しい戦いが予想され、極右勢力は勢いづいている。

     来年は米国でトランプ政権が誕生し、英国の欧州連合(EU)からの離脱交渉が始まる。仏大統領選ではルペン氏が当選圏をうかがう。今回の事件が社会の分断につながることを憂える。

     その中でメルケル氏は、欧州の統合と寛容な社会を守ろうと苦闘している。非道な事件が、協調の精神を失わせることになってはならない。

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