ゲスト
(ka0000)
過去を知る者 ~騎士アーリア~
マスター:天田洋介
- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/12/08 12:00
- 完成日
- 2016/12/16 21:13
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
グラズヘイム王国の南部に伯爵地【ニュー・ウォルター】は存在する。
領主が住まう城塞都市の名は『マール』。自然の川を整備した十kmに渡る運河のおかげで内陸部にも関わらず帆船で『ニュー港』へ直接乗りつけることができた。
升の目のように造成された都市内の水上航路は多くのゴンドラが行き来していて、とても賑やかだ。
この地を治めるのはアリーア・エルブン伯爵。オリナニア騎士団長を兼任する十七歳になったばかりの銀髪の青年である。
前領主ダリーア・エルブン伯爵が次男である彼に家督を譲ったのは十四歳のとき。すでに闘病の日々を送っていた前領主は、それからわずかな期間で亡くなっていた。
長男ドネア・エルブンはそれ以前に死亡。妹のミリア・エルブンは健在である。幼い頃から秀才ぶりを発揮し、弱冠十五歳ながらも内政を担う。
偽金事件によって、亡くなったはずのドネアの生存が何者かによって仄めかされる。事故と発表されたドネアの死因だが、実は謀反に失敗して命を落としていた。
アーリアの兄は本当に死んだのか。ハンター達によって真相が暴かれる。
ドネアは歪虚軍長アスタロトとして復活。そして謀反に関与していた元親衛隊の女性ロランナ・ベヒも歪虚の身となっていた。
武器防具を積んだゴンドラの沈没事件、領地巡回アーリア一行襲撃事件、穀倉地帯における蝗雑魔大量発生等、アスタロト側が仕組んだ陰謀はことごとくハンター達の力添えによって打ち砕かれる。
だが、これらの陰謀には搦め手が存在した。ネビロスが運河の湧水個所破壊を密かに企んでいたのである。
看破されたことに焦ったネビロスが湧水個所を急襲。ハンター達の協力によって撃退されたものの、一ヶ月後に再度襲ってきた。歪虚アイテルカイトの尊厳をかなぐり捨てたネビロスだったが、騎士団とハンター達の前に敗北して最後の時を迎える。
勝利に沸く城塞都市マールの民。アーリアが喜んでいたのも事実だが、振り払ったはずの兄への気持ちは心の奥底でかすかに残る。
そんな折、マール城にアスタロトから晩餐への招待状が届いた。ミリアの反対を押し切り、アーリアはその場へと出向く。そこで交わされたアスタロトの発言はまさに傲慢に満ちていた。
マール城の執務室。
書状に目を通す手を止めたアーリアが、壁に掛けられた元エルブン伯である父ダーリアの肖像画を眺める。
(アスタロトがいっていたことは本当なのだろうか)
晩餐でアスタロトが話していた内容が気になって仕方がないアーリアだ。父ダリーアが命じた何かに深く失望したせいで、当時の兄は謀反を思い立ったらしい。
来室したミリアによって報告が行われた。
「当時の資料は皆無といってよいですの。わずかに城の蔵書目録に痕跡が残っていましたが、大元のそれらはすべて処分済みでしたの」
伏し目がちのミリアがドネアであった頃の兄と父ダーリアの確執に触れる。
「兄が謀反を起こした事実そのものが、父によって隠蔽されたのだ。そうであっても不思議ではないが」
アーリアがわずか数枚の資料に目を通す。
「そこで密偵に各地での聞き込みを実施させましたの。それらの中で気になったのが一つ。ある集落が王の親衛隊によって封鎖されて、半年後に廃集落となったというものがありましたの」
「当時の兄も関わっていたのか?」
「狩りをする際によく立ち寄った集落だったらしいですの。でも……当時、酪農集落を隠れ蓑にした野盗集団だったという悪い噂もありましたの」
「親衛隊に所属していた者からは聞きだせたのか? 集落の生き残りは?」
「親衛隊の方々は頑として口を開こうとしませんの。集落の生き残りは一人だけ。マサナという殿方ですが、今は野盗の頭をしているようなのです。先程の噂もあながち嘘ではなさそうですの」
アーリアとミリアは、真実を知るためにはマサナから聞きだすしかないと結論をだす。マサナが頭を務める野盗の出没地域は判明していた。
公に曝すわけにはいかないアーリアはハンターに協力を求める。
マサナが罪人なのは確定的だが、話しを聞くため殺さずにマール城まで連れてきて欲しい。そのような内容でハンターズソサエティーの支部での依頼は行われたのだった。
領主が住まう城塞都市の名は『マール』。自然の川を整備した十kmに渡る運河のおかげで内陸部にも関わらず帆船で『ニュー港』へ直接乗りつけることができた。
升の目のように造成された都市内の水上航路は多くのゴンドラが行き来していて、とても賑やかだ。
この地を治めるのはアリーア・エルブン伯爵。オリナニア騎士団長を兼任する十七歳になったばかりの銀髪の青年である。
前領主ダリーア・エルブン伯爵が次男である彼に家督を譲ったのは十四歳のとき。すでに闘病の日々を送っていた前領主は、それからわずかな期間で亡くなっていた。
長男ドネア・エルブンはそれ以前に死亡。妹のミリア・エルブンは健在である。幼い頃から秀才ぶりを発揮し、弱冠十五歳ながらも内政を担う。
偽金事件によって、亡くなったはずのドネアの生存が何者かによって仄めかされる。事故と発表されたドネアの死因だが、実は謀反に失敗して命を落としていた。
アーリアの兄は本当に死んだのか。ハンター達によって真相が暴かれる。
ドネアは歪虚軍長アスタロトとして復活。そして謀反に関与していた元親衛隊の女性ロランナ・ベヒも歪虚の身となっていた。
武器防具を積んだゴンドラの沈没事件、領地巡回アーリア一行襲撃事件、穀倉地帯における蝗雑魔大量発生等、アスタロト側が仕組んだ陰謀はことごとくハンター達の力添えによって打ち砕かれる。
だが、これらの陰謀には搦め手が存在した。ネビロスが運河の湧水個所破壊を密かに企んでいたのである。
看破されたことに焦ったネビロスが湧水個所を急襲。ハンター達の協力によって撃退されたものの、一ヶ月後に再度襲ってきた。歪虚アイテルカイトの尊厳をかなぐり捨てたネビロスだったが、騎士団とハンター達の前に敗北して最後の時を迎える。
勝利に沸く城塞都市マールの民。アーリアが喜んでいたのも事実だが、振り払ったはずの兄への気持ちは心の奥底でかすかに残る。
そんな折、マール城にアスタロトから晩餐への招待状が届いた。ミリアの反対を押し切り、アーリアはその場へと出向く。そこで交わされたアスタロトの発言はまさに傲慢に満ちていた。
マール城の執務室。
書状に目を通す手を止めたアーリアが、壁に掛けられた元エルブン伯である父ダーリアの肖像画を眺める。
(アスタロトがいっていたことは本当なのだろうか)
晩餐でアスタロトが話していた内容が気になって仕方がないアーリアだ。父ダリーアが命じた何かに深く失望したせいで、当時の兄は謀反を思い立ったらしい。
来室したミリアによって報告が行われた。
「当時の資料は皆無といってよいですの。わずかに城の蔵書目録に痕跡が残っていましたが、大元のそれらはすべて処分済みでしたの」
伏し目がちのミリアがドネアであった頃の兄と父ダーリアの確執に触れる。
「兄が謀反を起こした事実そのものが、父によって隠蔽されたのだ。そうであっても不思議ではないが」
アーリアがわずか数枚の資料に目を通す。
「そこで密偵に各地での聞き込みを実施させましたの。それらの中で気になったのが一つ。ある集落が王の親衛隊によって封鎖されて、半年後に廃集落となったというものがありましたの」
「当時の兄も関わっていたのか?」
「狩りをする際によく立ち寄った集落だったらしいですの。でも……当時、酪農集落を隠れ蓑にした野盗集団だったという悪い噂もありましたの」
「親衛隊に所属していた者からは聞きだせたのか? 集落の生き残りは?」
「親衛隊の方々は頑として口を開こうとしませんの。集落の生き残りは一人だけ。マサナという殿方ですが、今は野盗の頭をしているようなのです。先程の噂もあながち嘘ではなさそうですの」
アーリアとミリアは、真実を知るためにはマサナから聞きだすしかないと結論をだす。マサナが頭を務める野盗の出没地域は判明していた。
公に曝すわけにはいかないアーリアはハンターに協力を求める。
マサナが罪人なのは確定的だが、話しを聞くため殺さずにマール城まで連れてきて欲しい。そのような内容でハンターズソサエティーの支部での依頼は行われたのだった。
プレイング
リプレイ本文
●
ハンター一行は城塞都市マールで必要な物資を購入した。酒を扱う商隊として馬車と荷馬車にベルモットを積み込み、野盗が潜む森へと出立する。
(敵の大将の顔も拝めたところだ。こっちもやることやっておかねぇとな)
愛馬セルフを駆るエヴァンス・カルヴィ(ka0639)は商人風のローブに身を包んでいた。セラフに固定された大袋は食料等の商品で一杯である。
もう一人、馬で併走する人物がいた。鳳凰院ひりょ(ka3744)はフード付きコートで顔を隠しつつ裾を列の後方を走る。
身につけていた武器は仕込み杖。愛刀『虹』は外からでも受け取れるように工夫して馬車へと預けられている。エヴァンスのグレートソードについても同様だ。
馬車の御者は応援の騎士が務めていた。車内の小宮・千秋(ka6272)は晩食用の下拵えとしてピーラーで馬鈴薯の皮を剥く。
「御主人様も頑張られておりますし、野盗が現れるまで、とりあえず待機ですねー」
小宮千秋は足元で寝転がる黒猫とマルチーズに話しかける。ちなみに御主人様とはエヴァンスのことだ。
馬車後部は荷台になっていて、たくさんの荷が積まれていた。
(アーリアさんが気になっていることは、解決した方が良さそうですしね)
荷の中に潜んでいたのはミオレスカ(ka3496)。木箱の中で二挺拳銃を磨きながら、ひたすら待ち続ける。
後方を走る荷馬車の荷に隠れていたのは弓月 幸子(ka1749)だ。
(アーリアさんのお父さんか……。あれだけの人が歪虚側についっちゃってるんだもんね。その人のことちょっと知りたいよね)
寝転がりながら穴から野外を覗き見た。今は丘陵地だがもうすぐ森に差し掛かる。
荷馬車の御者台にはヴァルナ=エリゴス(ka2651)とディーナ・フェルミ(ka5843)の姿があった。
「私が姿を晒していた方が野盗も釣れやすいでしょうし」
ヴァルナは清楚ながら裕福な商家の娘に相応しい衣服に身を包んでいた。
「森はもうすぐなので気を引き締めますの」
ディーナが前方の馬車に合わせてわざと馬の足を鈍らせる。彼女には理由があって愛馬をわざと連れてこなかった。
森外縁に差しかかかったところで、本日の移動は終わり。野宿の準備を始める。本格的に森へ踏み込んだのは翌朝からであった。
●
森の道は非常に走りづらかった。曲がりくねるだけでなく、高低差のせいで坂の上り下りが激しい。苔だらけの古びた丸太橋を渡らなければならないときもある。距離そのものはそれほどでもないが、そのせいで通り抜けるのに時間がかかった。
ディーナが丁寧な手綱捌きで荷馬車を走らせる。
愛馬で駆けるエヴァンスと鳳凰院は周囲の変化に目を光らせた。
小宮千秋はいつでも武器を外の仲間へ渡せるよう馬車内で待機する。
馬車内の荷に隠れるミオレスカは銃を抜いて物音に耳を澄ます。荷馬車に潜む弓月幸子もそう。息を潜めながらワンドをぎゅっと握りしめた。
(嫌な空気ですね。見知らぬ誰かに覗かれているような)
御者台へと座るヴァルナは森に漂う雰囲気に気づいていながらも知らないふりをする。
どうであれ、野盗が現れるのを待つしかなかった。
一時間が経過。小休憩を挟んでもう一時間が経ち、そろそろ野宿の準備をしなければと小宮千秋が呟いた矢先だった。突然に前方脇に生えていた樹木が数本倒れる。わずかに遅れて後方の樹木も倒れて道が塞がれた。
急停止する商隊一行。
エヴァンスと鳳凰院は倒木の折れた部分に注目する。斧で伐った跡を見つけて、即座に馬車へと駆け寄った。仲間達に注意を促しつつ、扉の隙間から各々の武器を受け取る。エヴァンスは馬に積んであった大袋を棄てた。
次々と飛んできた矢が馬車や荷馬車に突き刺さった。ヴァルナ目がけて飛んできた矢を鳳凰院が抜いた仕込み杖で斬り落とす。
全方位から野太い声の鬨が聞こえてきた。
「御者台の女が商隊の長か? おとなしく投降して荷のすべてを渡すなら命はとらん! ついでに服ぐらいは剥がさずにいてやろう。とっとと降伏しやがれ!!」
脅迫の怒声が響く中、馬車や荷馬車に隠れていたハンター達が飛びだして反撃を開始する。
「このような振る舞いは許せませんね。そちらこそ投降すべきです!」
馬車屋根にのぼったミオレスカの二挺拳銃が火を噴いた。
枯れた茂み隠れて弓矢を構える野盗を見逃さない。わずかに露わになった腕や手、もしくは鏃から位置を推定して銃爪を絞る。手応えを感じた瞬間に次の標的へ銃口を向けた。
「やらせませんよ」
味方に向けて矢が放たれてしまったときには妨害射撃で撃ち落とす。樹木の裏に隠れて呼吸を整える。場所を移動しつつ野盗を無力化していった。
枯れ草の山に忍んでいた野盗が姿を晒す。馬車の扉を壊そうとしたものの、内側から鍵はかけられていなかった。
「こんにちはー。ですが無理矢理な訪問はいけませんよー」
扉を開くと笑顔のメイド少女、小宮千秋が出迎える。虚を突かれた野盗に黒猫とマルチーズが襲いかかった。顔を爪で引っ掻かれ、左足の脛をガブリと囓られて、野盗は外へと転がり落ちてしまう。
「素直にご用件をお伝えできればと考えていたのですが、やはりこうなってしまいましたかー」
野外へぴょんと飛びだした小宮千秋に起きあがった野盗が殴りかかる。
小宮千秋は垂れた犬耳を揺らしながら野盗の胸元を掴んだ。足を引っかけて宙に浮かべてから、竜巻返しで地面へと叩き落とした。
「てめえら不甲斐ねえぞ。もう容赦しねぇ! 手加減はしねぇぞ、覚悟しろ!」
先程、投降を呼びかけたのと同じ声で突撃が宣言される。それまで隠れて矢を射っていた野盗等が剣や斧を手にして一斉に襲いかかってきた。
御者台から飛びおりたディーナが強く握ったクロイツハンマーを振り抜く。または勢いよく振り下ろす。盾を構えて突進してきた野盗でも構わずに打撃。丸ごと弾きとばした。
「鈍器の方が刃のついた武器や銃器より手加減出来るかなって思ったの」
ディーナのその言葉に顔を青ざめさせた野盗が後ずさる。足元の地面には泡を吹いて倒れている野盗が何人も転がっていた。
「覚醒者じゃない人はお休みだよ」
符を打つ弓月幸子が発生させたのはスリープクラウドの青白い霧である。
漂いに包まれたうち何人かの野盗が武器を落とし、その場へとへたり込んで夢の中へと誘われた。そうでなくても目を擦って足元をふらつかせる。
「さっきのを攻撃魔法にしてもよかったんだよ。ボクたちの方にマサナさんと戦う意思はないってわかってもらえないかな」
近場にいるはずの、野盗の頭であるマサナに聞こえるよう弓月幸子は大声で話す。
睡魔に惑わされた相手に本気をだす必要はない。ハンター仲間も手加減して死なない程度に野盗を倒していく。
「簒奪者のリーダー、どちらにいるのです?!」
ヴァルナが叫んだとき、茂みから二頭の馬が森道へと飛びだしてくる。馬上の二人は野盗の頭か補佐といった面構えだ。業を煮やした野盗の頭がついに動きだした。
二人ともマサナの特徴だと教えられていた茶髪で頬に傷が刻まれている。背格好も同じくらいで、どちらがマサナなのか判別がつかなかった。
「頭のマサナさんはどちらでしょう?」
ヴァルナがスカートを翻し、隠していたナイフを手にする。
野盗二人とも口を開かずに怒りを露わにしていた。愛馬を嘶かせたエヴァンスと鳳凰院がヴァルナの加勢に加わる。
事前情報だと野盗内の覚醒者はマサナを含めて二人のみ。これまでの戦闘で覚醒者らしき動きを見せた者はいなかった。
ヴァルナ、鳳凰院、エヴァンスが気を引き締めた矢先に事態は急変する。鷹ほどの巨大な蝙蝠と、普通より二回りほど大きい狼が複数現れたのである。
「あれは……アスタロトの」
樹木の枝の上に立っていたミオレスカが呟く。どの個体も骨の一部が露出しているところからいって幻獣ではないと判断。アスタロトが放った刺客雑魔だと察した。
「野盗共、死にたくないならこの場から急いで逃げろ!」
エヴァンスは叫びながらグレートソードを構えてこれまで来た方角へと突進。倒木を跳び越えつつ、掬いあげるような振りで真っ二つに斬る。
「せいのー」
「でっ!」
ディーナと小宮千秋が割れた倒木をそれぞれハンマーで力一杯叩いた。土埃を立てて動き、馬車や荷馬車が通れるだけの隙間が空く。
「二人とも死にたくなければ一緒に来るべきですよ」
「その通りです。歪虚が強くて残虐なのは知っていますよね?」
鳳凰院とヴァルナが刃を交えながら野盗二人の説得を試みる。逃げられる道筋はエヴァンスが拓いた後方しか残っていない。森の茂みに逃げ込んだとしてもすぐに追いつかれてしまうだろう。
アスタロト側の隙を見て馬車と荷馬車が動きだす。乗り込んだのはハンター達だけではなかった。野盗の一部も二両にしがみついていた。
野盗の頭と補佐らしき二人も仕方ないといった表情を浮かべて手綱を捌き、撤退の列へと加わる。エヴァンスと鳳凰院は逃がさぬよう二人を見張りながら愛馬で駆って殿を務めた。
上空から風刃や惑わす高音を放つ蝙蝠雑魔には銃撃や魔法で対処。牙を剥いて襲いかかる狼雑魔は刃で切り裂く。
「ここからしばらくはまっすぐですの!」
手綱を握るディーナが叫んだ。険しい森道なのは変わりないが、一度通っているので勝手はわかる。比較的安全なところで速く駆けてアスタロト側を引き離す。
野盗も身に迫る危機にアスタロト側を攻撃する。持てるだけの矢を放ち続け、剣や斧を振り回した。
「野盗の頭であるマサナを引き渡せば今日のところは見逃してやろう。その者といくらか話しておきたいことがあるのだ」
崖に木霊する声が商隊にまで届いた。姿は見えないものの聞き覚えがある。アスタロトに間違いなかった。
『ブラックファイア』との言葉が響き、目指す前方の道に漆黒の球が落とされる。一行は急停止。ファイアーボールに似たそれは大地の表面を引き剥がした。樹木はまとめてなぎ倒される。
次第に収まっていく土煙の中に二つの人影が。一人はアスタロト、もう一人は見知らぬ誰か。消失したネビロスではなく若者の容姿をしていた。
「マサナよ。これまでは我の野望につき合わせることはないと考えていたが、アーリアが手をだすのなら話は変わってくる。こちら側につくのだ。殺された同胞の無念を思いだすのだ」
アスタロトの言葉に、野盗の片方が馬を少しだけ前進させる。
「お前……ドネアなのか? 死んだと聞かされていたが。すっかり変わったその姿、そうか……歪虚になったんだな」
「そうだ、マサナ。黒伯爵としてニュー・ウォルターに舞い戻ってきたのだ。父ダーリアへの復讐を果たすためにな」
アスタロトの大仰な物言いにマサナが絶えきれずに大声で笑いだす。
「一人だけで生き残ったあのとき、てめぇの親父の横っ面をはったおしたかったのは本当だ。だからいってよ。もう恨んでなんていねぇぞ。ガキじゃねぇんだからな」
マサナの物言いにアスタロトの表情が変わる。アスタロトの眉間に皺が寄った。
アスタロトが指を鳴らすと蝙蝠雑魔が一斉にマサナ目がけて急降下。それを阻止するためにハンター達は全力を尽くす。
「これ以上はやらせないですよ」
ミオレスカは威嚇射撃でアスタロトがこれ以上ブラックファイアを使わないよう牽制し続ける。
「スリープクラウドは効かないみたいですね。それなら」
弓月幸子が放った雷撃が地表から大空へと一直線に伸びていく。蝙蝠雑魔をまとめて屠ったものの、一体がすり抜けて彼女へと迫った。ぶつかる直前、鳳凰院が振り下ろした刀が間に合い、切り裂かれた敵が黒い塵と化す。
「幸子は俺が守る。そう誓ったからな」
鳳凰院は弓月幸子と背中合わせになって呟く。
その頃、ディーナは聖なる輝きに満ちていた。
「こういうときには、これでどうですの」
セイクリッドフラッシュによる光の波動が広がって周囲の雑魔すべてに衝撃を加える。アスタロトと歪虚らしき青年も例外ではない。
「まったく、混乱の最中に逃げようとしやがった。こいつを頼む」
エヴァンスが立てなくしたマサナを馬車まで引きずっていく。
「わかりました御主人様ー。こちらへ早くはいってくださいねー」
小宮千秋はマサナの襟首を掴んで馬車内へと引きずり込んだ。「静かにしてくださいね」とヴァルナも手伝い、マサナに鋼鉄の手枷足枷を填めて逃げられなくする。
アスタロトは興が削がれたのか雑魔共に任せて場を立ち去ろうとしていた。
「大将よ、逃げるのか? もっとやっても構わねぇんだぜ?」
エヴァンスが声をかけると崖上のアスタロトは鼻で笑う。まるでマサナにやられたことへの意趣返しのように。
「逃げるなどと世迷い言を。元々、マサナに利用価値などはありはしないからな。ただの郷愁に過ぎぬ。アーリアが奴の口から父のしでかした罪を知るのなら、それも一興だ」
負け惜しみともとれる一言を残して姿を消した。歪虚らしき青年も一緒に。
雑魔が一掃されたのはそれから五分もかからなかった。
生き残った野盗は逃げだしたものの、補佐役だけは最後まで抵抗を続ける。
「頭をどうしやがった!」
鳳凰院が守りの構えで疲れさせてから手加減して補佐役を倒す。マサナと同じようにして馬車へと放り込まれる。
「猿ぐつわに手枷足枷がしてあれば、暴れるのは難しいの。怪我したままじゃマールは遠いの」
ディーナは先に仲間達を癒やした後、マサナと補佐役にもフルリカバリーをかけてあげたのだった。
●
ハンター一行は目立たぬようにマール城へと到着。アーリアとマサナの面会の場に立ち会った。その場にはミリアの姿もある。
「当時、集落で何があったのかを教えて欲しい」
アーリアが詰問してもマサナは無言を貫いた。これまで人を殺めていない点を考慮して減刑を提示。するとようやく口を開く。
「集落でバタバタと死んでいったのさ。そのことをドネアを通じて知ったお前の親父が部下を使って閉じ込めたんだよ。生き残ったのは俺だけ。当時は恨みもしたさ。それでも思い返してみれば、薬や食い物とかはくれたんだ。野盗の集落だとわかっていただろうに……」
「アス、いやドネアはその事実を知っているのか?」
「知っているだろうが、どう解釈しているかだな。前から親父に反感を覚えていたようだし。奴についての悪い噂は大げさだったが、八割方は本当だった。あれでも優しいところも……ま、兄弟なら知っているだろうさ」
アーリアとマサナのやり取りは一時間ほどで終わる。その後、マサナは補佐役と一緒に終身刑で牢獄行きとなった。
一行には商隊用の備品として用意したベルベットの一部が贈られる。
「マサナをよく連れてきてくれた」
「ありがとうですの」
アーリアとミリアが支部の転移門まで見送りへ来てくれたことに、一行は驚いたのだった。
ハンター一行は城塞都市マールで必要な物資を購入した。酒を扱う商隊として馬車と荷馬車にベルモットを積み込み、野盗が潜む森へと出立する。
(敵の大将の顔も拝めたところだ。こっちもやることやっておかねぇとな)
愛馬セルフを駆るエヴァンス・カルヴィ(ka0639)は商人風のローブに身を包んでいた。セラフに固定された大袋は食料等の商品で一杯である。
もう一人、馬で併走する人物がいた。鳳凰院ひりょ(ka3744)はフード付きコートで顔を隠しつつ裾を列の後方を走る。
身につけていた武器は仕込み杖。愛刀『虹』は外からでも受け取れるように工夫して馬車へと預けられている。エヴァンスのグレートソードについても同様だ。
馬車の御者は応援の騎士が務めていた。車内の小宮・千秋(ka6272)は晩食用の下拵えとしてピーラーで馬鈴薯の皮を剥く。
「御主人様も頑張られておりますし、野盗が現れるまで、とりあえず待機ですねー」
小宮千秋は足元で寝転がる黒猫とマルチーズに話しかける。ちなみに御主人様とはエヴァンスのことだ。
馬車後部は荷台になっていて、たくさんの荷が積まれていた。
(アーリアさんが気になっていることは、解決した方が良さそうですしね)
荷の中に潜んでいたのはミオレスカ(ka3496)。木箱の中で二挺拳銃を磨きながら、ひたすら待ち続ける。
後方を走る荷馬車の荷に隠れていたのは弓月 幸子(ka1749)だ。
(アーリアさんのお父さんか……。あれだけの人が歪虚側についっちゃってるんだもんね。その人のことちょっと知りたいよね)
寝転がりながら穴から野外を覗き見た。今は丘陵地だがもうすぐ森に差し掛かる。
荷馬車の御者台にはヴァルナ=エリゴス(ka2651)とディーナ・フェルミ(ka5843)の姿があった。
「私が姿を晒していた方が野盗も釣れやすいでしょうし」
ヴァルナは清楚ながら裕福な商家の娘に相応しい衣服に身を包んでいた。
「森はもうすぐなので気を引き締めますの」
ディーナが前方の馬車に合わせてわざと馬の足を鈍らせる。彼女には理由があって愛馬をわざと連れてこなかった。
森外縁に差しかかかったところで、本日の移動は終わり。野宿の準備を始める。本格的に森へ踏み込んだのは翌朝からであった。
●
森の道は非常に走りづらかった。曲がりくねるだけでなく、高低差のせいで坂の上り下りが激しい。苔だらけの古びた丸太橋を渡らなければならないときもある。距離そのものはそれほどでもないが、そのせいで通り抜けるのに時間がかかった。
ディーナが丁寧な手綱捌きで荷馬車を走らせる。
愛馬で駆けるエヴァンスと鳳凰院は周囲の変化に目を光らせた。
小宮千秋はいつでも武器を外の仲間へ渡せるよう馬車内で待機する。
馬車内の荷に隠れるミオレスカは銃を抜いて物音に耳を澄ます。荷馬車に潜む弓月幸子もそう。息を潜めながらワンドをぎゅっと握りしめた。
(嫌な空気ですね。見知らぬ誰かに覗かれているような)
御者台へと座るヴァルナは森に漂う雰囲気に気づいていながらも知らないふりをする。
どうであれ、野盗が現れるのを待つしかなかった。
一時間が経過。小休憩を挟んでもう一時間が経ち、そろそろ野宿の準備をしなければと小宮千秋が呟いた矢先だった。突然に前方脇に生えていた樹木が数本倒れる。わずかに遅れて後方の樹木も倒れて道が塞がれた。
急停止する商隊一行。
エヴァンスと鳳凰院は倒木の折れた部分に注目する。斧で伐った跡を見つけて、即座に馬車へと駆け寄った。仲間達に注意を促しつつ、扉の隙間から各々の武器を受け取る。エヴァンスは馬に積んであった大袋を棄てた。
次々と飛んできた矢が馬車や荷馬車に突き刺さった。ヴァルナ目がけて飛んできた矢を鳳凰院が抜いた仕込み杖で斬り落とす。
全方位から野太い声の鬨が聞こえてきた。
「御者台の女が商隊の長か? おとなしく投降して荷のすべてを渡すなら命はとらん! ついでに服ぐらいは剥がさずにいてやろう。とっとと降伏しやがれ!!」
脅迫の怒声が響く中、馬車や荷馬車に隠れていたハンター達が飛びだして反撃を開始する。
「このような振る舞いは許せませんね。そちらこそ投降すべきです!」
馬車屋根にのぼったミオレスカの二挺拳銃が火を噴いた。
枯れた茂み隠れて弓矢を構える野盗を見逃さない。わずかに露わになった腕や手、もしくは鏃から位置を推定して銃爪を絞る。手応えを感じた瞬間に次の標的へ銃口を向けた。
「やらせませんよ」
味方に向けて矢が放たれてしまったときには妨害射撃で撃ち落とす。樹木の裏に隠れて呼吸を整える。場所を移動しつつ野盗を無力化していった。
枯れ草の山に忍んでいた野盗が姿を晒す。馬車の扉を壊そうとしたものの、内側から鍵はかけられていなかった。
「こんにちはー。ですが無理矢理な訪問はいけませんよー」
扉を開くと笑顔のメイド少女、小宮千秋が出迎える。虚を突かれた野盗に黒猫とマルチーズが襲いかかった。顔を爪で引っ掻かれ、左足の脛をガブリと囓られて、野盗は外へと転がり落ちてしまう。
「素直にご用件をお伝えできればと考えていたのですが、やはりこうなってしまいましたかー」
野外へぴょんと飛びだした小宮千秋に起きあがった野盗が殴りかかる。
小宮千秋は垂れた犬耳を揺らしながら野盗の胸元を掴んだ。足を引っかけて宙に浮かべてから、竜巻返しで地面へと叩き落とした。
「てめえら不甲斐ねえぞ。もう容赦しねぇ! 手加減はしねぇぞ、覚悟しろ!」
先程、投降を呼びかけたのと同じ声で突撃が宣言される。それまで隠れて矢を射っていた野盗等が剣や斧を手にして一斉に襲いかかってきた。
御者台から飛びおりたディーナが強く握ったクロイツハンマーを振り抜く。または勢いよく振り下ろす。盾を構えて突進してきた野盗でも構わずに打撃。丸ごと弾きとばした。
「鈍器の方が刃のついた武器や銃器より手加減出来るかなって思ったの」
ディーナのその言葉に顔を青ざめさせた野盗が後ずさる。足元の地面には泡を吹いて倒れている野盗が何人も転がっていた。
「覚醒者じゃない人はお休みだよ」
符を打つ弓月幸子が発生させたのはスリープクラウドの青白い霧である。
漂いに包まれたうち何人かの野盗が武器を落とし、その場へとへたり込んで夢の中へと誘われた。そうでなくても目を擦って足元をふらつかせる。
「さっきのを攻撃魔法にしてもよかったんだよ。ボクたちの方にマサナさんと戦う意思はないってわかってもらえないかな」
近場にいるはずの、野盗の頭であるマサナに聞こえるよう弓月幸子は大声で話す。
睡魔に惑わされた相手に本気をだす必要はない。ハンター仲間も手加減して死なない程度に野盗を倒していく。
「簒奪者のリーダー、どちらにいるのです?!」
ヴァルナが叫んだとき、茂みから二頭の馬が森道へと飛びだしてくる。馬上の二人は野盗の頭か補佐といった面構えだ。業を煮やした野盗の頭がついに動きだした。
二人ともマサナの特徴だと教えられていた茶髪で頬に傷が刻まれている。背格好も同じくらいで、どちらがマサナなのか判別がつかなかった。
「頭のマサナさんはどちらでしょう?」
ヴァルナがスカートを翻し、隠していたナイフを手にする。
野盗二人とも口を開かずに怒りを露わにしていた。愛馬を嘶かせたエヴァンスと鳳凰院がヴァルナの加勢に加わる。
事前情報だと野盗内の覚醒者はマサナを含めて二人のみ。これまでの戦闘で覚醒者らしき動きを見せた者はいなかった。
ヴァルナ、鳳凰院、エヴァンスが気を引き締めた矢先に事態は急変する。鷹ほどの巨大な蝙蝠と、普通より二回りほど大きい狼が複数現れたのである。
「あれは……アスタロトの」
樹木の枝の上に立っていたミオレスカが呟く。どの個体も骨の一部が露出しているところからいって幻獣ではないと判断。アスタロトが放った刺客雑魔だと察した。
「野盗共、死にたくないならこの場から急いで逃げろ!」
エヴァンスは叫びながらグレートソードを構えてこれまで来た方角へと突進。倒木を跳び越えつつ、掬いあげるような振りで真っ二つに斬る。
「せいのー」
「でっ!」
ディーナと小宮千秋が割れた倒木をそれぞれハンマーで力一杯叩いた。土埃を立てて動き、馬車や荷馬車が通れるだけの隙間が空く。
「二人とも死にたくなければ一緒に来るべきですよ」
「その通りです。歪虚が強くて残虐なのは知っていますよね?」
鳳凰院とヴァルナが刃を交えながら野盗二人の説得を試みる。逃げられる道筋はエヴァンスが拓いた後方しか残っていない。森の茂みに逃げ込んだとしてもすぐに追いつかれてしまうだろう。
アスタロト側の隙を見て馬車と荷馬車が動きだす。乗り込んだのはハンター達だけではなかった。野盗の一部も二両にしがみついていた。
野盗の頭と補佐らしき二人も仕方ないといった表情を浮かべて手綱を捌き、撤退の列へと加わる。エヴァンスと鳳凰院は逃がさぬよう二人を見張りながら愛馬で駆って殿を務めた。
上空から風刃や惑わす高音を放つ蝙蝠雑魔には銃撃や魔法で対処。牙を剥いて襲いかかる狼雑魔は刃で切り裂く。
「ここからしばらくはまっすぐですの!」
手綱を握るディーナが叫んだ。険しい森道なのは変わりないが、一度通っているので勝手はわかる。比較的安全なところで速く駆けてアスタロト側を引き離す。
野盗も身に迫る危機にアスタロト側を攻撃する。持てるだけの矢を放ち続け、剣や斧を振り回した。
「野盗の頭であるマサナを引き渡せば今日のところは見逃してやろう。その者といくらか話しておきたいことがあるのだ」
崖に木霊する声が商隊にまで届いた。姿は見えないものの聞き覚えがある。アスタロトに間違いなかった。
『ブラックファイア』との言葉が響き、目指す前方の道に漆黒の球が落とされる。一行は急停止。ファイアーボールに似たそれは大地の表面を引き剥がした。樹木はまとめてなぎ倒される。
次第に収まっていく土煙の中に二つの人影が。一人はアスタロト、もう一人は見知らぬ誰か。消失したネビロスではなく若者の容姿をしていた。
「マサナよ。これまでは我の野望につき合わせることはないと考えていたが、アーリアが手をだすのなら話は変わってくる。こちら側につくのだ。殺された同胞の無念を思いだすのだ」
アスタロトの言葉に、野盗の片方が馬を少しだけ前進させる。
「お前……ドネアなのか? 死んだと聞かされていたが。すっかり変わったその姿、そうか……歪虚になったんだな」
「そうだ、マサナ。黒伯爵としてニュー・ウォルターに舞い戻ってきたのだ。父ダーリアへの復讐を果たすためにな」
アスタロトの大仰な物言いにマサナが絶えきれずに大声で笑いだす。
「一人だけで生き残ったあのとき、てめぇの親父の横っ面をはったおしたかったのは本当だ。だからいってよ。もう恨んでなんていねぇぞ。ガキじゃねぇんだからな」
マサナの物言いにアスタロトの表情が変わる。アスタロトの眉間に皺が寄った。
アスタロトが指を鳴らすと蝙蝠雑魔が一斉にマサナ目がけて急降下。それを阻止するためにハンター達は全力を尽くす。
「これ以上はやらせないですよ」
ミオレスカは威嚇射撃でアスタロトがこれ以上ブラックファイアを使わないよう牽制し続ける。
「スリープクラウドは効かないみたいですね。それなら」
弓月幸子が放った雷撃が地表から大空へと一直線に伸びていく。蝙蝠雑魔をまとめて屠ったものの、一体がすり抜けて彼女へと迫った。ぶつかる直前、鳳凰院が振り下ろした刀が間に合い、切り裂かれた敵が黒い塵と化す。
「幸子は俺が守る。そう誓ったからな」
鳳凰院は弓月幸子と背中合わせになって呟く。
その頃、ディーナは聖なる輝きに満ちていた。
「こういうときには、これでどうですの」
セイクリッドフラッシュによる光の波動が広がって周囲の雑魔すべてに衝撃を加える。アスタロトと歪虚らしき青年も例外ではない。
「まったく、混乱の最中に逃げようとしやがった。こいつを頼む」
エヴァンスが立てなくしたマサナを馬車まで引きずっていく。
「わかりました御主人様ー。こちらへ早くはいってくださいねー」
小宮千秋はマサナの襟首を掴んで馬車内へと引きずり込んだ。「静かにしてくださいね」とヴァルナも手伝い、マサナに鋼鉄の手枷足枷を填めて逃げられなくする。
アスタロトは興が削がれたのか雑魔共に任せて場を立ち去ろうとしていた。
「大将よ、逃げるのか? もっとやっても構わねぇんだぜ?」
エヴァンスが声をかけると崖上のアスタロトは鼻で笑う。まるでマサナにやられたことへの意趣返しのように。
「逃げるなどと世迷い言を。元々、マサナに利用価値などはありはしないからな。ただの郷愁に過ぎぬ。アーリアが奴の口から父のしでかした罪を知るのなら、それも一興だ」
負け惜しみともとれる一言を残して姿を消した。歪虚らしき青年も一緒に。
雑魔が一掃されたのはそれから五分もかからなかった。
生き残った野盗は逃げだしたものの、補佐役だけは最後まで抵抗を続ける。
「頭をどうしやがった!」
鳳凰院が守りの構えで疲れさせてから手加減して補佐役を倒す。マサナと同じようにして馬車へと放り込まれる。
「猿ぐつわに手枷足枷がしてあれば、暴れるのは難しいの。怪我したままじゃマールは遠いの」
ディーナは先に仲間達を癒やした後、マサナと補佐役にもフルリカバリーをかけてあげたのだった。
●
ハンター一行は目立たぬようにマール城へと到着。アーリアとマサナの面会の場に立ち会った。その場にはミリアの姿もある。
「当時、集落で何があったのかを教えて欲しい」
アーリアが詰問してもマサナは無言を貫いた。これまで人を殺めていない点を考慮して減刑を提示。するとようやく口を開く。
「集落でバタバタと死んでいったのさ。そのことをドネアを通じて知ったお前の親父が部下を使って閉じ込めたんだよ。生き残ったのは俺だけ。当時は恨みもしたさ。それでも思い返してみれば、薬や食い物とかはくれたんだ。野盗の集落だとわかっていただろうに……」
「アス、いやドネアはその事実を知っているのか?」
「知っているだろうが、どう解釈しているかだな。前から親父に反感を覚えていたようだし。奴についての悪い噂は大げさだったが、八割方は本当だった。あれでも優しいところも……ま、兄弟なら知っているだろうさ」
アーリアとマサナのやり取りは一時間ほどで終わる。その後、マサナは補佐役と一緒に終身刑で牢獄行きとなった。
一行には商隊用の備品として用意したベルベットの一部が贈られる。
「マサナをよく連れてきてくれた」
「ありがとうですの」
アーリアとミリアが支部の転移門まで見送りへ来てくれたことに、一行は驚いたのだった。
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マサナの身柄を確保せよ! 鳳凰院ひりょ(ka3744) 人間(リアルブルー)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/12/08 12:34:38 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/12/08 12:31:39 |