目次
- プロ棋士の最高権威「名人」を目指した青年の物語
- 「ネフローゼ」という難病の辛さ
- 松山ケンイチさんの役者魂には恐れ入った
- 将棋盤を挟んで次の一手を求める姿はまるで格闘技だ
- リリー・フランキーさん演ずる師匠の森信雄七段
- プロ棋士になれない弟弟子
- 柄本時生さん演ずるプロ棋士・荒崎学
- まとめ
プロ棋士の最高権威「名人」を目指した青年の物語
昔働いていた田舎町の役場では、昼休みには将棋をするペアがところどころに居ました。その周りには人がいっぱい集まって、あ~でもない、こ~でもない、チャチャが入れて楽しんでいました。
私も将棋に興味を持つようなり、詰将棋や戦法を解説した本を読んだりもしました。NHKには将棋の時間があって、詰将棋や戦法の解説、NHK杯の対局を放送していて、日曜のお昼にはよく見たものです。
そのNHK杯の対局に登場する棋士にぷっくりした顔の青年がいました。その棋士この映画の主人公、村山聖九段だったのです。この映画の予告や原作のレビューを見て彼が難病「ネフローゼ」であったこと、だから、ぷっくりした顔つきであったことを知りました。
そうだったのか・・・。そんな状況でも、神童があつまる奨励会を勝ち残ってプロ棋士になり、A級8段まで上り詰め、最高権威である「名人」の挑戦権を争うまでになっていたのか・・・。
村山聖九段は29歳の若さで亡くなっています。私が29歳のときは田舎で毎日飲んだくれていました。どう生きていいか分からなかったからです。
人生はたった一回しかないというに・・・。何かに熱中したいけれど人生を賭けるものさえ分からない・・・。ビッグになってやるとは思っても29歳になっても何にもなっていません。当たり前です。何の努力もしていないのですから。
私は上京しました。32歳にもなって中二病だったのです。
「聖の青春」の村山聖九段はどんな描き方がされるんだろう。そんな興味をもって映画を見にいきました。
「ネフローゼ」という難病の辛さ
オープニングは満開の桜のカットから始まります。満開の桜から、公園の隣にあるゴミ集積所のところに男が倒れています。
村山聖九段? 村山さんが亡くなったのは知っていましたから、倒れて亡くなったところから映画が始めるのかと思いましたら、違いました。
軽トラックから中年男が降りて声をかけると、将棋会館へ連れて行ってくれと言います。男に抱えながらようやく対局の席に着く村山九段。駒をひとつひとつ並べていくと、顔つきがだんだんとプロの厳しいものに変っていきます。
村山九段の生涯成績は 356勝201敗。そのうち不戦敗が12もあります。久保利明九段が10月30日に行われる予定の対局に遅刻して不戦敗となり、ニュースになりました。不戦敗はそれほど珍しいものです。その不戦敗が12もあったのですから、ネフローゼと戦いながらの対局が大変なものだったのかが分かります。
村山聖さんは膀胱がんになってしま、手術を勧められたとき、「麻酔をしないんだったら、手術をする」と言うんです。
無茶な話です。実際にそんなことを言ったかどうかは知りませんが、残された命で名人になるための最善の道を探そうとしていた村山さんを見事に表現していました。
松山ケンイチさんの役者魂には恐れ入った
村山九段の役を演じたのは松山ケンイチさん。ネフローゼでむくんだ村山九段のイメージを出すために体重を20キロも増加させたそうで、そのプロ根性には恐れいりました。
ロバート・デニーロが『レイジング・ブル』という実在のプロボクサーを描いた映画で体重を27kgも増やしたとか、坂本スミ子さんが、『楢山節考』で老女を演じるために前歯を短く削ってしまったとか、凄い人がいるもんですが、松山ケンイチさんも負けずとも劣らず。村山九段の雰囲気が出てました。
羽生善治さんを演じた東出昌大さんも雰囲気で出てました。羽生さんと言えば寝ぐせのヘアスタイルがトレードマークみたいなものだったのですが、映画ではやってませんでしたね。あたりまえですか・・・。
将棋盤を挟んで次の一手を求める姿はまるで格闘技だ
映画は羽生善治さんとの対局がメインです。
放送大学のキネマ旬報には、松山ケンイチさん、東出昌大さんが棋譜を全部覚えて、持ち時間1時間の将棋を再現して、カメラを回しっぱなしで撮影したことが書いてありました。途中で寝転んだり・・・長考したり・・・。
役者さんは次に指す一手は分かってはいるものの、実際に将棋の世界に入って手を読んだりしたんでしょう。そうでないとあれほどの緊張感は出てこないと思います。
映画は空気が雰囲気を映すもの。まさにこの言葉がぴったりのシーンになりました。
将棋を指す手の動きをみると、ある程度将棋の強さは分かります。プロともなると、将棋の駒に触れていた時間が長いですから、自然と手の動きも美しくなります。
それが映画では見事に駒を動かしていました。松山ケンイチさんは役が決まると毎日将棋の駒を持ち歩いて手に触れていたそうです。こんなことも、キネマ旬報の記事にありました。
リリー・フランキーさん演ずる師匠の森信雄七段
特に印象に残ったのが、弟子の聖が大阪から東京に引っ越すために聖の母と荷物の整理をしているシーンです。「師匠にこんなことさせるのはあいつぐらいだ」みたいな事を言ってぼやくシーンに人柄の良さがにじみ出ていました。
Wikipediaの森信雄七段の記事にも面白いことがありました。弟子の誰にも結婚の話を教えなかったり、また披露宴では祝辞の依頼をしていなくて、司会者が当日現地で祝辞の依頼に追われたり。
これを読んで、森七段は引っ込み思案なのかなって思いました。言い出そうと思っているんだけど、そのタイミングがみつからなくて、どんどん言い出しにくくなる。若いときの自分がそうだったのでとても親しみが湧きました。違っていたら、すみません。
最近、村山七段は村山聖さんの写真をアップしています。自分の子供のように思っていたのが分かります。
23日まで毎日映画館へ村山聡に会いに行くツイートしています。(森七段のツイッター)
プロ棋士になれない弟弟子
同じ森門下の弟弟子が登場してプロ棋士になる厳しさが描かれます。
プロになるために奨励会に入り、満26歳までに四段に昇段しなければなりません。できなかった者は退会。奨励会に入ってくるのは神童と呼ばれるような、小学生なのにアマチュア県代表クラスを倒すような神童ばかり。そこを勝ち抜かなければならないのです。
染谷将太さん演ずる弟弟子はこの試合に負ければ引退という対局に臨みます。相手が無邪気そうな子どもなのも皮肉です。鼻血を出しながら闘いますが敗れてしまいます。
そのときのことをモデルになった弟弟子がNHKの番組で話していたのを聞いたことがあります。
「負け犬と言われたので、殴ってしまった・・・」と。
村山聖さんが「こんなもの死ねば何にもならない」とお金を破りすて、そこに弟弟子が殴りかかる。そんなシーンとして再現されていました。
柄本時生さん演ずるプロ棋士・荒崎学
「荒崎学」という役名からモデルは先崎学さんだと分かります。
映画では、大ざっぱというか、人なつっこいというか印象に残るキャラクターとして描かれていました。
その役を演じていたのが柄本時生さん。柄本明さんのお子さんなんですね。とても味のある演技をされていました。
本物の先崎学さんはNHKの将棋解説でみたことがあります。本物はもっと知性的な人なんだと思いますが。
まとめ
「怪童」と呼ばれた天才棋士村山聖さんを描いた「聖の青春」をみました。
ぷっくりした村山さんは知っていましたがネフローゼという難病だったのは最近しりました。
難病でありながら命を削るようにして名人を目指した生き方は見事です。