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うたわれるもの 〜願いの使者〜 作者:どくろん
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〜願いの使者〜

暗闇の中から







暗闇の中から
『苦しい……胸が苦しい……』

暗闇の中で少女の声がこだまする。


『……?』

その暗闇を見つめていた者はその声に気づいた。



『……言ってみな。吐き出せば多少は楽になるだろう……』

少し荒っぽい話し方だが、その声からは何処か優しさが出ていた。


『はく……はく……』



『えっ……吐く……?』

しかし、その声は嗚咽で苦しむ声ではなく、寂しさを含んでいる声だった。


『……人の名……か。 『はく』というものがいなくて寂しいという事か……』


「ならばその願い……聞き入れよう……その代わり代償が必要だがな……準備を始めるとしよう…」

暗闇を見つめていた者は瞳を閉じて願いを叶える準備を始めた…










「ファッ!?」

悪夢を見たかのような声を上げ、起き上がる。

起きるとそこは広い屋敷の一室のようで、日本らしい質素な作りになっている。


「あ、起きた?」


しっぽを生やしたケモ耳の少女が振り返り、俺に問いかける。


「あぁ、此処は?」


「此処はトゥスクル……この屋敷は私の家だよ」


住んでる場所と言いこの気品漂う物腰はお偉いさんとこの娘といったところか…

良くもまぁこんな得体の知れない奴を入れたもんだ。


「そうか……俺はどうしてここに?」


「この國に帰る途中で倒れてたの…自分の出身とか身分は分かる?」


「あぁ、そうだな。 名乗らないと失礼に当たるな…俺の名は『二階堂祐介』 祐介って呼んでくれ。 出身地は日本の○○だ。 そこら辺にいる学生だな」


そう言うと少女は聞いたことも無いと言ったような顔をしながら口を開く。


「私の名はクオン。 ニホンの○○?」


クオン…は箪笥から地図を取り出すと、俺の前で広げる。 国名と大地のイラストが描かれた簡素な物だった。


「此処にニホンの○○ってあるかな?」


完全に日本だこれ……

そうか…こういう形で潜り込んでしまったか…
どうやって来たかは言わない方がいいだろう…
神の類だと思われたらそれこそ面倒だ。
適当に誤魔化そう


「悪いがこの地図には載ってない。 俺達の国は外交もしないし、外は受け付けないように術で見えないようにしてるからな」


当然真っ赤なウソである。
本当は真逆。


「へ、へぇ……すごい国なんだぁ……」


おいこら、引きながら言わないでぇ…
談笑を交わしていると屋敷の外から大声が聞こえた。


『賊だっ!賊が出たぞぉぉおおお!』


「何か来たなぁ……アハハ……」


産まれてこの方こういった災難に会いやすい…良くもまぁ生きてたもんだな。


「ユウスケ! 私は出るからそこで待ってて!」


「は?」


「私が退治して来るから!」


あぁ、だよな。 うん…
えっ?


「ちょっと待ったァ! あんた戦うのかよっ!?」


身分の高い人間は奥に隠れたりするもんじゃないのか?


「私も戦えるから戦うの! ダメかな?」


チィ……なんて奴だ……仕方ねぇな……


「俺も行くわ……助けてもらったしな」


「いけそう?」


心配そうにクオンが俺に尋ねる


「あぁ、問題ねぇ」


「なら頼もしいかな! 付いて来て!」


俺達は部屋からそのまま広い庭に出て、門を抜ける。
幸いに、すぐ側に現場があった為探さずに済んだ。
どうやら兵士と賊が戦闘中のようだ。
俺は高く飛び上がり叫ぶ。


「てめぇらっ!どけぇっ!!」


「わあっ!?」


まぁ、よけれないわな…
俺はそのまま賊と兵士の間に割って入るように着地した。
この時に発した衝撃波で兵士もろとも吹っ飛ぶ。
後から駆けつけたクオンが残りの賊を格闘術で片付ける。


「放てっ!!」


賊の弓隊が掛け声と共にこちらに向かって矢が何十発も放って来る。
俺だけだったら避ければいいが、このまま避けてはクオンに当たるだろう……


……仕方ねぇな……


「……」

俺は一睨みすると、時が止まったかのように、放たれた矢がピタリと止まる……そして呟く。



「踵を返し、持ち主の元へと戻るがいい……」


ピタリと止まっていた矢は弓隊の方にゆっくりと矢尻を向け、放たれた時よりも格段と速い速度で弓隊へと飛んでいく。
矢は弓隊をすべて射抜き、全滅させた。
こちらに敵意を向けた人の反応は……ふむ。 無いようだな。


「……終わったか。 クオン….怪我はねぇか?」


振り返ってクオンに尋ねる。


「私は大丈夫だけど……ユウスケって何者なのかな?」


眉をしかめて俺に顔を近づけて問い詰める。
当たり前だろう。 目の前でこんな芸当を見せられては聞かずにはいられないのは当たり前。


「ハハッ…見ての通りただの人間だよ」


「…ふぅーん…仕方ないかな… そういう事にして置いてあげる」


顔を離すとクオンはそう言った。


「悪いな」


疑いの目を向けているが今はそういう事にしてくれるらしい。


「さ、帰ろ?」


「…そうだな。帰るか!」


俺はニヤリと笑顔を見せるとクオンも便乗して笑ってくれた。
うぬ。女の子は笑顔が一番だな……


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