ここから本文です

ノロウイルス怖くて「餅つき中止」広がる…素手作業多く、感染が心配

読売新聞(ヨミドクター) 12/21(水) 15:00配信

 ノロウイルスが全国的に猛威を振るう中、集団食中毒の恐れがあるとして、餅つき大会を中止する動きが広がっている。「やむを得ない」と理解を示す声がある一方で、「地域の伝統文化を守りたい」との考えから、ついた餅と違うものを提供するなど、工夫して伝統行事を続けるケースもある。

「やめた方が…」と保健所

 国立感染症研究所が20日発表した定点調査の速報によると、ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎の患者数は、直近1週間(5~11日)で、1医療機関当たり19・45人。13都県で同20人を超える警報レベルに達した。近年では2006年、12年に次ぐ規模の流行という。

 千葉県木更津市の郷土博物館は、23日に開催予定だった餅つきの開催を見送った。10年からほぼ毎年行っていたが、ノロウイルス対策を理由に中止するのは初めてだ。

 地元の保健所から、「流行のピークなのでやめた方がよい」と助言されたという。同館は「昨年は子どもからお年寄りまで150人ほどが来場した。万一の時はたくさんの人が感染してしまう」と理解を求める。

 岡山市の岡山聖園(みその)幼稚園も、年末恒例の餅つきを今年は中止した。「子どもが伝統文化に触れ食育にもなっていたが、子どもの健康が第一」と説明する。川崎市の武蔵小杉駅前の商店街や愛知県豊川市の豊川市民病院も、同様に取りやめた。

 餅つきは手返しや切り分け、味付けなど、手で触れる工程が多く、手指についたノロウイルスから感染が広がりやすい。熊本県南小国町の保育園では、8日の餅つきが原因とみられる食中毒が発生し、園児や保護者など計52人が嘔吐(おうと)や下痢を訴えた。

 感染しても発症しない人もいる。気付かないまま、多くの参加者が集まる場で感染を拡大させることも想定され、餅つきの開催に慎重になっている。

「つく用」と「食べる用」分けて…工夫し決行も

 一方、感染防止策に取り組み、例年通り開催するところもある。東京都世田谷区の上町児童館では18日、餅つきが行われた。調理スタッフは全員マスクと手袋を着用し、子どもたちには消毒を徹底した。親子で参加した近くの主婦、三浦明子さん(40)は「餅つきは家庭ではできない体験。実施できて良かった」と話す。

 東京都町田市の小川自治会は昨年から、同市保健所の助言に従い、ついた餅をあんこ餅ときなこ餅に調理するのをやめた。白餅として販売し、自宅で煮たり焼いたりして食べてもらう。「ついた餅は飾り用の鏡餅にして食べないようにするか、雑煮や汁粉など火を通して提供すれば、感染リスクは減らせる」と同保健所。

 滋賀県近江八幡市で17日に行われた餅つき大会でも、つきたての餅ではなく、餅つき機で作ったものを加熱し、ぜんざいとして参加者に振る舞った。十数年前から続く行事だが、餅を「つく用」と「食べる用」に分けたのは初めてという。

 厚生労働省によると、餅つきに食品衛生法の規定はなく、主に自治体の保健所などの判断に委ねられる。そのため、各地で対応が異なっている。

 日本の食文化に詳しい、熊倉功夫・国立民族学博物館名誉教授は「餅つきには共同体を結びつけてきた側面もあり、中止すると地域がますますバラバラになる。衛生面と両立する方法を模索してほしい」と話す。

ノロウイルス

 冬場の感染性胃腸炎の主な原因となるウイルス。加熱が不十分な二枚貝や、感染した人の便や嘔吐物に潜む。激しい嘔吐や下痢などを1~2日間繰り返す。嘔吐物や便を処理する際などに手指に付着し、口から体内に入り感染することが多い。ワクチンや治療薬はない。加熱により死滅する。

最終更新:12/21(水) 15:30

読売新聞(ヨミドクター)

本文はここまでです このページの先頭へ

お得情報

その他のキャンペーン