「障害があってうらやましい」
「Aさん、今度、もっとお給料のいい会社へ転職するんだって。ちょっとうらやましいよね、『障害』って」 会社員時代、同じ職場に耳が聞こえづらい同僚がいた。Aさんは総合職の扱いながら、営業などハードな部署への異動がなく、定時に帰宅できる。
「障害があってうらやましい」
「Aさん、今度、もっとお給料のいい会社へ転職するんだって。ちょっとうらやましいよね、『障害』って」 会社員時代、同じ職場に耳が聞こえづらい同僚がいた。Aさんは総合職の扱いながら、営業などハードな部署への異動がなく、定時に帰宅できる。さらに、ある大企業への転職も決めていた。
「すぐに決まったみたい」と噂される彼女を、別の同僚が「うらやましい」と無邪気に皮肉るのを見て、私はドキッとした。その同僚は、「大企業の方が助成金を多くもらっているから、障害者はいい会社に転職しやすいのだ」というようなことを言っており、私は何とも言えない気持ちになった。
「障害者雇用促進法」では、民間企業に対し、従業員全体の2%に相当する障害者を雇うよう義務付けている。職場のバリアフリー化など、経済的負担が生じた場合は助成金が申請できる上、全体の4%を超える障害者を雇用した企業には報奨金制度も用意されている。
もちろんこうした制度は、障害をもつ人たちの就労が非常に難しい実態の裏返しなのだが、件の同僚は漠然と「障害者は優遇されている」「いい会社に簡単に入れてうらやましい」と表現したのである。
私がドキっとしたのは、その同僚の無邪気さに対してである。そして、大企業への転職を決めた聴覚障害のAさんに対して、「うらやましい」という感情が、自分の中に少しでもないだろうかと自問したからである。平等とは一体なんだろうか。
20年前は「誰もが想像すらしていなかった」医療技術の革新
こうした問題を考え、障害者の就労における「真の平等」を目指す運動がある。公益社団法人NEXT VISIONが展開する「i see(アイシー)運動」だ。
主に視覚障害者と社会の関わりを考え、彼らの「本当の姿を知ってほしい」と啓発するもので、2017年秋には「神戸アイセンター(仮称)」も開業する。この運動のさらなる発展を目指して、12月1日、NEXT VISIONと日本財団が共同でシンポジウムを開催した。「I see! 視覚障害者のホントを見よう」と題したシンポジウムでは、障害者と労働についてさまざまな議論がかわされた。