<島根女子大生殺害>「捜査に支障」語らぬ会見、真相は闇
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「総合的に組み立てて判断した」。広島県内の山中で島根県立大1年の女子学生、平岡都(みやこ)さん(当時19歳)が遺体で見つかった事件は、交通事故死した同県益田市の会社員、矢野富栄(よしはる)容疑者(当時33歳)が殺人容疑などで書類送検され、大きな節目を迎えた。捜査は約7年に及んだが殺人容疑を裏付ける直接証拠はなく、島根・広島両県警の合同捜査本部は状況証拠を積み重ねて「矛盾なし」と判断した。容疑者が死亡して動機などは解明できず、女子学生の遺族は「苦しみをぶつける先がない」と悲痛な思いを公表した。
「動機や目的、現場がなく、足元から捜査してきた。その後、捜査範囲を広げるのに7年かかった」。合同捜査本部がある島根県警浜田署での記者会見で、同県警の杉原知行・捜査1課長は捜査が長期になった理由を語った。
乏しい物証の中で細かいパーツをつないではやり直す地道な捜査を強いられ、「積み上げたものに一切無駄なものはない」と杉原課長は胸を張った。
事件解明の重要証拠となったのは、デジタルカメラとUSBメモリーに残された画像だった。10月28日にメモリーを、11月22日にデジカメを押収し、遺体や文化包丁の画像をメモリーに19枚、デジカメに38枚確認。女子学生の姿と矢野容疑者の自宅が写っていた。画像は消去されて見えない状態となっており、矢野容疑者の関係者が持ち続けていた。捜査幹部によると、この関係者は内容を知らないまま保存し続けていたという。
会見では、矢野容疑者がいつ、どのように捜査線上に浮上してデジタルカメラなどの有力証拠発見に結びついたかや、矢野容疑者宅からの血痕の検出の有無などについて相次いで質問が出た。だが杉原課長は「具体的な中身は答えられない」「捜査に支障がある」と繰り返す場面も多く、記者側は死亡した容疑者を立件する根拠の説明を求め、会見は約2時間半に及んだ。
広島県警の幹部は「どこで連れ去り、どこで殺害したのか、真相は闇のまま。やりきれない」と肩を落とした。【安高晋、長宗拓弥】
◇市民、捜査検証を
渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話 事件の容疑者を特定し、迷宮入りを防いだ点は高く評価すべきだが、このままだと公判が開かれないため秘密のベールに覆われた捜査で終わってしまう。裁判員裁判の対象となる事件の容疑者が死亡して不起訴になった場合でも、検察審査会で捜査のあり方を検証することは制度上可能であり、今後は運用を確立し、適切な捜査だったか市民の目でチェックできるようにすることが望ましい。
◇「まじめで誠実、信じられない」
事件当時、矢野容疑者が勤務していた山口県下関市のソーラーパネル販売会社の元社長は「おとなしく、まじめで誠実だった」と振り返り、書類送検に驚いた様子だった。
元社長は2009年4月、職業安定所の紹介で来た矢野容疑者を面接した。印象が良くて採用を決めたが、ラーメン店でのアルバイトをすぐに辞められないとの理由で入社は5月にずれ込み、島根県益田市に配属された。数カ月でソーラーパネルを6台も売るなど「営業成績はすこぶる優秀だった」という。
女子学生の遺体が発見された同年11月6日夜、「用事があるので、明日から2日間代休がほしい」と電話があった。休みの申請はこれが初めてだったといい、事故死したことを受け、益田市の社宅にあった遺品を親族に渡したという。
今年に入って島根、広島両県警の捜査員らが数回訪れ、矢野容疑者の勤務状況などを聴かれたが、詳しい事情は知らされず事件に関与した疑いがあるなど考えもしなかった。元社長は「(矢野容疑者には)いい印象しかない。今でも信じられない気持ちだ」と嘆息した。【上村里花】