女子大学生殺害 男のカメラの画像に包丁も写る

女子大学生殺害 男のカメラの画像に包丁も写る
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7年前、島根県浜田市で19歳の女子大学生が行方不明になり、広島県で遺体が見つかった事件で、警察は、事件のあと交通事故で死亡していた33歳の会社員の男を殺人などの疑いで書類送検しました。
書類送検されたのは、事件当時、島根県益田市に住んでいた、会社員、矢野富栄容疑者(33)です。

平成21年10月、島根県浜田市で、県立大学の1年生で19歳の女子大学生がアルバイト先から帰る途中、行方がわからなくなり、その後、広島県北広島町の山で遺体の一部が見つかりました。

警察はことし、性犯罪の逮捕歴などがある人物について捜査の対象を広げて、洗い出しを進めてきました。その結果、警察によりますと、遺体が見つかった2日後に山口県内で起きた交通事故で死亡していた矢野容疑者が、女子大学生が行方不明になった当日に首を絞めて殺害し、その後、遺体を遺棄するなどした疑いのあることがわかったということです。

捜査関係者によりますと、矢野容疑者は事件の5年前の平成16年に、東京・杉並区や北九州市で通りかかった女性に刃物を突きつけ、わいせつな行為をしようとしてけがをさせるなどしたとして、懲役3年6か月の実刑判決を受けていました。

警察によりますと、ことし10月から11月に矢野容疑者の関係先からデジタルカメラやUSBメモリーが押収され、消去されていたデータを特殊な技術を使って復元した結果、死亡した女子大学生のほか、包丁が写った画像が見つかったということです。1時間半余りの間に40枚程度が撮影されたと見られ、矢野容疑者の当時の自宅内の背景が写っていたということです。

警察は20日、殺人などの疑いで書類を検察庁に送りましたが、容疑者が死亡しているため、動機や詳しいいきさつが解明されないまま、捜査は終結することになります。

「カメラの画像が決め手に」

島根県警と広島県警の合同捜査本部が20日会見し、これまでの捜査の経緯などについて説明しました。

はじめに島根県の浜田警察署の奈良井和夫署長が、米村猛本部長のコメントを読み上げ、「被害者のご冥福をお祈りするとともに、深甚なる弔意を表します。島根県、広島県の皆様をはじめ、全国から多くの情報提供と捜査へのご協力、ご理解をいただいたことに対し、深く感謝を申し上げます」と述べました。

このあと、矢野容疑者が特定された経緯について、島根県警の杉原知行捜査一課長が「素行不良者としての情報は初期段階からあった。捜査を広げる中で新たに得た情報もあり、容疑者の関係先から押収したデジタルカメラなどから、女子大学生の遺体や包丁の画像のデータが見つかったことが決め手となった」と説明しました。

一方、容疑者を特定するのに7年かかったことについては、「目撃情報がなく、遺体の遺棄現場以外の現場が判然とせず、動機も不明だったため、あらゆる観点からの捜査になった。容疑者がすでに死亡しているため供述が得られず、動機などが解明できない点は残念だ。これまでにむだな捜査はなかったと考えているが、捜査の内容などについて検討すべきことがあれば、検討していきたい」と述べました。

矢野容疑者を知る人は

矢野容疑者は、事件当時、山口県下関市にあるソーラーパネルの販売などを行う会社で営業の仕事をしていました。

会社によりますと、ハローワークを通じて採用面接を受け、まじめな印象だったため、すぐに採用が決まったということです。まもなく、事件の5か月ほど前に島根県益田市に派遣され、会社が借り上げた住宅で1人暮らしをしていたということです。社長は「勤務態度はとても真面目で営業成績もよかった」と話しています。

そして、女子大学生の遺体が見つかった日に電話で連絡を取ったのが最後だったとして、「『下関市の実家に帰省するため休みがほしい』と言われたのを覚えている。ふだんと全く変わらない様子だったので、今となってもなかなか信じられず、驚いている」と話していました。

また、中学校や高校の同級生も口々に「まじめでおとなしく、トラブルを起こすようなタイプではなかった」と話しています。実家があった下関市の小中学校を卒業したあと、北九州市の高校に実家から通い、その後、福岡県内の国立大学に入学しましたが、途中で退学したということです。

学生時代からバンド活動をしていたということで、下関市内のライブハウスの経営者は「ドラムの練習に来ていたが、いつも1人で、『プロになりたいから大学をやめた』と言っていた。最後に会ったのは7年ぐらい前で、ソーラーパネルの仕事について淡々とした様子で話し、変わった様子は感じなかった」と話していました。

矢野容疑者は今回の事件の5年前、北九州市や東京・杉並区で面識のない女性に刃物を突きつけ、わいせつな行為をしようとしてけがをさせたなどとして3つの事件で逮捕され、次の年、懲役3年6か月の実刑判決を受けていました。

この事件で矢野容疑者の弁護にあたった弁護士の男性は、矢野容疑者について、「ふだんは女性に声をかけることもできない、おとなしい人間だった。女性とつきあいたいという強い思いを持っていて、事件を起こした理由については『自分でもわからない』と言っていた。念入りに計画を練ったのではなく、衝動的な犯行だった」と振り返りました。

面会の際、矢野容疑者はみずからのことを人に気を遣う人間だと話していたということで、弁護士は「気を遣えば遣うほど相手は離れていってしまうと言っていた。自分の誠意に相手が応えてくれないといういらだちがあり、むしろ自分自身が傷つけられたという意識、被害者意識が強かった」と話しました。

そのうえで、矢野容疑者が書類送検された今回の事件について、弁護士は「まさか自分が弁護した人間がと思い、驚がくした」と話しました。

被害者の友人「真実語られないまま やりきれない」

被害者の女性と大学時代、同じ寮で過ごした友人の女性は、電話取材に対し、「事実が語られないまま事件が終わってしまうのはやりきれない」と述べました。

この中で、友人は被害者について、「いつも明るく、自分の気持ちに素直で、笑顔がすてきな子でした。海外で働きたいという夢を日頃から語り、英語を話せるようになりたいと勉強を頑張っていました。夢の実現のために家族に負担をかけたくないとアルバイトも頑張っていて、尊敬する友人の一人でした」と語っています。

この7年間については、「彼女の命日に毎年、友人と電話やメールでもう3年になるとか、5年もたってしまうんだという話をするたびに、悲しい気持ちになるとともに、生きている者の使命として彼女の分も生きていかなければという思いになっていました」と振り返りました。

さらに、容疑者に対しては、「どうしてこんな非道なことをしなければならなかったのか、どうして彼女がこういう目に遭わなくてはならなかったのか、動機が知りたい。事実が語られないまま終わってしまうのは、私自身、受け止めきれない、やりきれない。彼女をかえしてほしいという思いは7年間ずっと変わりません」と述べました。

そのうえで、友人は「こういう事件があったという事実を一人一人忘れないで、このような凄惨な事件が二度と起こらないような社会になってほしい。容疑者が死亡ということで、事件のてんまつが明らかにならないまま終わってしまったことは、自分も悔しいし、みんな悔しいと思うが、彼女の人生に少しでも思いを寄せてほしい」と話していました。

専門家「早く犯人にたどり着く捜査手法を」

事件から7年がたって容疑者が書類送検されたことについて、犯罪学が専門で事件現場の調査も行った立正大学の小宮信夫教授は「容疑者の特定が遅れたことで、地元の人たちは7年間、不安な気持ちを持ち続けたと思う。警察はなぜ時間がかかったのか、明確に説明するとともに、さらに早く犯人にたどり着く手法を検討していかなければならない」と指摘しています。

そのうえで、「犯罪を起こそうという人物はいろいろな県にまたがって活動する。中央にデータを集めて一元的に管理して、ビッグデータを活用して各県警にアドバイスするシステムがますます必要になってくる」と話しています。