女子大生殺害事件について記者会見する島根県警の河村英夫刑事部長(左)と広島県警の酒井敏行刑事部長=島根県浜田市の県警浜田署で2016年12月20日午前11時2分、久保玲撮影
島根県内の大学1年の女子学生(当時19歳)が2009年、行方不明になった後に広島県内の山中で遺体で見つかった事件で、島根・広島両県警の合同捜査本部は20日、遺体発見直後に交通事故死した島根県益田市の会社員、矢野富栄(よしはる)容疑者(当時33歳)を殺人と死体損壊・遺棄の容疑で松江地検に書類送検した。事件から7年余り。矢野容疑者が死亡しているため、地検は不起訴処分とする見通しだ。連れ去りや殺害の場所、動機など事件の重要な要素は特定できなかった。
被害者画像など57枚押収
容疑は09年10月26日午後9時16分ごろから深夜までの間に女子学生を窒息させて殺害し、矢野容疑者の自宅で頭部や手足などを切断。広島県北広島町の臥龍(がりゅう)山に遺棄したとしている。首を絞めた痕跡が画像にあり、司法解剖では特定できなかった死因が分かったという。女子学生との間には面識はなかった。矢野容疑者は電気事業会社の営業担当で、女子学生を連れ去ったとみられるエリアもカバーし、事件後も出勤していた。周辺の関係者を調べた結果、共犯者はいないとみている。
捜査本部は今年10、11月、矢野容疑者のデジタルカメラとUSBメモリーの計57枚に、行方不明後の女子学生の遺体や文化包丁が写った静止画像があるのを発見し押収。画像は消去されていたが、押収後に復元した。約1時間半の間に撮影され、矢野容疑者宅の浴室と本人の足の指も写っていたという。
女子学生は島根県内のアルバイト先の店を出た後に行方不明となり、09年11月6日以降、切断された遺体が相次いで見つかった。矢野容疑者は最初の遺体発見から2日後、山口県内の中国自動車道でカーブのガードレール3カ所に衝突。車は炎上し、同乗していた母親とともに焼死した。
捜査本部はこれまで延べ31万人の捜査員を投入。目撃情報がなく女子大生が連れ去られた現場は判然とせず、動機も不明で捜査は行き詰まり、死体損壊・遺棄罪は12年11月で公訴時効(3年)となった。素行不良者を洗い出して不審車両と情報をクロスするなど重点捜査をするなかで、矢野容疑者が周囲に「とんでもないことをした」と話していたことや、事件前後の車の通行記録などから矢野容疑者が浮かんだ。そして、デジタルカメラなどの画像発見で捜査は大きく動いた。
島根県警の米村猛本部長は「最重要課題として取り組んできた。被害者のご冥福を祈ります」とのコメントを出した。【根岸愛実、東久保逸夫】
「怒りをぶつける先ない」遺族
遺族は20日、捜査本部を通じてコメントを発表した。
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不安で押し潰されそうな日々が続いた7年が過ぎ、今、犯人が見つかったという安堵感はありますが、私たち家族には言葉では表現できない怒り、悲しみ、憎しみ、苦しみをぶつける先がありません。
何故、このような事件が後を絶たないのでしょうか。何故、犯罪を繰り返す人間が存在するのでしょうか。全てを奪った犯人を許せません。
これからも、忘れずに寄り添ってくれた人々の心の中で、生き続けてくれると思います。私たち家族もこの7年間、温かく支えて下さった周囲の方々のお陰で生かされていることを感謝致しております。どうか、心情をお察し頂き、今後とも静かに見守って下さいますようお願い致します。(被害者氏名の部分を修正しています)
「複雑な思いだけが残る」女子学生の元担任
「釈然としない終わり方で本当の事は分からない。つらいけど、安らかに天国ですごしてほしい」。女子学生の母校の高校で3年間担任だった吉田稔さん(50)=高松市=は、亡き教え子に向かってそう語りかける。
英語実務科に在籍していた女子学生は、米国でホームステイして語学研修を受けたり、高校野球の大会で応援部員を務めたりした。吉田さんは「クラスでは真面目でおとなしかったけれど、応援団では活発に活動していた。みんなからはファーストネームで呼ばれ、親しまれていた」と振り返る。
事件直前の9月初旬ごろ、近況報告に母校を訪れた女子学生と話をした。「アルバイトもしていて充実した学生生活だと思った。徒歩で通っていると言うから、『危ないから免許を取って原付きバイクにでも乗りなよ』と話した覚えがある。もう少し強めに言えば良かったかな……」と、無念さをにじませた。
秋になると事件を思い出す。冥福を祈るため、島根県内のゆかりの地を巡ったこともある。死亡した容疑者が書類送検されても心は晴れない。「真相も分からない。罪の償いもできない。複雑な思いだけが残る」【待鳥航志】