安岡明夫HP(yasuoka.akio@gmail.com)

転載・引用自由!コメントなどに今の処原則返事は出来ません。

全体表示

[ リスト ]

=副題:書評「中国を追われたウイグル人」「4-1」=
1.水谷尚子先生(中央大学講師)の書かれた「中国を追われたウイグル人」と言うご本についてはこれまでも当HPでは疑問点を列挙してきた(末尾参考記事参照)。今回は、ご本の第四章である

「第四章 シルクロードに散布された「死の灰」
−核実験の後遺症を告発した医師アニワル・トフティ」

について書く。

但し時間の関係もあり、とても全ての点について詰め切ることは出来なかった。だから飽くまでも今回記事は、一人の水谷尚子先生へのファンが、生徒として先生の御本に関する素朴な疑問点を列挙したものと考えて頂きたい。ジャーナリストの方その他が今回記事を偶然目にされるなどで、万一将来素晴らしい記事を書かれることへ多少とも寄与できたならばこれほど嬉しいことはない。

Q1.この第4章は出来事の発生時点(○○年など)がほとんど書かれていない。だから話が曖昧である。
第1章のラビア・カーディルさんの場合は大体54回の時間の記述がある。第2章のドルクン・エイサ氏の場合は約62回の時間の記述がある。だが第4章は時間の記述が約18回しかない。何故だろうか?
確かに第4章は短い。23ページしかない(第1章は37ページ、第2章は39ページ)。だがそれにしても時間の記述は少なすぎる。

Q2.一読して統一感がない。つまり、明らかに矛盾した記述もあるし、矛盾した感も受ける。その最大のものは、大変に優れた医師だとされながらも、英国に亡命後は酒びたりになっているという現状があることだ。

「悔しさをバネに「漢人に負けるものか。僕は劣等民族じゃない」と、猛勉強するようになった」(同書p.125)。

「アニワル・トフティは、何度も国際学術会議に出席し、難度の高いオペを行い・・ウイグル人・漢人を問わず患者に信頼され、尊敬されていた優秀な医師だった」(p.120)。

「一九九四年に書いた乳腺癌の早期発見についての論文が医学界で高く評価され、それから学会に参加するためウルムチを離れる機会が多くなる・・」(p.127)。

「(一九)九六年、主任医師(管理職)になるための試験を受けたアニワルは、理論、技術、手術知識など医学試験は全て合格した・・」(p.130)。

これほど優れた医者でありながら、

「欧米諸国では他国で取得した医師免許を認めないから、外科医として活躍する場も失った。・・慣れない生活と苦しい暮らし向き。自分の能力を発揮できない日々に苛立ち、酒量が増えた」(p.121)。

それほど優秀な人間が、何故英国の医師免許を取ろうとしないで酒を飲んでいるのだろうか?或いは他のもっと有効なことに時間を使うはずではないのか?

統一感がなく矛盾した感を受けるのはそれだけではない。p.121に彼の写真が載っているが、これを見ただけで彼の職業が医者だったと分かる人が果たして何人いるだろうか?一体何の仕事をやっていると多くの人は思うだろうか?少なくとも私にはこの人が穏健な人柄には思えなかった。この本のp.78には、アニワル・トフティ氏は「世界ウイグル青年会議」のメンバーと紹介されている。この団体は中国政府によると「テロ組織」とされ(p.79)、のち「東トルキスタン民族会議」と合体して「世界ウイグル会議」になった(p.82)。

だがこの本は、出来るだけ氏が穏健な人柄であるかのように描かれているのである。

「アニワルはそもそも政治に強い関心があるわけではなかった」(p.122)。

「母語のウイグル語と同じぐらい流暢に漢語を操る」(p.123)。

父親は「鉄道局の学校に勤務」(p.123)、「鉄道局付属学校の共産党委員会書記」(p.127)というエリートで、自身も簡単に入党できる立場だった(p.127)。

「「保育園から漢人のコミュニティに放り込まれたから、漢人の考え方や行動パターンは、他のウイグル人より理解している」」(p.124)。学校はずっと漢族と一緒だった(p.128)。

「彼の子供時代は、いまの新疆で普遍的に見られるような漢人とウイグル人の間に横たわる根深い猜疑心と憎しみの構図は存在せず、ウイグル人の子供が漢人の同級生の家に気軽に遊びに行くなど、牧歌的な往来もあったという」(p.124)。

「学校の「中国歴史」の教科書には、どこにも新疆とウイグル人に触れる記述がない。授業の最終日、「先生、どうして新疆について書いてないのですか?」と訊ねた。漢人の教員は「それはね、昔、君たちは外国人だったから」と答えてくれた。その言葉を聞いて、少年は無性に嬉しくなって、家に帰るなり大きな声で叫んだ。「あのね、僕たちは外国人だったんだって。先生がそう言ったんだ。かあさん、どうして『外国人』が中国人になったのかなぁ?」。文革期、政治的に問題があれば、それは死にも直結した。母は狼狽し・・」(p.125-126)。

このように実に素朴でのほほんとした人柄だったと描かれている。

「漢人社会とウイグル人社会の橋渡しになれたはずの彼のような良識あるノンポリの人間まで、正面から「敵」に回してしまった中国の「体制」が、筆者(水谷尚子氏)は残念でならない」(p.130)。

だが実は喧嘩っ早い性格は何箇所かで出ている。

Q3.色々な問題を飛ばし最大の問題の1つに入る(そもそも新疆地区に強い放射能の影響が残っているかどうかも大問題だが、これについても後で考える)。
1998年7-8月、英国TV局「チャンネル4」によりドキュメンタリー番組”Death on the Silk Road”(「シルクロードの死神」)が放映された。翌1999年、同番組はローリー・ペック賞を受賞する。

この番組にアニワル・トフティ氏は協力するのだが、そのきっかけは次のとおりであった。

1996年、彼は主任医師(管理職)になるための試験を受ける。
「アニワルは、理論、技術、手術知識など医学試験は全て合格した・・」(p.130)。だが「外国語だけは合格点に達していなかった」(p.130)。

そこで彼は結局トルコに留学し、トルコ語を外国語として習得することにしたのである。似た言語のため大体3ヶ月で習得できるとされていた。

そこへ英国TV局「チャンネル4」のスタッフが接触し、新疆地区の核実験と放射能について番組を作りたいからと協力を頼まれる。元々この問題に関心があり、このままではウイグル人だけでなく新疆に住む漢族も放射能にやられてしまうと考えていた彼は、協力を約束。1998年7月、トルコを離れ、北京に向かった。

観光客を装った番組スタッフと「ガイド兼通訳」(p.131)を装ったアニワルは馬蘭核実験基地(”さまよえる湖”で有名なロプノールの近く)の近くに潜入する。

そこで放射能の被害と彼等の考えたものを沢山撮影した後、

「一行は、区都ウルムチで文献資料収集にあたった」(p.136)。

「アニワルは昼間、大学に保存されている内部資料や病院のカルテ、図書館の資料等を収集し、・・(TV)記者たちは・・夜、資料のフィルム撮影を続けた」(p.136)。

「収集した文献資料は、原本を残さないように処分して、持ち出しはフィルムだけにした」(p.137)。

完全な犯罪である。

「大学に保存されている内部資料や病院のカルテ、図書館の資料等」の「収集した文献資料は、原本を残さないように処分」したのでは、これが本物だったかどうかも分からない。中国側が調べても分からないことになる可能性さえある。また将来中国政府が放射能被害を出来るだけ減らそうと考えた時も障害となるだろう。

こういうものがローリー・ペック賞を受賞した番組の正体であったし、更にこの番組を元に有名学術誌にも新疆の放射能問題が”この地では重大な問題が生じている「可能性」がある”と書かれたりしたのである。この番組は果たして信用できるのだろうか?

では、本当に新疆地区で放射能問題が生じており、アニワル医師が真にウイグル族と漢族のことを心配していたとしたら他に方法はなかったのであろうか?

それはあった。そのことを次に書く(つづく)。

参考文献:
「中国を追われたウイグル人」(水谷尚子/2007/文春新書)

参考記事:
書評「中国を追われたウイグル人」090809「1」
http://blogs.yahoo.co.jp/oyosyoka803/39750792.html
書評「中国を追われたウイグル人」090809「2」
http://blogs.yahoo.co.jp/oyosyoka803/39752811.html
(エッセー)ウイグルの針刺し事件を考える090909
[副題:書評「中国を追われたウイグル人」「3」]
http://blogs.yahoo.co.jp/oyosyoka803/39942413.html
(学習ノート)ウイグル人医師アニワル・トフティ氏に関して「1」
[副題:書評「中国を追われたウイグル人」「4-1」]
http://blogs.yahoo.co.jp/oyosyoka803/40044904.html
(学習ノート)ウイグル人医師アニワル・トフティ氏に関して「2」
[副題:書評「中国を追われたウイグル人」「4-2」]
http://blogs.yahoo.co.jp/oyosyoka803/40044905.html
(学習ノート)ウイグル人医師アニワル・トフティ氏に関して「3」
[副題:書評「中国を追われたウイグル人」「4-3」]
http://blogs.yahoo.co.jp/oyosyoka803/40084645.html

それ以外の参考記事は下記のとおり:
ウイグル暴動関連重要記事目次
http://blogs.yahoo.co.jp/oyosyoka803/39719208.html

この記事に


.
 今日全体
訪問者1194754
ブログリンク026
コメント0172
トラックバック075
oyo*y*ka*03
oyo*y*ka*03
非公開 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について

忘年会のお店はお早目に予約!

[PR]お得情報

スマートフォンアプリ「トクプレ」で
プレモノ最新情報をキャッチしよう!
対象店舗に行くとポイントもゲット
Tポイントをためるなら、この1枚!
Yahoo! JAPANカード≪年会費永年無料≫
最大9,000円相当のTポイント進呈
ふるさと納税サイト『さとふる』
実質2000円で各地のお礼品が届く
5万名に総額1000万円分ギフト券当たる!

その他のキャンペーン


みんなの更新記事