あの決断を下した人が、なんでいまだに黙っているのか
大谷ノブ彦(以下、大谷) 柴さん、やりましたね。『ヒットの崩壊』の大ヒットおめでとうございます!
柴那典(以下、柴) ありがとうございます! 大ヒットは言い過ぎですけど、早くも増刷がかかりまして、おかげさまで評判がよいです。
大谷 いや、めっちゃおもしろかったですよ。ヒットの崩壊と言いつつ、ヒットの多様性を表している本だなと思いました。
柴 読んだ人は全員気がついていると思うんですが、『ヒットの崩壊』っていうタイトルが、一番の嘘なんですよね。
大谷 そうそう。全然ネガティブじゃないもん、この本。
柴 90年代のCDバブルだった時代の「ヒットの方式」は成立しなくはなったけれど、音楽業界は全然崩壊してないっていうことが書いてありますからね。
大谷 この本の中身自体もcakesで公開しているんですよね。
柴 そうなんですよ。この本の中身はすべてcakesで公開する予定です。なぜそうしたかというと、「無料でネットに公開してもパッケージが売れる」という成功例がすでにたくさんあるから。
マンガだってそうです。これはコルクの佐渡島さんも言っていたんですけど、本の冒頭だけ無料で読ませて「続きは買ってね」という形よりも、一つの話を全部読ませた方が売り上げがいい。それを読んでおもしろかったら買うという読者が多い。
大谷 なるほど。
柴 最近、いろんな人から「YouTubeにMVをフルで上げるには会社の稟議を通さなきゃいけない」という話を聞くんですよ。だからショートバージョンのMVが増えてる。でも、今の時代にそれをやるのは、はっきり言って愚の骨頂だと思います。途中で切られたら、買わないんです。ユーザーに不満感が残るから。
大谷 それはすごく分かる。CDが売れなくなるからってそういうことをする人たちは寛容さがなさすぎると思うんです。それは昔、CCCDを出していた人たちと同じですよ。僕、あれほんとイヤだったな。
「CDが売れなくなる。消費者の気持ちもアーティストの声も後でいい。こっちは必死なんだ。だからとにかくコピーはさせねえ」って。あんなことをやったせいで、こっちはレーベルが嫌いになった。
柴 そうなんですよ。CCCDを導入した時のレコード会社のトップにいた人、あの決断を下した人が、なんでいまだに黙っているのか。一言みんなに謝ってくれないのか。
大谷 「いやあ、俺が悪かった、ごめん!」ってね(笑)。
柴 そうしたら「そろそろ時効だね」と言える気がするんだけれども、「あれ? 誰も責任とってないじゃん」って。
大谷 たしかにね。だから、そういった売り方の面でみても、この本はよくできた商品だなって思いました。
柴 ただ、この本を書き終えたのが9月だったんですけど、校了中にPPAPがすごい勢いで世界中に広まっていって。「『ヒットの崩壊』っていうタイトルにしちゃったけど、2016年、ヒットあったわ」とは思いましたどね。
大谷 あははは。
柴 まあでも、ここで書いたことは別に否定されていないなって。PPAPはSNSとYouTube発のモンスターヘッド的な爆発的な拡散だったわけで。この本にも書いたようにSNSが「みんなが話題にしている、だから観たい、聴きたい」という状況がより強まっているということを証明してくれた出来事でした。
今の小学生は「恋ダンス」を完璧に踊る
大谷 それにしても2016年は本当に色々なことがあった年でしたね。
柴 ね! この間ミュージックステーションで「街で聞いた今年の1曲ランキング」というのがやっていたんですけど、そのランキングがすごくおもしろかったんですよ。
柴 1位がピコ太郎の『PPAP』、2位が星野源の『恋』、3位がRADWIMPSの『前前前世』、4位がSMAPの『世界に一つだけの花』、5位が安室奈美恵の『Hero』という結果だった。
大谷 うわ! 全部音楽だけでは語れない曲ですね。
柴 そう。音楽って何かと結びついて爆発するエンターテイメントなんだなってつくづく思います。
大谷 そう考えると安室奈美恵さん、すごいな!
柴 いや、「Hero」もリオオリンピックのNHK放送テーマソングですから。
大谷 ああ、そうか。
柴 他にもauの「三太郎」CMでおなじみの桐谷健太『海の声』や、NHKの朝の連続テレビ小説の主題歌になったAKB48の『365日の紙飛行機』がベストテンに入っている。
大谷 星野源の『恋』も最近出たばかりなのに2位なんてさすがだなー。
柴 前回の対談でも『星野源に「未来をよろしく」!』で彼の魅力をたっぷりと語りました。
大谷 僕、子どもと一緒に音楽で踊ったり歌ったりする「キッズジャイアン」というDJイベントをやっているんですよ。まあ、最初は好感度をあげたくてやってたんですけどね(笑)。
柴 ぶっちゃけね(笑)。
大谷 でも、やってたら、子供から紙に描いたメダルとかかけられちゃって、大池と二人で「いいな、これ」って。で、今までは最後にAKB48の『恋するフォーチュンクッキー』をかけてたんですけど、こないだ時間が余ったから一緒に来てる大人にもサービスと思って、星野源の『恋』をかけたの。そしたらビックリしたのは、小学生が完璧に踊るんですよ。
柴 マジで? あの恋ダンスを?
大谷 そう。だってあれ、大人にとっても結構難しいじゃないですか。
柴 僕だって、やろうとしてもできなかったですよ。
大谷 なのに完璧に踊る。3年前とは子どもたちのダンスの技術が全然違うんですよ。そこにまず驚いてしまって。
柴 たしかに少し前からリズムダンスは小学校の必修科目になりましたからね。
大谷 そのせいか、ちょっと前の時代とはリズム感が全然違うし、全体的にすごく進化している気がしたんです。それがわかった上でMIKIKOさんがあの振り付けを作ったとしたら、本当にすごいなって。
柴 MIKIKOさんはちゃんと時代の空気掴んで、わかってやっている気がするなあ。
大谷 ですかね。とにかく恋ダンス、いろんな意味で衝撃でしたよ。
2016年は「お笑いが音楽に勝った」一年
柴 そしてやっぱり「2016年の1曲」はPPAPだった。
大谷 すごいなー! この前、「おい、息子、PPAPやっただろ」ってツイッターに写真を上げたらかなり広がって。
柴 みたみた! リンゴに穴が空いた写真だけですごいおもしろかった。
大谷 息子、やりやがったなって。
柴 それで思ったことがあるんですけど、この前「お笑いと音楽はテレビの中で常にどっちがエラいかの綱引きをしてきた」という話をしたじゃないですか。
大谷 とんねるずの「情けねえ」が歌謡曲の時代を終わらせたって話ですよね。
柴 そうそう。だから90年代はお笑いが音楽よりもエラかった。でも、00年代以降は「J−POP名曲の時代」で、音楽がお笑いよりもエラかった。で、その綱引きの勝負が今年になって、また動いた気がするんですよ。
大谷 そうか、それがPPAPか! それに今年はRADIO FISHの「PERFECT HUMAN」もあった。
柴 そうなんです。今年はお笑い芸人がヒット曲を作る時代だった。でもこれ、僕は歴史的な必然があると思っていて。
大谷 というと?
柴 僕は2010年代初頭から、再びお笑いが音楽に勝つ時代になる可能性もあったと思っていたんです。でもそうはならなかった。その理由は明白で、何故かと言うと東日本大震災が起きたから。
大谷 なるほど。
柴 震災が起きた時、音楽はエンターテイメントの中で最も雄弁だった。一方で、お笑いは黙った。
大谷 ビートたけしさんは「お笑いをやっている場合じゃない」という立場をとってましたよね。
柴 それも正解の意見だと思います。どっちがいいか悪いかの問題ではないんで。でも、ああいう未會有の事態に歌は対抗できた。特にSMAPはその代表でしたよね。音楽とお笑いの両方をやっていた5人が、あの時は、歌の力で社会に向き合っていた。
大谷 『SMAP×SMAP』って本当にすごい番組でしたですよね。あそこでメンバーが募金を呼びかけたのもすごく大きかった。それに、震災復興番組として放送された2011年のTBSの『音楽の日』の司会も中居くんだった。
柴 そういうこともあって、ここ5年は音楽の方がお笑いに勝っていた。でも、その揺り戻しが今年に入ってやってきたんだと思います。
大谷 そうそう、僕、今年の『M-1グランプリ』よかったなって思うんですよ。全員おもしろかったと思いません?
柴 そうですね。たしかに。
大谷 何がよかったって、作品の発想が新しいかどうかとか、これをやれば正しいとか、そういうことじゃなくて、みんな、その人がやったら一番おもしろいことをやっていた。
柴 そう。正解が一つじゃない感じでしたよね。
大谷 このなりでこの声だったらこの漫才が一番あうよなってことをみんなやってるなって。だから笑いの多様性があった。あれが新しい、あれはつまらないじゃなくて、レイヤーがいっぱいある。そういう意味でもフェスっぽいなと思ったんですよ。
柴 たしかになあ。大谷さんというか、ダイノジはどうだったんですか?
大谷 もちろん、我々ダイノジも今年はバブルでしたよ!
柴 おお! そうなんですか!?
大谷 今年はDJとしての出番がすごかったですよ。いろいろなフェスにも出させてもらったし。あとは『ザ少年倶楽部』というジャニーズの番組で、NEWSのプレミアムショーをプロデュースしましたからね。
柴 NEWSのプロデュース! すごいですね。
大谷 なんせ我々は音楽と笑いをあわせ持ってますから。
柴 おお、不況知らず(笑)。
大谷 「日ハムの大谷がピッチャーとバッターの二刀流なら、ダイノジは漫才とDJの二刀流で!」って言ってたら、ネットに「ラジオとAbema TVの二刀流」って書かれてましたわ。
地上波も呼んで!!!
構成:田中うた乃