「入場規制」が人気のバロメーター
フェスを起点に人気を拡大し、テレビにも意欲的に出演するようなバンドが出てきたのも10年代に入ってからだ。サカナクション、ゲスの極み乙女。、KANA-BOON、[Alexandros]などがその代表だ。
印象的なのは、これらのバンドがテレビ番組で紹介される際、「フェスで入場規制」というフレーズが多用されること。たとえば『ミュージックステーション』(以下Mステ)に初出演する際の紹介VTRなどがそれにあたる。いまや「入場規制」がバンドの人気を示すキャッチフレーズになっているのだ。
なぜフェスでは入場規制が起こるのか?
なぜそれがキャッチコピーになり得るのか?
その理由は、ほとんどのフェスが複数ステージ構成をとっていることにある。しかも、メインステージとそれ以外に明確な序列の差が存在する。特にロック・イン・ジャパンのような邦楽アーティスト主体のフェスでは、毎年繰り返し同じ場所でフェスが行われるため、アーティストがそこを「勝ち上がっていく」構図が可視化される。
出演する側にとって、フェスはいわば戦いの場だ。デビューしたばかりの新人はまずキャパシティ(収容人数)の小さなステージに出演し、そこで喝采を浴びて観客を集めれば、次はより大きなステージにステップアップする。さらにその次はメインステージに立ち、ヘッドライナーを目指す。そうやって出演者がフェスの中で人気を獲得し、ブレイクしていく様子が可視化される。
そして、その時に起きるのが「入場規制」という状況だ。
人気を急激に拡大させているアーティストのステージには、人が殺到し、そのエリアに客が入りきれないという現象が生じる。それは、フェスの来場者にとっては観たいライブを観られないネガティブな状況だが、バンドやそれを応援するファンにとってはポジティブな意味を持つ。なぜならそれは次回のステップアップを確約するものだからだ。
いまやCDシングルの売り上げは、いまや音楽の流行を示す指標としては機能しなくなってきている。特にライブを主戦場にする若手バンドの人気をそこから読み取ることは難しい。その代わり「入場規制」という言葉が、そのアーティストの人気上昇をわかりやすく示すバロメーターになっている。
こうして、00年代から10年代は、フェス文化そのものや、そこで人気を獲得する若手バンドたちが、音楽ファンだけでなく、一般層にまで知名度を広げていった時代と言える。
スマホとフェス中継は好相性
こうした中、音楽番組にフェスの潮流を取り入れることに最も意欲的な姿勢を見せるのがテレビ朝日だ。
Mステにはフェスの現場で人気を拡大した若手ロックバンドたちが多く出演する。2015年には、ハイ・スタンダードのデビュー当時からテレビの地上波には出ないと公言していたKen Yokoyamaが「ロックバンドの格好よさを伝えたい」として出演。本人のブログやSNSでの発信と共に大きな話題を呼んだ。
彼が運営するインディーレーベル「ピザオブデス」の若手ロックバンドWANIMAも、やはりライブの熱気が評判を呼んで人気を獲得し、2016年にインディーレーベル所属でありながらMステ出演を果たした。
また、テレビ朝日は、2013年から東京・新木場で開催されている(2016年からは東京・大阪の二会場に拡大)都市型フェスの「METROPOLITAN ROCK FESTIVAL」(通称メトロック)の主催者の一角にも入っている。
メトロックはフェスと音楽番組の連動を示す一つの好例だ。フェスの開会宣言はMステでタモリと共に司会をつとめる弘中綾香アナウンサーが行った。ラインナップも前述のバンドたちが中心だ。
2016年にはさらに興味深い動きもあった。テレビ朝日とサイバーエージェントの共同出資によりスタートした無料のインターネットテレビ局「Abema TV」が、この年のメトロックのステージの生中継を行ったのである。
7月に行われたサイバーエージェントの決算発表によると、Abema TVのスマホアプリは開局3ヵ月で500万ダウンロードを超えた。その期間の番組視聴数ランキングでは、メトロック生中継の2日目が視聴数157万で1位、1日目が視聴数107万で4位となった。
つまり、2016年に始まったスマホ向けのインターネットテレビ局において、様々な番組を差し置いて最もキラーコンテンツになったのが「フェスの生中継」だったわけである。
音楽シーン全体におけるフェスの影響力が大きくなり、テレビの制作側にとってもそれを無視することができなくなった。そのことも、音楽番組とフェス文化の接近の背景にあると言えるだろう。
次回につづく!