米国の中央銀行、連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を0・25%引き上げた。金融危機後では、昨年12月に続き2回目の利上げだ。
景気が順調に回復しているためで、想定通りの決定である。ただ、政策を決めるメンバーらの、来年中の平均的な利上げ回数見通しが、9月時点の「2回」から、今回「3回」へと増えたため、利上げのペースが早まるとの見方から長期金利や外国為替に影響が出ている。
円が1ドル=118円台と10カ月ぶりの水準まで下落したほか、日本の長期金利も一時0・1%台に上昇した。新興国からの資金流出も進んでいるようだ。
FRBは、国外の経済に与える影響にも目配りしながら、国内経済の過熱を防ぎ、息の長い成長を実現させなければならない。来年、4年目に入るイエレンFRB議長は難しいかじ取りを迫られる。
FRBの政策運営を一段と困難にしそうなのが、トランプ次期大統領の存在だ。同氏のバラマキ的な景気対策、そして中央銀行に対する遠慮のない発言が、金利正常化への道を険しくする恐れがあり、懸念せずにはいられない。
大統領選直後から、米国をはじめ世界の市場で株価の高騰が続いている。当選したトランプ氏が大規模な公共投資や減税の実施を表明しているためだ。
景気刺激効果が期待される半面、インフレやバブルにつながったり、財政が悪化したりする恐れもある。インフレ懸念が高まれば、FRBは利上げを加速し沈静化を試みよう。その時、トランプ氏が自らの政策運営に不都合だと判断すれば、公然と非難してくる可能性がある。
トランプ氏の金融政策に関するこれまでの発言は整合性を欠き、ご都合主義的な色彩が濃い。「FRBは超低金利政策でオバマ政権を支えている」と批判したかと思えば、自分は低金利支持だと発言する。預金者向けには、「事実上のゼロ金利は米国にとって大問題だ」と述べる。
大統領就任後も、金融政策に直接言及するようなら、金利や為替などの市場を混乱させ、FRBのかじ取りを困難にするばかりだ。それは何より米国経済に跳ね返ってくることだろう。
オバマ政権が利上げを阻止し、FRBの独立性を損ねていると、一方的に訴えていたトランプ氏だ。ならば自らがそう受け止められないよう、注意を払うべきだ。
FRBはといえば、政策判断の背景や意図について、これまで以上に丁寧な説明を心がける必要がある。政治から独立して行動していることを市場に明白に伝えることが、政治介入の余地を狭めることになる。