天皇陛下の退位を認める場合、その立法形式が焦点だ。政府が設けた有識者会議は、現在の陛下に限って特別立法による退位を容認する方針という。
高齢化社会が進み、天皇の公務への姿勢も変化する。将来にわたり退位を恒久制度とするための要件を法制化するのは困難との認識で一致した、と御厨貴座長代理は説明する。
この方針は、専門家ヒアリングを終えてわずか2回目の会合後に示された。天皇退位の検討は、プロセスに細心の注意を払い、丁寧な議論が必要である。
専門家16人からのヒアリングでは多岐にわたる論点が示された。退位の賛否は二分され、天皇の役割も「存在するだけで大事」「活動する姿が重要」と認識の違いがあった。
退位を認めない場合の対応は摂政を置くことだが、有識者会議では陛下と公務を引き継いだ皇太子さまの「二人の象徴」が併存するなどの懸念が相次ぎ、退位容認で一致した。
ただし、ヒアリングでは退位をどう実現するかを巡り、皇位継承を定める皇室典範改正で恒久制度化するか、特別立法を制定して陛下一代に限って認めるかで意見が割れた。
皇室典範改正と特別立法のプラスとマイナスを十分に吟味し、議論を尽くしたのかは疑問だ。唐突に意見集約されたような印象を与えれば国民も戸惑うのではないか。
退位を制度化するための普遍的な要件を定める法整備が困難だという点は理解できる。恣意(しい)的な退位をどう防ぐかという基準づくりは難しいとの専門家の意見もあった。
それでも、特別立法を支持した専門家の多くは将来的な皇室典範改正による制度化の必要性に言及した。世論調査でも恒久制度化を支持する意見が多い。
しかし、将来にわたる要件設定が無理とすれば、高齢退位については毎回特別立法で対応しなければならず、皇位継承を定める皇室典範の規範性を損なうとの指摘もある。
陛下は8月のおことばで退位の意向を示唆しており、陛下のみの退位容認は天皇の政治的権能を否定した憲法に抵触するとの指摘もある。これら疑問点の整理も明確ではない。
一代限りの特別立法は政府の方針とされる。有識者会議は来年1月に論点整理を発表する予定だが、その前に政府方針に沿った方向性が示されたことに違和感が残る。
論点整理と並行して国会での議論も始まるが、民進党は皇室典範改正による恒久制度化を求めている。「国民総意」の結論を得るにはより多くの党派の合意を得ることが必要だ。そのためにも国民が納得できる説明を論点整理で示してほしい。