12/19:ねじ最終回に寄せて
遅ればせながら、先日、「ねじの人々」最終回がアップされました。
どうでしたかね、最後は。
ねじを持った方々ともう会えなくなるのは寂しいです。ただ最終回は、僕がこの連載を始めるときに考えていた「哲学」のイメージに近い話が描けた気がします。
そもそも、僕が最初に考えていた「ねじの人々」の一案というのは、クラスにいろんな哲学者が集まってあーだこーだ言い合うという「ヘタリア」的なものだったんです。しかし結局、全然違う感じになりました。プラトン爺とかに名残りが残っていますが。そういうものを描いてもよかったと今なら思いますが、このマンガを書き始めた当時の僕は本当に真面目だったんですねぇw ちょっと気の利いた言葉を探してみんなに知らせてあげよう…みたいなことじゃあ、全然満足できない。自分がどこまで考えられるのか、試してみたかったんです。一応、モンティパイソンの「哲学者サッカー」みたいに、一番美味しいカレーを決めるためにみんながぶつかって侃々諤々みたいな話も考えたんですが、結局ボツになりましたねぇ。ねじの人々は、最近のエンターテインメントのキーワードであるところの「快感」というものからは、かなり離れたお話だったと思います。何しろ、「答え」が出ないんですから。つねにモヤモヤとつかみ所のない話を繰り広げていました。
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ヴィトゲンシュタインという、ねじでは難解すぎて(僕が理解できなかった)取り上げられなかった哲学のスーパースターが自著で言ってました。
「哲学というのは、学説でなくて、活動である。(中略)思考は、そのままではいわば不透明でぼやけている。哲学はそれを明晰にし、限界をはっきりさせねばならない」
つまり、哲学は答えをそのものを見つけることではなく、人間がどこまで世界を理解できているのかを見極めることなのです。それには自分が今まで答えだと思っていたことも含まれます。
この考え方は、僕が大学時代に受けた哲学の授業のガッカリ感の説明でもあります。
「なんだ、哲学の本なんて読んでも答えなんて全然書いてないじゃん。人の出した答えの揚げ足とりをしあってるようにしか思えん。そもそもどうしてこんな難しい言葉で書くんだ?わからせようと言う気があるのか?哲学って非生産的だな」
こういう風に思っていたものです。
しかし、自分がこのマンガとともにず〜〜〜っと考えてみたら、なぜこうなったのか、理解できました。
自分の考えの限界に近い場所では、沢山の答えと、答えにならない無数の考えがシチューのようにぐるぐると漂っています。そんなところで単純な答えを出すことは不可能です。そして、その知覚の境界線では、誰も見たことのない概念に名前をつけるところから必要になってきます。だからこそ、世の中の哲学書というのはひたすら難解で、長大にならざるを得ない。しかも、それをその場所にいない他人が完全に理解することは、おそらく無理です。
世の中の哲学の本はそういう「冒険談」のようなものです。だれも行ったことのない世界に行った人間が不思議な話をする。しかし、その場所は余りに想像を絶する場所なので、話を聞いてもどんな様子か誰にもわからない。
だから、哲学の本は普通の人にはほとんど役に立たないと断言できます。「実存」だの「構造主義」だの「神は死んだ」とか、ある種の道しるべではありますが何の答えでもない。知識として知りたいってだけなら、話は別ですけども。だから僕はこのマンガで哲学思想の説明のようなことには重点を置きませんでした。まあ、マンガの資料ではなんたら哲学入門を一杯使いましたけどw
哲学というものは、何も本も何の勉強も必要なく、今すぐに始められます。自分や、自分の身の回りのことについて、どうして?と考える。それをどこまでもどこまでも考える。ただ、それだけです。それで既に哲学です。壁にぶつかったら、そこでやめても全然いいんじゃないかと。しかし、それでもど〜しても考え続けてしまう人が、初めて哲学の勉強をすればいいんだと思います。
考えるということは、自分の足でのぼる山登りのような世界です。しかも上った先に待っているのは、答えでも何でもなく、自分がいかに知らないかという限界です。そう、哲学とは、答えを知ることではなく、限界を知るということだと思います。ただ、それで終わりでもない。
考える人間は、答えを知り、自分の限界を知り、答えを捨て、その迷いの渦のなかで、なお先に進むために歩を進める。最終回ではそういうものを書きたかったですし、結果的に僕がこのマンガを描くきっかけだったハイデッガー…ハイデッガーが「現存在」とした人間の姿の、ぼくなりの説明になったと思っています。
この最終回も、ここまで付いてきてくれた人たちならきっと伝わってくれるんじゃないかなぁ…とも思います。まあ、伝わってなくても別にいいです。これが答えでも何でもないんですから。ねじの人々は、なの菓子とは違ってブログではフォローしません!もう考えるのに相当疲れましたw…こんな変なマンガについてきてくれた読者の皆さんに感謝します。最終巻は2月発売です。よかったら買ってください。どうぞよろしくお願いいたします。