盆栽として管理されている植物は、施肥や用土の条件がよいためよく分岐し、鉢底を巡って1年から数年で鉢が根でいっぱいになります。
根詰まりを起こした盆栽は、新しい根が伸びにくくなる上に水や空気も容易に入ることができなくなってしまうので次第に元気がなくなり、美しい姿を保つことができません。
水分や養分を吸収できる根の寿命は半年から1年ほどですが、植物は新しい根を伸ばすことによって生命維持しています。
そこで古い土や古い根を取り去り、新しい土に入れ替えることで根の生長を助けようとするのが植え替えです。
ですが植え替えは作業の過程で大切な根を切ることになります。
植物の支持体でもあり、水分や栄養分を体内に吸収する役割をする根を切ることは、植物にとって大手術です。
だからこそ、適切な時期や方法を守り出来るだけ植物に負担のないようにしましょう。
植え替えの時に必要な道具はそんなに多くありませんが、最低限必要なものは用意しておかないと作業が進みません。
必要度は盆栽の大きさなどで違いますが、新しい用土、剪定鋏や針金、フルイなど最低限必要なものから集めるといいと思います。(記載している必要度(★)は参考です)
盆栽鉢には仕立て鉢と化粧鉢があり、化粧鉢には完成樹をいれて飾りますが、仕立て中の樹でも自分の気に入ったものに入れると毎日の管理が楽しくなります。
銘鉢は骨董価値も高く、鉢の愛好家もたくさんいます。
鉢は、高価なものである必要はありません。自作鉢で盆栽を楽しむ人も多くいます。
色や形・大きさ・機能性を考慮して、さらにその樹種や樹形との調和が取れるような鉢を選びます。
一般的な目安としては、樹の高さ3に対して鉢の幅が2の比になるように選ぶのが常識とされています。
入手先は全国の盆栽園や盆栽展の即売、園芸店、ネットオークションや通販などでも見つけることができます。
枝の剪定に使う剪定鋏は、根の整理にも役立ちます。
枝と同様に、根もその切り口を出来るだけ綺麗に切らないと傷み、植え替え後の根の生育が悪くなってしまうことがあります。
直根、主根の剪定などは剪定鋏を使い、出来るだけスパっと切り落としてください。
剪定鋏もいろんなタイプがあり、重すぎたり大きすぎるものは避け、出来れば手にとって使いやすさを確かめてから購入した方がいいです。
高価なものある必要はないのですが、鋏は盆栽道具の中で一番使う機会が多いだけに、メンテナンスもしてもらえるお店でできるだけいい物を持った方がいいと思います。
鉄製やステンレス製があり、ステンレス製の方が軽くてサビも付きにくいので普段使いにいいかもしれません。クラフト鋏もちょっとした枝や根を整理するのに便利です。
針金は整枝の時に使うものですが、肥料を用土に固定したり、植え替えの時には鉢と樹を固定するのに使います。
固定がしっかり出来ていないと、樹がグラグラして安定せず新しい根が生長しにくくなります。
太さは幅広く揃っていますが、小品盆栽ならば0.9mm~1.6mmくらいの太さを目安に揃えておくといいです。
植え替えの固定には比較的太くてしっかり固定できるものを使います。
アルミ線は柔らかく反発力が少ない点で作業がしやすく、焼きなましの手間なしに再利用もできて上級者から針金かけに慣れない初心者でも比較的使いやすいものです。
また、銅線は酸化して錆びやすいので、コーティングしてあるアルミ線があると便利です。
固定などで使った針金を切り離すための道具です。
支点から刃までの距離が短い作りをしていて、テコの原理でニッパーなどとは比較にならないほどよく切れます。
ペンチやニッパーなどでも代用は効きますが、細かい作業にはこの専用の針金切りが役立ちます。
値段は数千円から1万円以上するものがありますが、針金切りも剪定鋏と同様に、できるだけいいものを持っていたほうが使いやすく、長く使えます。
鉢底からの用土の流出を防ぐために使います。
網目のサイズは用土の粒径に合せて選びますが、用土に対してあまり大きいと土がこぼれてしまいますし、反対にあまり細かいと排水性が悪くなってよくありません。
細かいものは避け、荒目の底土を使うなど工夫してください。
ホームセンターなどでは編み目が2.0~2.5mmくらいのものが普通に手に入りますが、これくらいで充分です。
さらに小さい小品盆栽の場合は、使う用土も小粒ですから、市販の底網は使えません。
この場合は、目が小さくて丈夫な素材の網戸の張り替え用ネットが便利です。
網戸の張り替え用ネットを小分けにし、本などの間に挟んで伸ばしておくと使いやすくなります。
ただし強度はないので、ステンレス製の金網もお勧めです。メッシュの細かいものは一部の盆栽園やインターネットでも手に入ります。
洋蘭の植え付けなどで使われるミズゴケですが、盆栽でも取り木や植え替えの後に、用土の固定や保湿保護の目的でよく使います。
植え替え時に剪定した根はとても傷んだ状態です。特に乾燥には弱いので、水で戻したミズゴケを株元に張って湿度と温度を保ちます。
特に小さな盆栽ではこのまま管理し、根の生長を助けます。
暫くすると雑菌が繁殖し緑色に変色してきます。気温が高くなると蒸れて反ってよくないので取り除いてください。
使用前に鋏で細かく切っておくと、取り除くときに根が絡まりにくく安心です。
ミズゴケはそのまま使えますが、保存剤でかぶれる人がいますからゴム手袋を使ったほうがいいでしょう。
名前の通り、盆栽の根を切り離すときに使います。
太い根や、地植えの素材を鉢上げするような時にも使います。
コブ切りでもいいです。
鉢から抜いた盆栽の根をほぐしたり、古い土を落としたりするのに使います。
根じめ用のコテが付いているものもお勧めです。
手作業でも根ほぐしは出来るものですが、病気を患った根の処理や、より入念な作業のためには持っていると何かと便利です。
鉢から抜いた盆栽の根をほぐしたり、古い土を落としたりするのに使います。
手作業でも根ほぐしは出来るものですが、病気を患った根の処理や、より入念な作業のためには持っていると何かと便利です。
根をほぐしたり、鉢移し後に土を詰める際に長宝します。
植え替えの他にも、細かい作業をするのに手元にあると何かと便利です。
わざわざ購入しなくても、焼き鳥に刺さっている竹串を洗って取っておくといいです。
写真の様な取手がある竹串がお勧め。
鉢に土を入れるときに使う道具です。
ステンレスなどの金属製、プラスチック製があり、サイズの揃った土入れがセットで市販されています。
フルイがついているものも売られていて、同時に微塵も取り除けます。
土の大きさを揃えたり、微塵を取り除くためにも使います。
用土はそのまま使うより、ふるいを使って微塵を取り除き、粒径を揃えた方が水はけもよくなります。
また、分けた微塵は保存しておいて、水で団子状に固めたものを取り木した部分にあてがえば、保護剤ともなります。
網目の大きさ別に3~5種類を使い分けるようにすればいいと思います。
植え替え作業の仕上げとして、土の表面をならす時に使います。
大きな盆栽ではよく使われます。
自然な感じに仕上がりますし、作業後の掃除にも使えますから便利なものです。
植物にとって植え替えは大きな負担になりますので、植え替えを行う時期は限られます。
まだ新芽の吹く前の春先や成長期の梅雨頃、病気予防のための秋頃など、樹種により適した植え替え時期があります。
落葉樹や松柏類に代表される常緑樹は、秋から早春にかけて休眠状態になります。
この時期に植え替えをすれば、ダメージを最小限に抑えることができます。
時期は厳しい寒さも和らいで、樹がようやく活動を始めた春の発芽直前(関東では2月中旬~3月上旬)がよいと考えられています。
実際には、新芽が膨らんできた時に植え替えをするのがよいですが、絶対この時期と決めずにそれぞれの樹の状態をみて順番に植え替えます。
冬期の植え替えも出来ますが、寒害の影響も大きいですから発芽前が好ましいです。
梅雨の期間は高温多湿状態で、植物の生育が活発になる時期です。
植え替え後の回復も早いので、寒さに弱い樹種の植え替えには好都合といえます。
ただし蒸散作用も大きいですから、すこしの水切れでも萎えてしまう恐れがありますので注意しましょう。
モミジやカエデなどの葉刈りをする樹種では、葉刈り後に鑑賞鉢などに植え替えることもできます。
バラ科の植え替え時には消毒殺菌をします。
多くはありませんが、春だけでなく秋(9月中旬~10月上旬)頃にも植え替えをしていい樹種があります。
クロマツやシャクナゲ、カリン、カンキツ類(暖地)やバラ科の植物です。
ただし、ボケなどバラ科の植物は根の病気(根頭癌腫病)にかかりやすいので、細菌の活動が低下する冬期を狙って、できるだけ秋の消毒も兼ねて植え替えをしてください。
こうすることで、病気にかかるリスクを最小限に抑えることができます。
ただし、秋に植え替えた植物は通常よりも寒害が大きく出ますから、その後も防寒や保護はしっかり対策しておきましょう。
立ち木の場合は真ん中より左右
どちらかに寄せて空間を作る
特に寄せ植えや立ち木の場合、盆栽を鉢のどの位置にどの角度で植え付けるかで、全体の調和や盆栽の引き立ち方も違ってきます。
直幹の樹をただ中央に植えても、左右対称で幾何学的な印象となり盆栽としてはあまり面白みがありません。
斜幹や吹き流し樹形の樹は、流れの向き側を広めに取って植え付けたり、飾る配置を考えないとバランスが悪くなります。
盆栽は中心より左右どちらかに寄せて植えるか、中心から少しずらして空間を持たせるのが理想的です。
不均等にすることによって空いた空間にゆとりと緊張感の変化がつき、不調和の調和を引き出すことができます。
ちなみに、どちらかに寄せる場合には樹を広い面に傾けたりしてバランスを取ります。
植え替えするときの土は乾き気味の方が根を捌きやすく作業が簡単ですから、前もって灌水を控えておいてください。
また植え替え作業に入る前に鉢を用意し、植え付ける位置や角度の構想を予めじっくり決めておくことも大切です。
鉢は、樹が収まっている鉢から抜いて根を整理してみなければ、思うように入るか分からないので候補を数鉢用意しておくべきです。
すぐに抜ければ問題ないのですが、内縁の鉢に植わったものや、何年も植え替えていないものなど、よく張り詰めた根ほどなかなか抜けません。
鉢を割らないと抜けない場合もあるので、そうならないうちに植え替えできるようにしてください。
残す根を傷めない様に、カマや根切りなどを使って外側から外し抜きます。
根を整理するために余分な土を落とします。
作業の途中で必要な根を傷めないように注意しながら、根ほぐしの道具などを使って丁寧に土を落としてやります。
落とす土の量は、若い木ならば半分~7割くらい、完成樹や老樹なら2割くらいにしておきます。
土を落としたら今度は根を剪定します。土を落とした際に合わせて根を切り揃えてください。
盆栽は細根が多く巡っていますので深く剪定しても枯れることはあまりありませんが、ムレスズメなどのマメ科の根やロウヤ柿などは太根を切ると枯れてしまうことがあります。
予め用意しておいた鉢の底穴に鉢底網を固定し、樹の固定用の針金を下からも通しておきます。
下層にゴロ土を敷き、さらにその上に樹種にあった用土を、中央が山になるように鉢の1/4~1/3位まで入れます。
こうすることで、より根と根の間に用土が入ります。
用土を底に敷いたら、その上に元肥としてマグアンプKなどの緩効性肥料を入れておきます。
効き目がゆっくりで根の張りを良くする元肥として、多くの愛培家の間で植え替えの時に使われている顆粒状の緩効性肥料です。
サイズは大粒、中粒、小粒と揃っています。
マグアンプK・小粒(緩効性肥料)
樹を鉢に入れて位置や角度を決めておきます。
決まったらしっかり抑えて根を土に密着させ、根と根の間に隙間がないように細かいところもみて土を込めていきます。
最初は樹をひっくり返して根を上にし、用土を盛っておくと隙間が減ります。
土を込める時は竹串を挿し混むようにすると作業しやすいです。
土はきちっと入っていないと根の分岐ができず、根が伸びません。
また、固定も不安定になるので樹が鉢から抜けてしまいます。
通した針金で根元を固定します
固定は植え替え作業でとても大事な作業の1つです。
決めた位置に留まるように根元を針金で仮留めし、最後にもう一度締め直します。
固定ができていなかったり、しっかり用土が込められていないと、樹がグラグラして新しい根が伸びずその後の成長に影響が出てきます。
もしもの時の落下事故などで鉢から樹が抜けないように、紐や針金でしっかり固定してください。
針金を鉢底から差し込んで根を固定したり、幹元と鉢を紐で結わえつけて強度を増す方法などがあります。
水につけてたっぷり灌水します
植え替え作業が終わったら、鉢底から水がしっかり抜けるまで灌水してやります。最初は微塵で濁った水もたっぷり灌水しているうちに透明度が戻ってきます。
表面を保護していなければ用土がこぼれてしまいますので、その場合は何度かゆっくりバケツを張った水にドブ漬けしてやります。
最後に、水分の蒸散や土の流出を防止するために、水で戻したミズゴケを根元に張っておきます。
ミズゴケは根付きが安定してきたら1~2ヶ月で取り除きます。
ミズゴケを張って保護します
最後に、湿度・温度の保持や土の流出を防止するために、水で戻して細かく切ったミズゴケを根元に張っておきます。
ミズゴケは根付きが安定してきたら1~2ヶ月で取り除きます。
植え替え後の樹は弱っているので、保護が必要です。
早春ならまだ寒さが残っているのでムロに戻すか室内に取り込みます。
梅雨に植え替えたものは1週間ほどは強い日差しを避けて、徐々に馴らしていきます。
秋に植え替えたものは、冬期にしっかり防寒対策をします。
小品盆栽では、植え替えは基本的に毎年行います。
樹種別の植え替え時期一覧(関東基準)をまとめます。
樹種名 | 植え替えの時期 | 植え替えの間隔 |
---|---|---|
クロマツ | 春(3月中~4月上旬)、秋口(9月中~下旬) | 若木2~3年、成木5~6年 |
アカマツ | 春(3月中~下旬) | 若木2~3年、成木3~4年 |
ゴヨウマツ | 春(3月上~4月上旬) | 若木2~3年、成木3~4年 |
エゾマツ | 春(3月上~4月上旬) | 若木2~3年、成木3~4年 |
ニシキマツ | 春(3月中~下旬) | 若木2~3年、成木4~5年 |
シンパク | 春(3月中~下旬)、梅雨頃(6月中~下旬) | 若木1~2年、成木4~5年 |
カラマツ | 春(3月中~下旬) | 若木2~3年、成木3~4年 |
スギ | 春(4月下旬~6月) | 若木1~2年、成木3~4年 |
トショウ | 春(4月下旬~6月) | 若木1~2年、成木3~4年 |
ヒノキ | 春(3月中~下旬) | 若木1~2年、成木2~3年 |
イチイ | 春(3月中~下旬) | 若木1~2年、成木2~3年 |
コメツガ | 春(3月中~下旬) | 若木2~3年、成木3~4年 |
樹種名 | 植え替えの時期 | 植え替えの間隔 |
---|---|---|
モミジ・カエデ | 春(3月中~下旬) | 1~2年 |
イチョウ | 春(3月中~下旬) | 若木1~2年、成木3年 |
ケヤキ | 春(3月上~4月上旬) | 1~2年 |
ブナ | 春(3月中~下旬) | 2~3年 |
ソロ | 春(3月中~下旬) | 2~3年 |
ハゼ | 春(3月中旬) | 2~3年 |
樹種名 | 植え替えの時期 | 植え替えの間隔 |
---|---|---|
サクラ | 春(3月中~下旬) | 1~2年 |
ボケ | 秋口(9月中~10月上旬) | 1~2年(消毒も兼ねる) | バラ | 2月上旬~3月(バラは芽が動くのが早い) | 1~2年(消毒も兼ねる) |
ツツジ・サツキ | 梅雨頃(6月上~下旬) | 若木1~2年、成木2~3年 |
ロウバイ | 春(3月下~4月上旬) | 2~3年 |
ウメ | 春(3月中~下旬) | 1~2年 |
ハナカイドウ | 春(3月中~下旬) | 1~2年 |
ハナザクロ | 春(4月下~5月上旬) | 2~3年 |
レンギョウ | 春(3月中~下旬)、9月頃 | 1~2年 |
ハナモモ | 春(3月中~下旬) | 1~2年 |
シャクナゲ | 春(4月上旬)か秋(10月中旬) | 2~3年 |
樹種名 | 植え替えの時期 | 植え替えの間隔 (結実をよくする場合) |
---|---|---|
マユミ | 春(3月上~下旬) | 若木1年、成木2年 |
カリン | 春(3月上~中旬)か秋(9月下~10月中旬) | 1年 |
ヒメリンゴ | 春(3月中~下旬) | 1年 |
ミヤマカイドウ | 春(3月上~中旬) | 1年 |
ウメモドキ | 春(3月中~下旬) | 1年 |
ピラカンサ | 春(3月中~下旬) | 1年 |
カキ | 春(3月中~4月上旬) | 1年 |
カンキツ類 | 梅雨頃か、10月(暖地) | 1年 |
東京都世田谷区在住の盆栽趣味者。
自宅ルーフバルコニーで小品盆栽や山野草を愛でています。
初代愛猫『アロ』は天国へ行ってしまいましたが、現在は2代目ネコ2匹を迎えてのんびりと盆栽ライフを楽しんでいます。
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