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【社説】南シナ海で火遊びを続ける中国

トランプ政権はオバマ大統領のようには扱えない

南シナ海で中国に拿捕されたものと同型の無人潜水探査機 ENLARGE
南シナ海で中国に拿捕されたものと同型の無人潜水探査機 Photo: US NAVY / Cmdr Santiago Carrizosa/AFP/Getty Images

 中国が15日に米調査船「ボウディッチ」の目の前で米海軍の無人潜水機を奪ったことは、多くのことを物語っている。中国政府は週末になると潜水機を返還することに同意したが、その一方で米国が「過剰な」反応を示したなどとして批判を展開した。しかし中国海軍による今回の行為は明らかな挑発だ。中国は不法に公海を占拠しつつ、米国が公海自由の原則をどこまで維持する気があるのかを試している。

 今回の奪取は、ドナルド・トランプ次期米大統領が台湾の総統から祝電を受けたことに対する反応だとする意見もある。しかし人民解放軍(PLA)は過去にも同様の挑発を行ってきた。2001年の4月には、PLAのパイロットが米国の偵察機を妨害しようと国際空域で危険飛行を行い、距離の判断を間違えて衝突、自らの命を失った。米軍機のパイロットも中国に緊急着陸を強いられ、10日間拘束されたのちに機体と共に解放されている。

 PLAは2009年3月にも米音響測定艦「インペッカブル」に対し、公海上で嫌がらせ行為を繰り返した。この際も中国船や飛行機による挑発が数日にわたり継続。インペッカブルがえい航する探知装置を、中国の海上民兵が略奪しようと試みるなどした。

 今回の無人機の略奪も、中国政府によるこのような行動パターンの一環にすぎない。これがトランプ氏の行動に対する反応なのか、それともバラク・オバマ大統領に対する最後の挑発なのかは問題ではないだろう。

 中国の姿勢からは、中国が近隣国を脅すことで東アジアの覇権を狙っていることが見て取れる。PLAはここ数週間にわたって台湾や日本の沖縄周辺で爆撃練習を実施し、そこには戦闘機も参加した。日本の自衛隊は2015年に中国機へのスクランブル発進を571回行ったというが、2010年にはその数は96回に過ぎなかった。さらに中国は最近になり領土問題が続く南シナ海に軍を展開している。これは習近平中国国家主席がオバマ大統領と結んだ約束と矛盾している。

 中国はこのエリア近辺を米海軍や空軍が通過することに反対をしてきた。これに対してオバマ政権は定期的に現地を通過するとしていたが、実際は米国防総省に対して通過回数を減らすよう指示している。このことが中国からの圧力に屈して米国が自らの権利を放棄する前例を作ってしまった。

 潜水機の略奪は、トランプ政権が地域でのパトロールを強化すれば米海軍が嫌がらせを受けるという中国からの警告だと考えられるだろう。米軍が海面上では絶対的な軍事力を誇る中で、中国は潜水艦隊を急速に拡大させている。潜水型の探査機は海底を測量して地図を作製し、潜水艦の航海のための海流の調査や探知システムの試験に利用される。

 今回の潜水機の略奪は、フィリピンのスービック湾にある米軍基地から50カイリほどの場で発生した。フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は反米的な姿勢を取るが、海上で事件が発生すれば同国と米国の間に生じた亀裂がさらに広がることも考えられる。中国がそのことに後押しされて略奪を行った可能性もある。米海軍は今後も同様の事件が発生すると考えるべきだろう。

 トランプ氏は中国との経済関係や戦略的パートナーシップを再考するとし、少なくとも現時点では強硬姿勢を取ることを示唆している。そうした中で潜水機の略奪が発生した。最終的にトランプ氏が目指すものは不透明だが、太平洋における米軍のプレゼンスを強化するための海軍再編は実施されるはずだ。

 中国は、今回のような事件を起こせば、トランプ政権をオバマ政権同様に萎縮させることができると考えているのかもしれない。しかし、実際は真逆の反応が返ってくることになるだろう。トランプ氏は経済と安全保障を別物として捉えていない。中国はその状況で火遊びをしている。

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