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幻想学園高等学校 作者:幻想

【プロローグ】

1/1

始まりを告げる予鈴

鳥の囀りが、まるで目覚まし時計のように窓の外から聞こえてくる。
その囀りに耳を澄ませると、意識をした所為か、カーテンから射し込んでくる光に体が反応してしまう。そして、ドアの向こうから女性の声が聞こえてきた。

「セイヤーっ…あんたまだ寝てる訳ー?鍵掛かってなかったから勝手に入っちゃったわよー?」

「新学期早々寝坊助な奴だぜー…」

「あんたが言うな!」

眠気と戦いながらその声に耳を澄ませると、その声は、聞き覚えのある声だった。俺の、幼馴染の…
そんな事を頭の中で考えていた時、部屋のドアが勢い良く開き、俺の寝ているベッドに向かって、足音が近付いてきた。

「ほら起きなさいっ!新学期早々遅刻したい訳っ!?」

「今日は入学式だぜー?それに、待ち合わせに遅れると他の奴等も五月蝿いぜ?」

毛布を剥ぎ取られ、パジャマ姿を晒す俺に、怒鳴り散らす女の子が1人と、言って聞かせようとする女の子が1人。
俺は眠気に負けそうな身体に鞭を打ち、その場でゆっくりと起き上がる。すると、彼女達は朝の挨拶と共に俺の名前を呼び、俺はこう返した。

「「おはよう。セイヤ」」

セイヤ「あぁ…おはよう…」

やる気の無い声で、瞼を擦る動作を加えながら。





俺の名前は水奈月セイヤ16歳。6月24日生まれの高校2年生。血液型はO型。身長は181㎝。体重は64㎏。好きな食べ物は肉じゃが。嫌いな食べ物は漬物。
周りの人達からは、身長の割に痩せ型だ、とよく言われる。だが余り気にした事はない。その理由は、俺は一応、ある人に剣術の指南を受けているからだ。今のこのご時世、剣術などというものは余り役には立たないだろう。だが、肉体的にも精神的にも、何かを志し、高めるというのは自分の成長を肌で感じる事が出来るので、中々に楽しいものだ。

セイヤ「ふぁ〜あ……眠い…」

そんな俺も、遂に高校2年生へと進級する事になった。高校に入学してからこれまでの1年間、本当に色々な事があった。大変な事もあったが、楽しかった事の方がずっと多いだろう。そんな事を実感しながら、俺は自分用の紅茶と、日本茶を淹れる準備を始めた。

「遅かったわね。私の分のお茶は?」

セイヤ「お待たせしてしまい申し訳御座いませんー…ほら、熱いから気を付けろよ。霊夢」

霊夢「ん…」

差し出された湯呑みを受け取り、そのまま口元へと運ぶ女の子の名前は博麗霊夢。
模様と縫い目入りの大きな赤いリボンがトレードマークで、学業の傍ら、博麗神社という神社で巫女をしている本物の巫女さんだ。この幻想町で、博麗の巫女を知らない者は居ないと言われる程の超有名人で、学園でも運動神経、並びに学業の成績は女子の中でもトップクラスの実力を持つ。
霊夢ともう1人の女の子とは幼馴染で、幼稚園の頃からよく一緒に遊んでいる仲だ(腐れ縁とも言うが)。そんなこんなで、高校に入学してからも、遅刻癖の治らない俺の為に、こうしてわざわざ家に訪ねてまで起こしに来てくれるという訳だ。

セイヤ「魔理沙はディンブラのミルクティーな?」

魔理沙「えー…私はアッサム派だぜー…」

セイヤ「我儘言うな!今茶葉切らしてるんだよ!」

魔理沙「ちぇ〜…」

文句を言いながらティーカップを受け取る少女の名前は霧雨魔理沙。
自分の事を魔法使いだと言い張る自称魔法使いで、俺のもう1人の幼馴染でもある。
片側だけおさげにし、前に垂らした金髪が特徴で、私服を着る際には大体魔法使いの帽子のような物を被っている。
性格はかなりの負けず嫌いで捻くれ者、更に自ら進んで面倒事に首を突っ込んでいく物好きでもある。しかし、負けず嫌いの為かかなりの努力家で、勉強以外は大抵の事が出来る(勿論魔法は使えません)。

セイヤ「代わりにフレンチトースト分けてやるから、それで我慢しろ…」

魔理沙「おぉーっ!悪いなセイヤっ!」

盛り付けた2つのフレンチトースト。その1つを魔理沙に分けると約束し、皿を出す為に俺は立ち上がって、キッチンへと向かった。

霊夢「ちょっとセイヤ。私の分は?」

セイヤ「……2人で分けて食え」

霊夢・魔理沙「「はーい♪」」

上機嫌な2人の返事を背に、俺は洗ったフライパンの柄を掴み、IHの電源を入れる。
こうして朝からフライパンを振るうのは、面倒臭くて余り好きではないのだが、腹が減っている状態で学校に行く訳にはいかない。そう自分に言い聞かせ、俺は卵を割り、ボウルの中にぶち込んだ。

魔理沙「それじゃ私はこっち、霊夢はこっちな?」

霊夢「はぁ!?何であんたが大きい方取るのよ!」

魔理沙「私が先にセイヤに貰ったんだから当然だぜ!」

霊夢「普通は正々堂々じゃんけんで決めるべきでしょ!?」

フライパンから聞こえる液体に浸したパンが焼ける音と、背後から聞こえてくる霊夢と魔理沙の言い争う声に顔を顰めながら、俺は火加減を調節した。
しかし、あの2人は家で飯を食って来ないのだろうか。何だか起こしに来るついでに、飯を集りに来ているような気が…

セイヤ「ま、何でもいっか…」

そう呟きながらフライパンでトーストをひっくり返すと、トーストには綺麗な焼き目がついていた。





セイヤ「よし、それじゃあ行くか…」

朝食を食べ終え、食器を洗い、歯を磨いた後、俺は自室で制服に着替え、こうしてまたリビングへと戻って来た。のだが…

魔理沙「あはははははっ!!」

霊夢「ぷっwふ、ふふふっw」

セイヤ「朝っぱらから何観てんだよ…」

どうやら霊夢と魔理沙は、俺が自室に行った時から、録画していたガ◯の使いを観ていたらしい。
制服に着替えている最中、ずっとこの2人の笑い声が聞こえてきてたのはコレか、と俺は心の中で納得した。

セイヤ「はい終了…」

魔理沙「なっ…良い所だったのに」

セイヤ「またいつでも観られるだろうが……っと」

思い立ったかのように、セイヤは部屋の隅へと歩いて行き、仏壇の前に止まる。そしてその場で腰を落とし、手を合わせた。

セイヤ「父さん、母さん。行ってきます」

その姿を見て、霊夢と魔理沙は優しく微笑むと、霊夢はセイヤの右手を、魔理沙は左手を掴み、そのまま玄関の方へと引っ張って行った。
玄関へと辿り着くまでの僅かな距離…その僅かな距離を、セイヤは少女2人に手を引かれ、笑いながら歩いていた。





桜舞い散る通学路を3人で歩きながら、俺は両親を亡くしたあの日の事を思い出していた。
俺の父親と母親は、俺が小学校5年生の春の時に、事故で他界している。事故の原因は、相手の飲酒運転、並びに脇見運転だった。
俺もその際、両親と同乗していたのだが、奇跡的に右目の傷だけという軽傷で済んだ。だが、突如として両親を失い、俺はある人の所に預けられる事になり、両親を失ったショックの所為で、俺は自暴自棄になり掛けていた。

セイヤ「今年も満開だな…」

それからの俺は、霊夢とも魔理沙とも距離を置くようになり、中学へ上がった当初は喧嘩に明け暮れていた。
喧嘩に発展した原因は、事故の際に負った右目の傷…それを隠す為に髪を全体的に伸ばし、右側部分の髪でその傷を隠していたのが、どうやら気に入らなかったらしい。何とも小さい理由だと、今でも思う。
そんな喧嘩に明け暮れる毎日を過ごしていた、雨が降り頻るある日、ボロ雑巾のような姿で壁に寄り掛かかる俺に、手を差し伸べた小さな少女が居た。

魔理沙「お、彼奴らもう着いてるぜ。早いなー」

霊夢「どうせセイヤ目当てでしょ。中学の時から変わらないじゃない」

霊夢の言っている事に?マークを浮かべながら、俺は道の先に居る3人の女性へと目線を向けた。
考え事をしながら歩いていた所為か、思いの外早く着いたように感じるな…

「あら、セイヤ。漸く来たわね。おはよう」

セイヤ「あぁ、おはよう。レミリア」

彼女が、ボロ雑巾のような姿の俺に手を差し伸べた物好きな少女、レミリア・スカーレットだ。
水色の混じった薄い銀髪をしており、真紅のルビーのような瞳を持つ。容姿はまるで小学生だが、本人に指摘すると酷く怒る。そんな彼女は、世界有数のトップ企業、スカーレット財閥のご令嬢で、超が付く程のお金持ちだ。住まいはこの町の外れにある紅魔館という巨大な館に、妹とメイド数十人と共に暮らしている。
性格は尊大かつ我が儘で、非常に飽きっぽいという見た目通り少し幼い思考である。
そして、俺は彼女に手を差し伸べられたその日から、彼女の専属執事として、休日は彼女の住む紅魔館で過ごす事が非常に多くなった。

レミリア「どう?セイヤ。昨日はよく眠れたかしら?」

「お嬢様。お言葉ですが、その言葉の意味は…」

レミリア「あら、貴女が気にする必要なんてないでしょう?咲夜。まぁ、昨夜(ゆうべ)私の部屋で、少し夜更かしをしてしまっただけよ」

咲夜「お、お嬢様のお部屋で…ふふ、2人きりで…よっ、夜更かしっ…」

レミリアの言葉に面食らい、俺の事を横目で流す少女の名前は十六夜咲夜。
髪型は銀髪のボブカットで、揉み上げ辺りから三つ編みを結い、髪の先には緑色のリボンを付けている。彼女がレミリアの事をお嬢様と呼ぶのは、彼女がレミリアとその妹が住む紅魔館で住み込みで働くメイドだからである。通り名は完全で瀟洒なメイドで、年上のメイド達からもさん付けで呼ばれる程の仕事ぶりを見せる。役職はメイド長。
性格は冷静で非常に真面目、主人のレミリアには忠実で、前述述べた通り従者としては非の打ち所がない。だが、天然で少しマイペースな部分も併せ持っている。
因みに、俺は働き始めた当初、彼女が教育係として付いていたのだが、非常に厳しかった。マジ辞めようかと思った。

レミリア「昨夜(ゆうべ)は貴方も、私の事を寝かせてくれなかったものね?その癖、私が寝入ったらさっさと帰ってしまうなんて…」

「えーっ!?お姉様ズルいよっ!何で私の事も誘ってくれなかったの!?」

レミリア「セイヤは【私の】執事なのよ?貴女の執事では無いわ。フラン」

含みのある言い方をするレミリアにしがみ付き、大声で叫んでいる少女の名前はフランドール・スカーレット。レミリアの実の妹である。
金色の濃い髪をサイドテールで纏め、レミリアと同様真紅のルビーのような瞳を持つ。同じなのは瞳の色だけではなく、容姿も姉のレミリア同様かなりちっこい。
性格は自由奔放で無邪気、且つ姉のレミリアよりも我儘で、俺は彼女の我儘によく振り回される。しかし、この性格は現在のもので、以前のフランは、俺が紅魔館の執事となった際、地下室で暮らしており、他者との交流を避ける引きこもりの状態だった。この事については、後日改めて話すとしよう。
そして、ある一件以来、彼女は地下室から出て、他者との交流を求めるようになった…のだが…

フラン「えへへ〜❤︎セイヤおはよ〜❤︎」

レミリア「ちょ、ちょっとフランっ!私のセイヤに許可無く抱き着かないでちょうだいっ!」

何故か俺にだけ、過剰なスキンシップをするようになった。どうして俺にだけ過剰なスキンシップを取るのかと聞いた所、頰を染めながら「秘密…いつか、必ず伝えるから…それまで待ってて…?」と言われてしまったので、俺はそれ以降、理由については言及していない。

魔理沙「朝っぱらから幼女2人に抱き着かれて…」

霊夢「ニヤニヤしてる男は…」

咲夜「誰かしらね…」

セイヤ「あのさ、俺見ながら言うのやめてくれる?」



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