「〝女子アナ〟といっても、あくまでも会社員という立場」
女性アナウンサーが「自分は特別ではないんです、普通の会社員なんです」と弁明しているシーンを数ヶ月に一度は見かけるけれど、そうやって言うからこそ、特別なんだと分かる。そもそも、こちらはそちらに対して「あなたたちって特別じゃないのに、特別だと思ってませんか?」なんて意地悪く尋ねてもいない。いや、意地悪く尋ねる人もいるのだろうけれど、どうにもアンサーの回数がクエスチョンの回数より多い気がする。人の思考回路として、答えを盛んに聞かされることで、知らぬ間にその設問自体にまで慣らされる場合がある。たとえば芸能人がエピソードトークで「最近もう、炎上ばっかりで」と自虐を繰り返すと、あたかもいくつもの案件で炎上していることを問われているように見えるが、実際はひとつかふたつだったりする。回答や説明の連呼が、問いや状況を育ませるのだ。
芸能人に対するイメージというのは極めてあやふやなもので、だからこそ、あるひとつの言動を機にガラリと変わる危険性がある。しかし、あやふやであるからこそ、「こういう風に言われちゃってて困っているんだけど、それってそういうことじゃないんですよ」とあやふやに報告することもできるし、「こういう風に言われちゃってて」の部分を自分で調節できる。競技かるたでは「上の句」から詠んで「下の句」が書かれた札をとるが、いうならば「下の句」から「上の句」を確定させていくような逆転現象が起きる。
加藤綾子アナウンサーが初めて書いた本『あさえがお』の冒頭で「〝女子アナ〟といっても、あくまでも会社員という立場です。常に裏方に徹する役回り」と書く。アナウンサーをADに入れ替えてみて、「〝AD〟といっても、あくまでも会社員という立場です」という文章にしてみても、ほんの一瞬だけだけどあたかもADが特別であるかのように演出できる。「あくまでも会社員」という下の句によって「アナウンサーって特別だと思ってませんか?」という上の句が用意されていく。
古舘伊知郎「加藤アナはノンオイル」
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