超辛口コラムニスト・今井舞
今井舞という「超辛口コラムニスト」と呼ばれることを拒まない物書きがいて、各局のドラマが始まった時期に幾つかの週刊誌で「ブッタ斬り!」と称したレビューを書くのが恒例なのだが、その書き口は漏れなく乱雑である。「超辛口」ならばそれを徹底すればいいものの、世の好評を感知して修正したりする。10月27日発売の『週刊文春』では、『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』について「このタイトル見ただけで、もうヤンヤ言う気は失せるわけだが。」「『シン・ゴジラ』以降、我々は取材を尽くしたリアルをついドラマにも求めてしまうが。『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』には無理だ。諦めよう。」と〝斬って〟いるのだが、そこから1週間と経たない11月1日発売の『週刊女性』では「校閲はあんなことしないとか文句言ってる人がいますけど」「仕事を謳いながらも内容にリアルがないのは織り込みずみの枠なんです」と好評価に切り替えている。自宅に届いた掲載誌を読み比べて、これはさすがにマズイ、いい加減すぎ、とは思わないのだろうか。
『校閲ガール』を上回る評判を呼んでいるのが星野源&新垣結衣の『逃げるは恥だが役に立つ』(以降『逃げ恥』)だが、このドラマについて今井は「合理的な考え方や、周囲の人間との距離の間合いこそ今風で独特だが、しっかりと血肉の通った人間として描かれている」(『週刊文春』)、「〝契約結婚〟という非日常を描きつつ、等身大で感情移入できるような展開になっている。こうやって面白い話を地味にコツコツ作ってくれたら、みんな見るんですよ」(『週刊女性』)と上空から絶賛している。褒めるための語彙がなかなか平凡だし、そもそもこのドラマの魅力が「血肉」や「等身大」にあるとは思えない。考察の締めにある「今後もじわじわと見る人が増えるはずです」は、すでにネットニュースでいくらでも右肩上がりの視聴率が伝えられている中にあって、予想というより事後報告である。
男や女という「生き物」の傾向にすがらない
星野源演じる津崎平匡と契約結婚し、彼の元で働くことになったのが新垣結衣演じる森山みくり。この役どころについて新垣は「ある意味すごく冷静な女性だなって思います。自分ばかり押し付けるのではなく、津崎さんにも 『言ってください』 と、きちんと伝えて、理解しあおうという部分は好きです」(公式サイト)と分析している。恋愛にがっつく女子、あるいは逆にそれを欲しない女子は、ドラマにおけるコミカルな要素の生成装置として乱用されてきたが、このドラマはコミカルを女子の恋から生成しない。むしろ新垣の言う「理解しあおう」が軸となる。粗い言動で女子の恋を盛り立てる男も目立たない。『逃げ恥』では古田新太や大谷亮平、藤井隆といった顔やキャラの濃い男性陣が星野と新垣の特異なシチュエーションや性格を根本から否定しようとはせず、かといってそれを「等身大」と受け入れるわけでもない。ただし「そうはいっても女子ってこうじゃん」という一般論をいたずらに投げない。それは恥ずかしい所作として映し出される(石田ゆり子を誘う岡田浩暉など)。この構成が力強い。
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