2016-12-18

http://anond.hatelabo.jp/20161210194458

実際、名所江戸百景は他の浮世絵よりもちょっと手がかかってる。

普通浮世絵というものは板が5枚以内で作られている。

主版と呼ばれる輪郭線の板は裏をつかわず片面で板一枚、それ以外の色板と呼ばれる板は両面使って4枚8面。

合わせて9版ほど彫る。

それを、複数回摺ったり、版の一部分だけ別に摺ったり、ぼかしの部分だけ別に摺ったり、そんなこんな10数度摺りで出来上がる。

名所江戸百景は、色数もぼかしも滅茶苦茶多い。

人気絵師になった広重からこその特別仕様だったと思う。

当然、図柄の優秀さだけでない点からも、一味違う。

この後、明治大正時代には新版画と呼ばれる、浮世絵テクニックを使って水彩画のような絵を作るムーブメントまで、作品にかかる手間暇は増えていった。

有名なところでの、川瀬巴水画像検索結果を置いておく

https://www.google.co.jp/search?q=%E5%B7%9D%E7%80%AC%E5%B7%B4%E6%B0%B4&espv=2&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ved=0ahUKEwi22_zEyf3QAhWDuY8KHeJjAqgQ_AUICCgB&biw=1280&bih=633

それと、何と言っても凄まじいのが、雑誌だ。

今でも週刊漫画雑誌に時々入ってる、A4サイズミニポスター、あれがすごい。

20度摺りを超える凄まじいものを、刊行に間に合うように、毎月彫って、そして刊行部数の数だけ、要するに何千枚も摺った時代がある。

一番すごいのは、「國華」という美術雑誌で、50~120度摺りの絵が入っていたからというからヤバいを通り越してぞくぞくする。

単純に当時もっとも優れた印刷技術が木版で、人件費が滅茶苦茶安かったからだろうけど、「甘栗むいちゃいました」の甘栗が人力で剝かれてることを知ったときの数倍ビビる

しかし実は、川瀬巴水も、國華も、綺麗だと思うがズキュンとこない。

板にして5枚以内というのは、これ以上省略すると物足りなくなる、これ以上使っても美しさはほとんど上がらない、という極致なんじゃないかと思う。

俳句17文字短歌31文字のようなものだ。

摺りにしたって、少ない版、少ない色数で、いかに画面に奥行きをもたせるか、ピンポイントアクセントを効かせるかが目的だと思う。

例えばこれ、輪郭線、山、空×2の4版しかない。

http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/19/cb/477b20136b0249af2a5453d4defdf91d.jpg

夜の黒から朝日の赤に変わる山肌、透き通るような穏やかな微風の空気感、薄雲の空

おそらく通算で一番売れた浮世絵で、通称富士葛飾北斎の「凱風快晴

最近作られた21版45度摺りのこの浮世絵とくらべてみると、北斎いかに少ない板でいろいろなことを表現する絵師だったか凄さがわかる。

http://www.hobbystock.co.jp/ukiyoe/images/area08_products01_box.png

さて、名所江戸百景の話を戻すと、名所江戸百景は版が多い分、ちょっとうるさいところがある。

浮世絵31文字の通常の短歌だとすると、自由律詩に近いような。

それでも、名所江戸百景が広重最終形であることは否定できない。

浮世絵にハマったころは、「浅草竜山」みたいな、特殊効果をふんだんにつかった豪華な絵が好きだったけど、一周するとやっぱり最高傑作は「大橋あたけの夕立」だと思うようになった。

大橋あたけの夕立」とゴッホの模写

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%E5%A4%A7%E6%A9%8B#/media/File:Hiroshige_Van_Gogh_2.JPG

この絵の主役は雨!

これ、主版(輪郭線の版)だとこんな白けるつまんない絵なんですぜ?

https://www.adachi-hanga.com/staffblog/img/blog/wadai03_09.jpg

かなり値段は張るけど、オークション会場とかに行くと現物を生で手に取れるんで、ぜひ。

手に取って近くでみるとよくわかるんだけど、縦の線と斜めの線。

縦の線はやや太く、斜めの線はやや細く、画面のなかに複数レイヤーが現れて奥行きがヤバい

不安にさせる夕立の暗がり、川の水深の深さ、前後に、左右に、上下に、奥行きギュイーン、俺の心はビンビンビンビン、ウヒョー!

って感じになる。

そりゃゴッホも模写するのわかるわ。

模写ってみたけど、締まりがなくなって、読めもしない漢字で枠をつくってみたのもわかるわ。

右上のタイトルコールと、左下の印一つでキリって締める広重スゲー!ってなって、ベッドでジタバタしたのが想像できるわ。

トラックバック - http://anond.hatelabo.jp/20161218204920
  • [増田お嬢鯖部]

    ウキウキ浮世絵~! ワタクシ!中山道広重美術館に行って参りましたわ。 動の葛飾北斎、静の歌川広重の広重ですわ。 このたびは特別展「絵師広重の歩み 前期」が開催されていて...

    • [増田お嬢鯖部]

      三ヶ月ぶり二度目の中山道広重美術館リターンズですわ! 前回が「絵師広重の歩み」前編で、今回は後編ですわ。 中編なんてありませんでしたわ。いいですわね? 解説を読む読むと...

      • http://anond.hatelabo.jp/20161210194458

        実際、名所江戸百景は他の浮世絵よりもちょっと手がかかってる。 普通、浮世絵というものは板が5枚以内で作られている。 主版と呼ばれる輪郭線の板は裏をつかわず片面で板一枚、そ...

    • http://anond.hatelabo.jp/20160914220045

      版画の色彩というのはちょっと異常なものだ。 デジタル塗りのような均一な塗りが可能なうえに、デジタル塗りのようなグラデーションも作れる。 正しくは、塗るのではなく摺るという...

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん