Steve Nakamura / スティーブ・ナカムラ インタビュー

「きゃりーぱみゅぱみゅ」や「ラフォーレ グランバザール」といった、原宿のアイコンともいえるビジュアルの制作を立て続けに手がけているアートディレクター、スティーブ・ナカムラ。これらの仕事が世の中から注目を集める一方で、彼自身のルーツやキャリアに関しては、いまだ明らかになっていない部分が多い。彼の生い立ちからクリエイティブにおけるこだわり、きゃりーぱみゅぱみゅやラフォーレ原宿のアートディレクションの狙いなどについて、詳しい話を聞いた。

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「ぱみゅぱみゅレボリューション/きゃりーぱみゅぱみゅ」CDジャケット/2012/ワーナーミュージック・ジャパン


現在は日本を拠点に活動されていますが、出身はどちらなのですか?

1973年のロサンゼルス生まれで、両親は日本人です。2歳までロスで暮らし、その後バークレーやサンフランシスコに移り住んだのち、東京に来る前はニューヨークで過ごしました。

グラフィックデザインに興味を持ったきっかけは?

元々絵を描くことがとても好きだったのですが、まわりから「アートはお金にならないからグラフィックデザインがいいのでは」とアドバイスされ、その流れでという感じでしたね(笑)。その後、大学はロンドン芸術大学のセントマーチンズでグラフィックデザインを専攻し、そこでタイポグラフィを学びました。セントマーチンズは有名なデザイナーを数多く輩出していますが、教育方針としては放任主義で、基本的に学校ではほぼ何も教えてくれないんです。自分で考えて動かないことには、何も得ることができない。トナーが切れかかったモノクロプリンタが教室に一台だけというような環境で、「何もないところからどうやっておもしろいことをするか」ということばかり考えていました。毎日のように キンコーズに入り浸ってインディペンデントな作品を制作したり、自分のオフィスのように使っていましたね(笑)。

大学を卒業されてからはどんな活動をされていたのですか?

大学卒業後は、アメリカで映画やグラフィックなどを手がけている会社を転々としていましたね(笑)。日本に来たのは今から10年ほど前です。ちょうどその頃アメリカでインターネットバブルが弾け、景気が大きく傾いたんですよ。そのことが後押しになり、日本で生活するようになりました。日本は独自のおもしろいカルチャーがたくさんあるので、すごく勉強になりましたね。良い意味でも悪い意味でも(笑)。その経験を織り交ぜながら、独自のデザインや映像を創ることを意識し、今は自分なりに充実してます。

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「ラフォーレ グランバザール」広告/2012/ラフォーレ原宿


最近のお仕事として、ラフォーレ グランバザールのキャンペーン『PLAY BUILD』のアートディレクションを担当されていましたね。紙でつくられた洋服や、背景のセットがそのまま映り込んでいるビジュアルが新鮮でした。

アイデアの出発点は、洋服を選んでいろいろな組み合わせをコーディネートするという、ショッピングの風景。ただ、それをそのまま普通の洋服でやってもつまらないなと。そこで、折り紙やダンボールといったチープな素材を使って上品に見せたらおもしろいのではないかと考えました。日本らしさも意識しつつ三種類の衣装をスタイリストと制作したのですが、人形に服を着させる感覚でモデルもキャスティングし、セットのデザインもアトリエのようなイメージで制作しました。

写真もどこか生っぽさが感じられるような独特のトーンですね。

撮影はロンドンのNorbert Schoernerというフォトグラファーに依頼したのですが、特にライティングはこだわりました。単なるビューティを撮ったところでおもしろくないですから、「リファインされたアマチュア感」というか、完璧なものではなく、どこか人間らしさのあるものにしたかった。そのうえで、シャドウが二つ落ちるようにしたり、洋服が立体的に見えるようにライティングを工夫しました。「制作過程がそのまま背景に映り込んでいる」というアイデアは撮影のテスト中に出てきたのですが、現場でいいアイデアを思いついたらどんどん取り入れていくタイプなんです。もちろん、核となるアイデアは固めたうえで、AにもBにも行けるようなプランは用意しているのですが、ガチガチに決め込むというスタイルがあまり好きではなくて。その意味では、アートディレクションに関しては全て任せてくれるクライアントだったので、やりやすかったですね。

「ラフォーレ グランバザール」プロモーションムービー/2012/ラフォーレ原宿


きゃりーぱみゅぱみゅはデビューから最新アルバムの『ぱみゅぱみゅレボリューション』まで継続してアートディレクションを担当されていますね。

きゃりーの場合、彼女自身が世界観を持っているので、アートディレクションとしては彼女のイメージをキープしながら、いかに新しいチャレンジを盛り込むかというところを毎回考えています。可愛さやグロさ、ファンタジーなどのバランスを考慮しながら、行き過ぎないように気をつけていますね。撮影のときも、彼女は自分の見せ方をとてもよくわかっているからポージングのディレクションなどはあまり必要ないし、現場のアドリブもどんどん取り入れています。きゃりーは何をしてもおもしろくなるんですよ(笑)。

ラフォーレ原宿ときゃりーぱみゅぱみゅといえば、どちらも「原宿」を象徴する存在ですよね。

そうですね。ラフォーレ原宿は今も昔も原宿のシンボルですし、きゃりーも今の原宿を象徴するアイコンのような存在。この二つの仕事はたまたま重なったのですが、原宿という場所の「何もないところからおもしろいものを生み出してきた」というルーツが、自分の大学時代の経験とも重なるんです。それだけでなく、原宿のスタイルやカルチャーって単純におもしろいですよね。プラスティックな世界観、プロフェッショナルなアマチュア感とでもいうか。

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「JULIE WITH THE WILD ONES/ジュリー with ザ・ワイルドワンズ」CDジャケット/2010/J-more


スティーブさんのデザインを見ていると、アナログな表現を取り入れたものが多い印象を受けるのですが、何かこだわりはあるのでしょうか。

手を動かしてつくるアナログなことは大好きで、表現にもそうした自分の好みが出ていると思います。セットを組んで撮影したり、ビジュアルとしての文字を自分でつくってしまうことなども多いです。CGは本当に最低限しか使わないですね。60、70年代の音楽や映画が特に好きなので、ここから影響を受けている部分が大きいような気がします。

最後に、今後の展望をお聞かせください。

日本の魅力を多角的に見せられるような仕事がしてみたいですね。今、自分の創ったものがたまたま原宿でたくさん目に入るので、それによってこれからの原宿がどう変わっていくのかがとても楽しみ。今の日本のクリエイティブについては、震災の影響もあると思うのですが、目にするものもコンサバティブになってきている印象を受けます。原宿もそうですが、せっかく日本独自といえるカルチャーがあるんだから、もっとそれを出していった方が良いと思う。人生短いんだから、自分が本当におもしろいと思えるようなことをやったほうが良い気がしますね。



Text_Koji Hiraizumi


 
Steve Nakamura / スティーブ・ナカムラ
アートディレクター/グラフィックデザイナー
1973年ロサンゼルス生まれ。ロンドン芸術大学 セントラル・セント・マーチンズ・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン卒業。おもな仕事に、ラフォーレ グランバザール、パルコ、ナイキ、きゃりーぱみゅぱみゅ、マセラティ広告など。
http://stevenakamura.com/

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