コラム
正恩体制、揺らぐ忠誠…全世帯から「カンパ」
2016.12.18 14:58
【瀋陽=中川孝之、ソウル=井上宗典】北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記が死去し、三男の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が実権を握ってから17日で5年となった。 朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は17日、「核強国の地位を固めた」と正
【瀋陽=中川孝之、ソウル=井上宗典】北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記が死去し、三男の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が実権を握ってから17日で5年となった。
朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は17日、「核強国の地位を固めた」と正恩氏の業績をたたえたが、経済制裁のしわ寄せを受ける住民の間では正恩氏に対する忠誠心の揺らぎも見える。
中朝関係筋によると北朝鮮当局は11月頃から、全世帯から1戸当たり0・7ドル(約83円)を徴収し始めた。正恩氏の軍最高司令官就任5年(30日)など年末行事へのカンパが名目。農家の10日分の生活費を超えるといい、「農民はその日の米にも困っている」と平安北道の政府関係者は親しい中国人に不満を漏らした。
背景には制裁による資金難があるようだ。韓国政府によれば、3月の国連安全保障理事会の制裁後、北朝鮮の外貨収入が2億ドル(約235億円)減少。頼みの石炭輸出に上限が設けられた11月の国連制裁により、更に困窮するのは確実だ。
中朝国境では、北朝鮮の貿易関係者らが「金王朝」への忠誠を示す金総書記らの肖像画バッジを売って小銭を稼いでいる。複数の中国人貿易商によれば、北朝鮮住民らは仲間内で正恩氏を「あのテジ(豚)野郎」と罵倒しているという。
正恩氏は粛清による恐怖政治で内部統制を強化しており、韓国の情報機関・国家情報院によると今年の公開処刑は9月までに64人。エリート層の亡命も相次ぎ、韓国に逃れた脱北者は今年11月に累計3万人を超えた。
中朝関係筋によると、在英北朝鮮大使館公使が8月に妻子と韓国入りした後、北朝鮮当局は外交官らに「海外生活が3年になれば帰国」と命じた。子連れで赴任した場合、自由な暮らしに慣れた子供が帰国を嫌がり、親が亡命を決断するケースが相次いだためだ。
国家情報院は、疑心暗鬼になった正恩氏が精神的に不安定になっているとみる。週に3~4回酒宴を開き、飲むと自制がきかず、暴飲暴食がたたって心臓血管に疾患を抱えた。暗殺を警戒し、視察日程を突然変更したり、毒物や爆発物の探知装置を身辺に配置したりしているという。