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<医療>若年性認知症と「もの忘れ」の違いは?

毎日新聞 12/18(日) 10:00配信

 近年、高齢化の進展とともに認知症患者が増加しています。最近では64歳以下の非高齢者での若年性認知症についても、徐々に注目されるようになってきました。若年性認知症について、中年期に増える「もの忘れ」との違いや早期発見のポイントについて、くどうちあき脳神経外科クリニック院長の工藤千秋さんに聞きました。【ジャーナリスト・村上和巳】

 ◇50歳前後に多い若年性認知症

 厚生労働省が2009年に公表した「若年性認知症の実態等に関する調査結果」によると、若年性認知症の推計有病率は人口10万人当たり47.6人、全国での推計総患者数は3万7800人です。推定発症年齢平均は51歳と活動性の高い年代のため、発症すると、周囲への影響は極めて大きいです。ちなみに女性に比べて男性の方が、患者数が多い傾向にあります。

 高齢者の認知症にはいくつかのタイプがあり、同調査の結果では、若年性認知症で最も多いタイプは脳梗塞(こうそく)などによる脳血管性認知症で全体の4割弱を占めています。次いでアルツハイマー型認知症が全体の4分の1強。今のところ、認知症は根本的に治す治療法はありませんが、早期発見によって、進行を遅らせることや諸症状の改善が可能です。

 ◇ヒトの記憶をつかさどる海馬

 ここで日常生活でありがちな「もの忘れ」について考えてみましょう。例えば会社員の方で、取引先との打ち合わせの予定をすっかり忘れていたということはありませんか? 主婦ならば、スーパーに入ってから、何を買いにきたのか思い出せない、あるいは、買いたい物の一部をすっかり忘れて帰ってしまった、という経験はありませんか?

 このように説明すると、思い当たる方の中には、「えっ、自分は若年性認知症?」と驚く方もいるでしょう。ヒトの記憶は、一時的に覚えておく「短期記憶」と今後のために常時残しておく必要がある「長期記憶」の2種類に分けられます。まず記憶は最初に海馬に入り、短期記憶はそこでとどまり、さらに長期記憶は脳の前頭葉に送られ、蓄積されます。時々、海馬に入った「記憶のメモ」が抜け落ちたり、すぐに取り出せなかったりすることがあります。これがいわゆる「もの忘れ」です。

 ◇周囲が指摘しても思い出せないときは要注意

 取引先との約束や買い物の内容を忘れた場合について、若年性認知症かどうかを見分けるポイントは「忘れた内容を後で思い出せるかどうか」です。先方からの電話や同僚や家族からの指摘で思い出すという場合は、いわゆる「うっかりど忘れ」で、加齢に伴って時々起こる「もの忘れ」の部類と考えてよいです。

 逆に周囲に指摘されたり、時間がたったりしても思い出せない、しかもそのようなことがしばしば起こるという時は、海馬の異常によるもの忘れ(認知症)の始まりである可能性が高いと考えられます。このような場合は、なるべく早期に認知症の専門医への受診が必要です。認知症であっても、治療薬の早期服用などで、過度の進行を防ぐことが可能です。

 ◇予防のカギは規則正しい生活

 一方、加齢によるもの忘れの進行を遅らせるためには、バランスの良い食事と十分な睡眠を取り、規則正しい生活を送ることに尽きます。ここで、若年性認知症をタイプ別にみて最も割合の高い脳血管性認知症については、脳梗塞や高血圧症、糖尿病といった生活習慣病によって血管が痛めつけられ、発生します。つまり、生活習慣病予防のための規則正しい生活はそのまま若年性認知症の予防にもつながるのです。

 ◇糖尿病での低血糖は認知症を引き起こす

 ここでもう一つ注意が必要です。糖尿病について、低血糖になる頻度が高いと認知症になりやすいことが分かっています。糖尿病は、血中のブドウ糖濃度(血糖値)が高くなりすぎる病気で、薬などで血糖値を下げることが標準的な治療法です。ところが、この血糖値を下げ過ぎると、意識消失などを伴う「低血糖発作」が起こることがあります。

 低血糖が認知症につながりやすい理由は、脳の神経細胞の栄養分はブドウ糖だからです。血中のブドウ糖濃度が著しく低下する低血糖の時、脳細胞は栄養不足になります。それが繰り返されれば、脳に異常をきたすのは当然だと考えられます。糖尿病であっても低血糖に陥るほどの極端な食生活の管理や治療は望ましくありません。何事もやり過ぎは良くないということです。

最終更新:12/18(日) 10:00

毎日新聞

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