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彼の見た青空 作者:スニッカーズ
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この青空に約束を

 出水川重工で働く父が、仕事を辞めたのを契機につぐみ寮に入寮した小谷啓太。気弱な性格からあまり馴染めなかった彼だが、寮生達の手厚い保護によって関係が緩和される。ようやくやってきた日常が一人の少女によって覆された。この先どうなるのか、一体誰なのか。本作をプレイされた方なら知っているだろう。そして既存のデータを裏切ることなく物語は進行していく。
 小谷啓太のちょっと臆病で勇気を出す学園生活が今始まる。
 ちゅんちゅん、今日も清々しい朝が来た。僕は小谷啓太こたにけいた。伸びをし、清涼な空気を肺に吸い込んだ。
「んー……、ふぅ」
 つぐみ寮、ようやくここの生活にも慣れてきた。初めは他人と生活なんて不可能だと思っていたけれど。人間の適応能力は偉大だ。
 僕は重い腰を上げて、スリッパを履いた。朝の六時半。もう羽山さんが朝食の準備をし始めている頃だ。羽山さん、本名は羽山海己はやまうみさん。一介の寮生に過ぎないのに、朝晩の食事を担当している。大和撫子の鏡のような人で、小心者の僕は当初、彼女に妙なシンパシーを覚えたものだ。
「やぁ、おはよう」
「あ、小谷君。おはよう、今日も早いね」
 羽山さんは笑顔でそう返してくれる。自分は当たり前で、いつも他人に気を使っている。こちらに振り替える時、控え目な彼女が唯一主張する白のリボンが揺れた。綺麗だな、自然とそう感じた。人知れずひっそりと咲く一輪の花を見るような、そんな儚さに心が惹かれたのだろう。
「どうしたの?」
 羽山さんがこちらを見て、小首を傾げている。実にキューティクル、小動物的しぐさ。いつの間にか見とれていたようだ。僕は慌てて両手を振った。
「ああ、違う違う。あ、いや、鳥に挨拶をしてて……」
 思わず見とれていたなど気障な言葉を言えようはずもない。とっさに出た言い訳も我ながら苦しかった。窓から見えた木の枝は笑いをこらえるように微かに揺れている。
「それじゃあテーブルに運んでくれるかな?」
羽山さんは別段気にした風でもなく、鼻歌交じりで味見をしている。僕は出来上がった料理を運びながら、心の中で息をついた。
 「おっはよー」
 朝食の準備を見計らったかのように、会長(朝倉奈緒子あさくらなおこ)さんがやってきた。
 「お、啓太は今日も手伝ってるのね。感心感心」
 どこぞの社長のような口ぶりである。しかしそこは生徒会長。放つカリスマと貫禄のおかげでまるで嫌味がない。ロングヘアの黒髪はいつ見ても、バッチリ仕上がっている。しかし特筆すべきはその所作である。気品、優雅さ、上品さ、全てを兼ねそろえている。そう、学園では。
 「はぁー今日も日本は大変ねぇ……」
 刺激的な記事でも見つけたのか、そう一人ごちている。頭を掻きながら、新聞を読みふける様はまさに一家の大黒柱。出勤前の父親がそこにいた。
 「おはようございますー」
 「……はよー」
 ハハハ、と会長さんに愛想笑いをする内に残り二人の寮生がやってきた。今年入学する六条宮穂ろくじょうみやほさんと藤村静ふじむらしずさんだ。
 ちなみに初めに愛嬌良く挨拶をしたのが六条さんで、子供のように手を引かれ目をこすりながら追従したのが藤村さんである。六条さんは社交ダンスが似合うようなお嬢様で、とにかく華がある。そして人懐っこい性格で、ここの寮でもすぐに馴染んでいった。ただ多少空気が読めないのと、解説したがる癖が玉にきずと言った所だろうか。
 藤村さんは無色透明というか、無味乾燥というか、捉えどころのない子だ。感情表現が乏しく、話す言葉も拙い。その分性格が素直で、裏表がないといも言える。華奢な体はどことなく子猫を彷彿させる。情の厚いつぐみ寮なので、徐々にだが打ち解けていっているようだ。
 二人は僕の後輩に当たる訳だが、どうもさん付けで呼んでしまう。染みついている下っ端根性のせいだ。別に悪いことじゃないのだからと半分諦めている。
 「静はそろそろ一人で起きられるようにならないとね」
 「先輩、これでも静ちゃんは大分手間が掛からなくなってるんですよ。最初なんて布団にしがみついて離れなかったんです。スッポン顔負けだったんですから」
 「あはは、宮ちゃん、それあまりフォローになってないんじゃない、かな」
 思わず羽山さんも苦笑いだ。藤村さんも不服そうに眉根を寄せた。
 「しず、ちゃんと服着て寝てる」
 「静ちゃん、スッポンはねカメの仲間で―――」
 「つまり月とスッポンってことよ」
 六条さんのスッポン解説を遮ったのは霧島沙衣里きりしまさえり先生。つぐみ寮の寮長であり、保護者的存在である。しかし遅刻の常習犯であり、今日もウェーブがかった亜麻色の髪も所々跳ねている。話の腰を折られた六条さんは、可愛らしく頬を膨らませている。
 「さえちゃん、美味しい所持って行ったわね」
 会長さんが舌打ち交じりで呟いた時、羽山さんがはっと顔を上げた。
 「大変、航を起こさないと」
 言うやいなや、慌てて階段を駆け上がっていく。ちなみに航というのは星野航ほしのわたる君、彼も二年生で羽山さんや僕と同学年。会長さんとは違ったカリスマを放つ存在の人だ。会長さんが優等生とすれば、彼はムードメーカーと言ったところだろうか。生徒達からの評判とは裏腹に、教師からの受けは滅法悪い。完全な問題児、トラブルメーカーのそしりを受けている。
 航君は夜通し自室で騒いでいた。野球拳と思われる気迫の籠った声が響いていた。もし全裸で仰向けに倒れていたらと思うと―――
 「あっ、僕も行ってくる」
 皆は自分の席に座ってヒラヒラと手を振っている。「引きずってでも連れてこい」と血の気の多い注文が背後から飛んできた。

 二階に上がるとにわかに騒がしい。あと五分!と、二度寝の常套句が聞こえてくる。しかしそこは羽山さん、何の疑いもなく承諾したようだ。僕が到着した頃には引き返すタイミングだった。
「あと五分すれば下りてくるって」
 言いながら羽山さんは階段を下りていく。僕はふと違和感を感じた。羽山さんが航君の部屋に入らず、ドアの前で会話をしていたことだ。てっきり朝の生理現象、あるいは全裸で寝ているのかと思ったが、毛布一枚羽織れば事足りる。そもそも付き合いの長さ的に、その程度で狼狽するだろうか。
「どうしたの?」
 下りて来ない僕を不審に思ったのだろう。羽山さんが階下から声をかけてくる。
「あ、ちょっと航君に用事があるんだ。先に行ってて」
「うん、分かった。五分たったら連れてきてね」
 特に用事がある訳でもないのだが、羽山さんはいない方が良い気がした。嘘を付いた負い目からか、他の住人がいないかどうか確認してからドアをノックする。すると明らかに慌てたような物音が聞こえてきた。
「ま、まだ五分たってねえぞ!」
 本気でかくれんぼしているかのような切迫感。鬼気迫る声に少々たじろいだ。
「い、いや啓太だけど、航君。だいじょう―――うわっ、むぐ……」
 何とか声を出す僕を突如手が襲った。その速度は捕食者のそれだった。そして強盗さながらに口を押えられる。僕は何が起きたのか分からず、ムームー唸るしかない。
 少しの間、膠着状態だったが、僕の息が整った時点で解放された。航君はまず非礼を詫び、次に神妙な面持ちで指差した。
「こいつを見てくれ。どう思う?」
 横たわる少女。ショートヘアで出るところが出ている健康的な体つき。運動をしていると思わせるしなやかな肢体だった。問題はそれほどまでにはっきりと体を観察できるということで。
「すごく、犯罪のにおいがします」
 そう、彼女は下着姿だった訳だ。呆れると同時に納得もした。そりゃ羽山さんを中に入れられない訳だ。
「先に断っておくが清廉潔白だ。昨夜の記憶がまるでない」
「飲酒運転は犯罪です」
「……だよなぁ」
 航君は頭を抱えこんだ。とは言え自業自得だけれど。酔った勢いで犯された方は、たまったものじゃないだろう。まぁでも、この爆弾を何とか隠匿せねばなるまい。ここだけ見たら売春一歩手前であることは間違いない。男の比率が著しく低いつぐみ寮において、立つ瀬がなくなることは必至である。
 事後か事前かは重要ではない。問題は散乱する衣類と、下着姿で横たわるこの姿で―――
「とりあえず服を着せよう。それだけでも大分君の生存率が上がると思う」
 僕はジーパンとティーシャツを掲げる。航君はよし来たとばかりに、少女の腰を持ち上げた。ズボンの方はすんなり入る、よし。次は上だ、健康的な胸囲が目に入る。ゴクリ、自然と喉が鳴った。するとおもむろに肩を叩かれた。航君が生暖かい目でこちらを見ている。
「大丈夫だ、まだ慌てる時間じゃない」
 コクリと頷き返す。いや、お前はもうちょっと慌てろよ。立場入れ替わってない?という疑問は後回しだ。僕は少女の天井に向けられた両手だけに集中することにする。そう、不埒な感情は排斥せよ。これは安穏と平静を守る戦いなのだ。手が入る、グッド。頭を通過。よし、もう少しだ―――
「航、大変!これ見て!」
 バンッ!と乱暴に開け放たれるドア。そこには興奮を抑えきれない羽山さんの姿があった。手には湯呑を持ち、湯気が上がっている。指差す手には茶柱が。純真無垢故の悲劇。ゆっくり手から湯呑が零れ落ちる。笑顔から驚愕、失望に変わっていく表情の変化。スローモーションに見えるのは神経の高ぶりのせいか。航君は少女の手を支え万歳させ、僕はティーシャツを掴み、少女の顔がそれに隠れている。実際には着せていく行程なのだが、第三者的には脱がせる最中と捉えるだろう。最悪だ。今をもってレイプの現行犯逮捕である。覆水盆に返らず、湯呑がそれを物語っていた。
 そこからはさらに神速だった。星野航は残像を持って自身の行いを帳消しにし、羽山さんを部屋に引きずり込む。目撃者も殺害するサイコパスのような迷いのなさだった。同時に僕もシャツを一気に着せ、落ちた湯呑とこぼれたお茶を片付ける。健康的な肌や胸に生唾を飲み込む純情さなど、即座にかき消えていた。しかし同時に迂闊でもあった。上体を起こした状態で支えていた手が離れ、地面に衝突する結果となった。
「痛っ!」
 ドサリという音とともに、少女の声が明らかになる。思ったよりもハスキーな声だ。それはともかく目を覚まそうとしている。僕は部屋の押し家れに顔を突っ込んだ。
「おい、啓太。どうし―――」
 羽山さんを懐柔した航君の声は続かなった。パンッという小気味の良い音。平手打ちだ。やはりという思いが強まる。あのボーイッシュな容姿、そしてカジュアルな服装からしてさっぱり女子に違いない。というより激情的でもあるんですね。さあ、急ぐんだ。僕は道具を引っ掴んで、準備に取り掛かる。
「何よあんた、何してんのよ!!あと誰?!」
「な、何もしてない上に聞く前に手出してんじゃねえか!!」
「うるさい、この強姦魔!」
「~~~!!!」
 ああ、寮の皆のことすっぽり忘れてる。航君も売り言葉に買い言葉、頭に血が昇っている。羽山さんは二人を交互に見ながら半泣きだ。オロオロしながら小声で「航ぅ」と呟いている。相変わらず父性本能を刺激する人だ。そしてその時ドアが大きくノックされる。
「航、あんたまた女を連れ込んで!何人の子を泣かせれば気がすむのよ」
 会長さんの声がドア越しに聞こえる。有罪は免れないようだ、相手の声が聞こえてしまっている。航君は追い詰められた逃亡者のように、背中全体でドアを抑えた。焦燥感と緊張感に満ちた目で、僕に救いを求めてくる。その時、僕の行動に合点が言ったみたいだ。ニヤリと口角を上げる。
「大丈夫だ、会長。ちょっと等身大のゴキブリが出てな。今から追い出す所だ!」
「誰がゴキブリよ!」
 僕は思わず噴き出した。あまり隠す気が無いのも航君らしい。先ほどの少女の声はもう窓の外からだ。成功した、僕はゆっくりと窓を閉める。後には走り去っていく少女の姿。見事な手際だった、怪盗さながらの逃走っぷりだ。そしてドアの外から悲鳴があがっていた。六条さんの声だ。冗談にしても醜悪な害虫を想像させるのは辛いだろう。僕はなんとかフォローの言葉を考えようとした。ドアが大きく開かれ、爛々(らんらん)と輝いた目で六条さんが飛び込んでくる。……あれ?
「大発見じゃないですか、先輩!ぜひ見せてくださいー……って、いませんよ?」
 皆の呆れ顔が広がった。つぐみ寮全員集合だ。妙な沈黙を破ったのは、ドラム担当のように箸を一本ずつ持った藤村さんだった。眉間に皺が深く刻まれている。
「ごはん……」
「い、いっけない。遅刻しちゃうよ、皆」 
 その言葉で羽山さんが我に返り、走っていく。残る全員はジト目を航君に向けつつ、しぶしぶ部屋から出ていく。残されたのは男性二人だけだ。僕は窓から垂らされたロープを回収する。
「啓太、今度飯おごるわ……」
 憔悴した航君の声を背後に聞きつつ、僕は右手を上げて応じた。今日も波瀾万丈な一日になりそうだ。縄を巻き上げながら空を見上げる。そこには太陽がさんさんと輝き、天蓋を覆うものはなにもない。つまらなかった過去にも感謝しないといけない。人生いつだって塞翁が馬なんだ。下から呼ぶ声が聞こえる。皆、僕を待っているのだ。さあ、今日も頑張るぞ。僕は挑むように太陽に立ち、大きく伸びをした。

 こんにちは、作者です。初めての投稿、満を持してやってみました。優れた作品に乗りかかり、自分で手心を加えてみたい。その衝動に駆られてのことでした。この青空に約束を、というエロゲーに小谷啓太という少し気弱で臆病な男を入れるとどうなるか。ただそれだけの小説です。カップリング等も何も考えていません。文章を書く練習として始めただけですので、あまり期待せずに読んで頂けたらと思います。
 原作を知らない方でも気軽に読めるようにするつもりです。ここまで読んで頂いた方には心から感謝したいと思います。それでは。
本作の一番最後に記載。のんびりと更新できればと思います。

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