挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマークする場合はログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

予知夢

作者:消す
私が大大大好きな『宵闇堂の黄昏』(https://kakuyomu.jp/works/1177354054880579080)の二次創作です。作者の許可を得ての掲載です。

すごく二次創作がしやすい設定で、ネタを思い付くとすぐに書きたくなっちゃうくらい面白いですよ!
 黄昏時たそがれどき人気ひとけがない住宅街を、僕は一人歩いていた。
 空以外の目に見えるすべてが黒いシルエットと化しており、その輪郭のみが、空の色を写して赤く染められていた。
 空はまだ完全に夜の景色を映してはいないが、今の季節を考えればもう時刻は遅くなっていることがわかる。

 吐く息の白さを確認して遊んでいると、足元に影が射してあるのに気づいた。
 顔を上げる。真正面に人が立っていた。
 顔は逆光で確認できなかったが、彼から伸びた影は異様に長いこと、彼が男性で僕と同じ制服を着ていること、手に何かを持っていることはわかった。

 ──僕に何か用事でもあるのだろうか?

 僕は立ち止まって、相手の出方を窺った。
 すると彼はゆっくりと動き出して、僕に近付いてきた。
 ゆっくり、ゆっくりと近づいて──そして手に持っていた刃物で僕を────

 声も上げられず、僕は仰向けに倒れた。
 僕を見下ろすその顔は、相変わらずよく見えなかった。





「へぇ~、それは面白い夢を見たね」

 茶道部──もとい、茶道部室を不当占拠して作り上げた心霊部の部室で。
 もう時計の針は六時を指していた。そろそろ帰ろうかと腰を浮かせた黄昏たそがれ先輩を引き留め、僕は今朝見た夢の話をしたのだが……。
 黄昏先輩は僕の話を聞いて口の端を歪めた。性格が滲み出ている笑みだった。

 宵闇よいやみ黄昏先輩。彼女はこの手の話が三度の飯より好きな変わり者なのだ。

「面白いって……こっちは不安で朝も起きれないんですからね」
「そこは『夜も眠れない』じゃないのか……?」

 眠りすぎだよ、と黄昏先輩はひとりごちる。

「まあでも、不安になる気持ちはわかるよ。なんたって、正夢って言葉もあるくらいだからね。夢というのは本当に面白い」

 正夢。
 夢で見たことがそのまま現実でも起きてしまう、といった夢のことを指す言葉だっけか。
 それは予知夢とどう区別されているのだろう。二つは、だいたい同じような意味に思われる。ニュアンスの違いか。あるいは、同意語なのかもしれないけど。
 そこら辺、日本語って難しいよなぁ。

 と、そこで先輩が何かを思い出したように、

「ところで、『夢の結末』って話は知ってるかい?」

 なんだろう。覚えのない言葉だ。

「なんです? 小説のタイトルですか?」

 僕が言うと、黄昏先輩が顔を明るくした。いや、不敵な笑みと言ってもいい。先輩の明るい顔は、「黄昏たそ~」がキャッチコピーである黄昏ファンクラブの素人が見ても決していい笑顔だとは思うまい。僕くらいの玄人くろうと(苦労人)でなければ明るい顔だとはわからないのが黄昏先輩の魅力なのだ。そこを理解してるかしてないかでにわかか古参か決定される。まあ、そんなファンクラブはないが。
 そして僕くらいになると、どうして黄昏先輩の顔が明るくなったのかもわかる。自分の好きな分野を知らない人に教えるのは、それなりの快楽が伴うというのは黄昏先輩でなくともほとんどの人間に共通していることだ。

 ……先輩の話だ。

「夢の結末というのはね、都市伝説のひとつだよ。オチの一言が最高にゾッとさせられる。ほら、君も持ってるだろ? 文明の利器(スマホ)を。そいつでググりたまえよ」
「あれ、先輩が語るんじゃないんですか」

 いつもの先輩ならここで饒舌になっているところだが。

「……規約とかいろいろ厳しいからね。それで消えてしまった作品を、私は知っている」
「……?」

 何を言ってるのかはわからないが、とりあえず話を進めよう。

「まあいいや。家に帰ったら調べますよ」
「是非そうしてくれ。あの話は、就寝前に一人で読むのがいい」

 と黄昏先輩が堪らなく嬉しそうに言うので、僕は早速後悔した。こんな顔をしているときの黄昏先輩は、何か企んでいるのが常なのだ。

 僕が一人先輩の腹を探っていると、当の黄昏先輩は部室のドアを開いて僕が気づくのを待っていた。
 僕が慌ててバッグを肩にかけると、

「じゃあ、今度こそ帰ろうか。絶対に見るんだぞ?」
「……はい」

 気乗りしないが、僕はそう返事した。男に二言はないのだ。





 黄昏時の人気がない住宅街を、僕は黄昏先輩と歩いていた。
 空以外の目に見えるすべてが黒いシルエットと化しており、その輪郭のみが、空の色を写して赤く染められていた。
 空はまだ完全に夜の景色を映してはいないが、今の季節を考えればもう時刻は遅くなっていることがわかる。

 なんとなく、今朝見た夢を思い出す。

「どうした? 竜胆りんどうくん」

 僕が夢で見た状況と今の雰囲気を重ねていると、黄昏先輩が少し心配そうな顔を僕に向けた。
 存外、黄昏先輩はこういうところに気がつく人なのだ。

 僕はそれまでの不安とかを振り払って、

「いえ、何でも……」

 と誤魔化した。

「そうかい? なら良いんだが」

 あまり納得していないようだが、黄昏先輩は僕に向けていた顔を逸らして前を見据えた。……もう少し見て欲しかったかも、という雑念はデリート。

「ところで竜胆くん」

 唐突に。
 黄昏先輩がバッグをまさぐりながら僕の名前を呼んだ。

「どうしました?」
「君は、鏡についてどう思う?」

 バッグから取り出したのは、何の変哲もない白い手鏡だった。100均で買ったのであろうプラスチック製の簡単に壊れそうな安物だ。
 先輩は手鏡をチラチラ傾けたりして、色んな角度で自分を見ていた。

 鏡についてどう思うか、といきなり訊かれてもなぁ……。

「景色を映しますね」
「私の胸中をよぉーく考えて発言したまえ」
「あいてっ」

 軽くチョップされた。

 またチョップされてはたまらないので、僕は先輩の好みそうな回答を考える。
 普通の回答じゃだめだろう。先輩は変わったこと、とくに怪談的な話が好きだ。
 じゃあ……。

「朝に見るとたまにバケモノが映ってますね」
「本当か!?」

 先輩が、鏡に向けていた顔を勢いよくこっちに向けて、キラキラした瞳で訊いてきた。
 これについては本当である。というか、僕は誤魔化すことはあってもあまり黄昏先輩に嘘をつかない。

「本当ですよ。朝の鏡にはとんでもないバケモノが映り込みます」

 自分の不細工なしかめっ面がね……。
 うん。嘘はついていない。

 朝限定で、僕の顔面はバケモノです。

「そうか! 今度から私もよく見てみよう!」
「後悔しないように……」

 僕の先輩はバケモノです。……はないか。黄昏先輩は朝でもきっと綺麗なのだろう。
 朝の黄昏先輩かぁ。目が覚めたら起きたばっかりの黄昏先輩がいて──って、どうして僕は寝起きの時点ですぐ近くに黄昏先輩がいる想像をしてるのだろうか。
 恥ずかしくなってきた……。

「どうした? 顔が赤いぞ?」
「えっ!? そうですか!? 夕日の色じゃないですかねー。あっ!そろそろ分かれ道ですよ。じゃ、僕はここで、さようなら!」

 自分でも誤魔化しが下手すぎるのがわかったが、丁度良いところで分かれ道に差し掛かった。やった、これで黄昏先輩の追及を避けることができる。
 僕は、先輩とは違う方向へ足を向けようとした。が──

「待ちたまえ」

 黄昏先輩に止められる。僕は肩に置かれた先輩の手を見、次に顔を見た。
 先輩の顔は、違和感を覚えるくらいやけに楽しそうだった。

「どうしました?」
「ちょっと家に寄っていかないか? 実は見せたいものがあるんだ」
「……見せたいもの? なんですか?」

 嫌な予感がしつつも、僕は訊いた。

「ふふ、それは来てからのお楽しみさ」

 あ、やっぱり何か企んでるやつだこれ。
 嫌な予感はほぼ確信に変わりつつも、僕は断れない。なんだかんだで家に誘われるのは嬉しいし、それに──

 ──惚れた弱み、というのもある。

 夕日に照らされて真っ赤になった黄昏先輩の顔は、何を要求されても即答で了承してしまいそうなくらいには魅力的だった。





 宵闇堂という古物店がある。
 昔ながらの情緒溢れる下町に建っている、まるでそこだけ昭和にタイムスリップしたかのような古物店だ。
 そして、何を隠そう黄昏先輩の家でもある。

「お邪魔しまーす……」

 と消え入りそうな声で、恐る恐る店内に入る。

「ふぅ……。ここまで来たなら安全だな」

 黄昏先輩がバッグを下ろす。
 しかし安全とはどういう意味だろうか?

「それで、見せたいものってなんですか?」
「竜胆くん」

 僕が言い切った瞬間。ぴしゃりと黄昏先輩が言い放った。

「な、なんですか……」
「君、サブリミナル効果って知ってるかい?」
「サブリミナル効果?」

 えーっと、なんだっけか……。
 潜在意識に働きかける……みたいな?

「その様子だと具体的には理解できてないみたいだね」

 僕の内心を見透かしたみたいにくつくつと笑う黄昏先輩。

「こんな話がある。とある映画のフィルムで、五分おきに一コマ、炭酸飲料とポップコーンの絵を挟むという実験を行ったそうだ。フィルムに一コマというのは肉眼ではわからないほど一瞬のことだが、潜在意識が刺激されたんだろうね。その炭酸飲料とポップコーンの売上は急激に伸びたらしい」

 その話ならどこかで聞いたような覚えがある。
 たしか、同じようなことをテレビでやった宗教があって、結果こうした効果を使うことが法律で禁止されてしまったとか。

「ま、この話の信憑性は低いそうだがね。でも極端な例だとこうなる。人の潜在意識──無意識に働きかけるんだ。この方法で商品の購買意欲を高めるような行為は禁止されているくらいだよ」
「で、そのサブリミナル効果がどうしたんですか?」
「さっきから質問に質問で返すようで悪いが……君、今朝の夢は覚えているよね?」

 それはもちろん。
 むしろ、先輩が覚えていて僕が覚えていないことの方がおかしい。

「ええ」
「夢というのはね、記憶の整理なんだ。特に、通常活動時に脳が処理しきれなかった映像記憶とかね──」

 話がどこに繋がるのかが見えない。
 つまり先輩は何を言いたいんだ?

 僕の怪訝な表情を読み取ったのだろう。先輩が結論へ急ぐ。

「例えば、目の端に映ったけど認識はできなかったものとかも、処理しきれなかった映像記憶になるのかな。……つまりね、今朝君が見た夢というのはね、潜在意識が夢で君に訴えていたのさ」
「なんて訴えていたんですか?」

「──背中に気を付けろってね」

 底冷えするような──ゾッとするような冷たい声だった。冷たく濡れた手のひらで背中を撫でられたみたいに、全身の毛が粟立つ。

「さっき手鏡を見ていたときにね、映っていたんだ。君をじっと睨むように立っている男が」

 君、誰の恨みを買っている?

 僕は答えることができなかった。──もし。
 もし。あのとき先輩がそいつに気づかなければ──あのまま一人で帰っていたのなら、僕はどうなっていた?
 そう考えると、とても声なんて出すことができなかった。
黄昏ファンクラブ会員第一号・消す。
手に刃物を持ち、黄昏たその隣にいる男にそっと近寄るという。

おのれ、高菜瀬竜胆……。うらやまけしからん!
死を!

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ