灘高、強みはバラバラ感 いざとなれば一致団結 大西賢・日本航空会長が語る(上)
「東京大学に入るより難しい」と言われる中高一貫の進学校、私立灘校(神戸市)。高い偏差値の一方、自由な校風でも知られ、昔から作家の遠藤周作ら数々のユニークな人材を輩出してきた。日本航空の再建を稲盛和夫氏と二人三脚で担ってきた大西賢会長(61)も、その一人。その大西氏が、経営者としての原点になったという灘校時代の学びとは。
■灘校に入ったのは、縁だった
NHK職員だった父は転勤族で、私も幼いころから中学校まで、国内を転々としました。たまたま高校受験の時に、定年間際の父を故郷の大阪に戻す辞令が出て、灘校受験のチャンスを得たのです。タイミングがずれていたら、灘校には行っていませんでした。
父は間もなくNHKを退職し、もはや引っ越すこともなくなったので、私も生まれて初めて途中で転校することなく、卒業まで同じ学校に通い続けました。ですから、私にとっては、母校と言えば、灘校です。
灘校はもともと、灘の裕福な造り酒屋の子弟のために建てられた学校です。そのユニークな歴史のせいか、昔も今も、個性的で面白い生徒が集まってきます。
入学試験の問題も変わっていて、いわゆる暗記問題はほとんどなく、頭を使って考えさせる問題ばかり。ですから、せっせと受験勉強した人が受かるとは限りません。そこが難関と言われるゆえんかもしれません。
■教科書を持ち歩いた経験がなかった
灘校の授業のシステムは、一人の先生が中学1年から高校3年まで同じクラスを受け持つ、いわゆる持ち上がり制です。例えば、国語だったら、中学入学から6年間、あるいは高校からだと3年間、同じ先生に国語を教わります。
先生も個性派ぞろい。授業では、教科書を使った記憶はほとんどありません。どの先生も自分で作ったプリントや自分の著書を生徒に配り、授業を進めます。文化系の科目の先生は、受験に必要な知識を教えるというよりは、自分の趣味の話をしているという印象でした。
例えば、徒然草が大好きな古典の先生は、いつも喜々として徒然草の話ばかり。そのぶん後で、自分で勉強しなければならないことも多いのですが、詰め込みではなく、生徒一人ひとりに考えさせる授業なので、とても面白く、学ぶ楽しさを肌身で知ることができました。理科系の科目は、最初に理論をササッと教えて、後はひたすら問題集の問題を解くというスタイル。ですから、やはり教科書は持ち歩きませんでした。
先生へのいたずらもよくやりました。例えば、授業直前にクラス全員が教室から抜け出し、先生が来たらもぬけの殻だったりとか、全員でメーカーに電話を掛け、商品の無料サンプルを先生の自宅に山のように送りつけたりとか、男子校の気楽さからか、結構、むちゃくちゃないたずらをしました。でも、それだけ先生と生徒との距離が近かったということだと思います。
■生徒同士は、バラバラでまとまりがなかった
灘校に入ってみて、面白いなと感じたのは、生徒同士が、個性の裏返しで、バラバラなんです。例えば、灘校はテニスなど個人スポーツは結構強いのですが、団体競技は全くダメ。私は小学生の時に水泳で全国の強化指定選手に選ばれるなど、小さいころからスポーツが得意だったので、ラグビー部の顧問を務めていた体育の先生に口説かれてラグビー部に入ったのですが、チームのメンバーは自由奔放すぎてまとまりがなく、対外試合は全戦全敗というありさまでした。
このような灘校の生徒の特徴は、世の中に出てからの生業にもつながっており、灘校のOBが、サラリーマンよりも医師や弁護士、政治家になっている人が多いのも、そうした理由からだと思います。
同期にも個性的な人物がそろっていました。例えば、元ニュースキャスターで現在は神奈川県知事の黒岩祐治さん。彼は集団を嫌う灘校の中ではちょっと変わったタイプで、人を集めて「男だけの演劇部」をつくり、演劇活動に力を入れていました。昔から人前で話すのが得意でした。ロート製薬の山田邦雄会長もユニークな経営で知られていますが、彼も非常に個性が光っていました。
このバラバラな感じの中で過ごした3年間は、今振り返ってみると、非常に貴重な体験だったと思います。バラバラ感は、今の言葉で言えば、多様性、あるいはダイバーシティーです。みんな個性的で、ユニークな考えの持ち主だから、付き合っていても面白い。そして、普段はバラバラでも、先生にいたずらする時や、生徒会が自主運営する名物の体育祭の時などは、一転、一致団結して巨大なパワーを発揮します。その両極端なところが面白かった。
今、日本企業にも人材の多様性が求められていますが、時々、灘校時代を思い出しながら、多様性って大事だなとしみじみ思っています。
インタビュー/構成 猪瀬聖(ライター)
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「リーダーの母校」は原則月曜日に掲載します。
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